【第55回】副業・フリーランスが当たり前に!企業の労務担当者が知っておくべき契約・社会保険・リスク対策を社労士が解説
- 2025年4月15日
- 社会保険労務士による労務記事
- 社会保険労務士による記事,労務基礎知識

目次
はじめに
「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日)において、「労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業を認める方向で、副業の普及促進を図る」とされたことを受けて、平成30年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定されました。これを受け、多くの企業で従業員の副業・兼業(以下、副業という)を認める動きが進んでおります。
副業を促進する中で確認しておくべき点や注意点を社労士が解説します!
副業の方向性
人生100年時代と言われている今、副業はオープンイノベーションや起業の手段でも有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資するとされています。
これらを踏まえると副業理由は業種や職種によって仕事内容、収入など様々であるが、自身の能力を一企業にとらわれずに幅広く発揮したい、スキルアップを図りたいなどの希望を持つ労働者がいることから、こうした労働者については、長時間労働、企業への労務提供上の支障や業務上の秘密の漏洩等を招かないよう留意しつつ、雇用されない働き方も含め、その希望に応じて幅広く副業を行える環境を整備することが重要とされます。
判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許される場合としては、①労務提供上の支障がある場合 ②業務上の秘密が漏洩する場合 ③競業により自社の利益が害される場合 ④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合 とされています。
上記に該当する場合以外は副業を認める方向とすることが適当であるとし、副業を認める企業も増えております。また、前段でお伝えしたように労働者が副業で得た経験やスキルを自社内でも発揮してもらい、労働者の更なる活躍を目的として副業を認める企業もございます。このようなことから、現在副業を禁止している企業は労働者の希望に応じて、認める方向で検討することが求められています。
実際に副業を進めるに当たっては、労働者と企業の双方が納得感を持って進めることができるよう、企業と労働者との間で十分にコミュニケーションをとることが重要です。なお、副業に係る相談、自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いをすることはできませんので注意しましょう。
労働性の有無
副業においては、副業先での労働性の有無がとても重要となります。労働性の有無によって基本は契約形態が変わり、大きく分け労働性がある労働契約と、労働性のない業務委託・請負等契約の2つあります。
労働基準法第9条で「労働者とは事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定められており、労働性の有無は「労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか」と「報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか」の2つの基準によって判断されるとされています。
労働性がある場合は労働契約とし、労働者が雇用主のもとで労働に従事し、雇用主がその対価として賃金を労働者側に支払う約束をする契約を締結し、労働性がない場合は業務委託・請負等契約とし、自社業務の一部を外部の企業や個人事業主に任せる契約を締結します。
注意すべき点は契約の名称問わず、実態によって判断されるということです。業務委託・請負等契約を締結し業務を行っていても、実態が労働性のあるものの場合は労働性があると判断され、労働者とされる場合があります。労働者と認められる場合は後述する労働時間の通算や社会保険等の加入義務が生じる場合があります。
労働者か業務委託かを判断する主な観点としては下記が挙げられます。
労働者
- 業務の進め方に自由度が少ない、指揮命令がある
- 勤務時間、勤務場所に拘束性がある
- 服務規律や福利厚生の適用がある、またPCや必要な備品は会社が用意してくれる
- 報酬が労働時間の長さによって決まる等
業務委託
- 業務の進め方に裁量があり、指揮命令下にはない
- 勤務時間、勤務場所は基本的に自由
- 服務規律や、福利厚生などはなく自前のPC等で作業を行う
- 報酬は、業務のアウトプットに応じて支払われる等
労働時間の通算
労働基準法では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」とされており、副業先で雇用形態に基づいて労働者として働いている場合には労働時間の通算をしなくてはなりません。また、この労働時間の通算は労働基準法の対象外である業務委託やフリーランス、労働時間規制の適用のない管理監督者は通算の対象外となります。
通算されるものは、①法定労働時間 ②時間外労働のうち、時間外労働と休日労働の合計で単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内の要件となります。時間外・休日労働に関する協定書(いわゆる36協定)は事業場ごとに時間が定められていることから、延長できる上限時間、特別条項付きの1年についての延長時間の上限は通算の対象外となります。
通算方法は所定労働時間と所定外労働時間とで異なります。
所定労働時間の通算方法
所定労働時間は契約の締結順に通算します。例えば、A社が時間的に先に労働契約(1日5時間)を締結し、その後B社で労働契約(1日4時間)を締結した場合に所定労働を通算した結果、法定労働時間(1日8時間)を超える場合において超えた時間に対しての割増賃金支払義務があるため、B社は1時間分の割増賃金を支払わなくてはいけないということになります。
所定労働時間の通算:A社4時間+B社5時間=9時間→遅く雇用契約を締結したB社に支払い義務が生じる
所定外労働時間
つぎに所定外労働時間については実際に所定外労働が行われた順に通算します。例えば、A社が時間的に先に労働契約(1日3時間)を締結し当日発生した所定外労働3時間、B社が時間的に後に労働契約(1日3時間)を締結し当日発生した所定外労働1時間した場合は、まず所定労働時間を締結順に足し、そのあとに所定労働が行われた順に所定労働時間を足します。
所定外労働時間の通算:A社3時間①+B社3時間②+A社所定外3時間③+B社所定外2時間=11時間となりますので、A社所定外のうち1時間とB社所定外の2時間は割増賃金の支払いが必要になります。
出典:厚生労働省「副業・兼業における労働時間の通算について」
副業の日数が多い場合や、副業先で働く時間帯が日によって変わる場合、双方において所定外労働がある場合等においては、労働時間の申告等や通算管理において、労使双方に手続上の負担が伴いますが適切な労働管理のため努めましょう。
また、このように副業先が雇用形態で行っている場合は労働時間の通算をしなくてはならないため、現在の副業は業務委託等の非雇用形態で行うことが主流となっており、その場合は労働時間の通算は不要となります。
社会保険
副業先が雇用形態の場合において、副業先で社会保険の加入条件を満たす場合には本業で社会保険に加入しているとしても、副業先でも社会保険に加入しなければなりません。2024年10月からは厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業は以下の要件をすべて満たすパート・アルバイトは社会保険の加入要件を満たします。
①週の所定労働時間が20時間以上
②所定内賃金が月額88,000円以上
➂2か月を超える雇用契約の継続
④学生ではない(休学中や夜間学生は加入対象です)
厚生年金保険の被保険者数が50人以下の場合は1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上である場合に社会保険への加入が必要になります。
同時に2つ以上の事業所で社会保険にする場合は被保険者本人から「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を日本年金機構に提出する必要があります。社会保険料に関しては、それぞれの事業所で受ける報酬月額に応じて按分されます。
出典:日本年金機構「兼業・副業等により2カ所以上の事業所で勤務する皆さまへ」
雇用保険
社会保険と違い雇用保険は、主たる賃金を受ける1つの雇用関係についてのみ加入し、雇用保険被保険者となります。そのため、本業で雇用保険に加入している場合は副業先において雇用保険加入条件(週20時間以上等)に該当しても副業先では雇用保険の被保険者とはなりません。
但し、2022年1月からは複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者は、そのうち2つの事業所での勤務を合計して週の所定労働時間が20時間以上になるなど一定の要件を満たす場合に申出により、雇用保険の被保険者(マルチ高齢被保険者)となることができる制度も開始しています。
安全配慮義務
使用者は労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務『安全配慮義務』を負っております。この安全配慮義務は雇用契約書や就業規則に記載していない場合も当然に使用者が担う責任とされております。「災害を起こす可能性」すなわち「危険及び健康障害」を事前に発見し、その防止対策(災害発生の結果の予防)を講ずることが必要です。
副業に関して問題となり得る場合としては、使用者が、労働者の全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら、何の配慮をしないまま健康を支障が生じてしまう場合があります。
そのため、使用者は労働者の労働時間を適切に把握・管理することが必要であり、長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には、副業を禁止又は制限することができることとしておくことや、副業の内容によって労働者の安全や健康に支障が生じないかを確認し、副業の状況報告等を決めておくことなどが必要とされます。
安全配慮義務のリスクを減らすためには下記を講ずるのがよいでしょう。
- あらかじめ副業の労働時間に制限を設けておく(30時間など)
- 自己管理を徹底していただくことを誓約させる
- 相談窓口を設けておく
- 副業者には過労になっていないかの定期的なヒアリングを行う(半期に一回の人事考課面談のタイミングなどで)
就業規則等の整備
副業を認める場合は就業規則に規定しておくことがよいでしょう。競業禁止や守秘義務等の確認点があるため、原則は許可制を用いることをお勧めします。就業規則には下記を明記しておくのがよいでしょう。
- 副業を認める/行う際には会社の許可を得ないといけない
- 副業を行う場合や許可の申請にあたって、会社に提出すべき書類内容(申請書や誓約書等)
- 競業避止義務・秘密保持義務・誠実義務・職務専念義務に違反するようなものは一切認めない旨
- 自己管理を徹底し、心身不調がある場合は健康相談窓口に相談しなければならない旨
そのほか必要に応じて就業規則に明記するのが望ましいですが、従業員に守ってほしい詳細な項目は申請書や誓約書に明記しておくのが実務的です。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
労働者の希望に応じて副業を認め、推進していく時代の流れとなっております。一方、副業者がいる企業では副業先の形態によっては必要な副業・兼業の労働通算管理が求められており、この通算管理は複雑かつ企業にとっては大きな負担となり、副業・兼業推進を阻害している要因となっていると指摘されております。割増賃金支払にかかる通算管理については、関係法令の解釈変更も含め検討するとされており、今後見直しの可能性があるとされております。
多くの企業はその企業の状況に合わせ、非雇用形態の副業から認めるなどハードルを下げながら副業を許可しています。副業する労働者に守ってほしい注意点など十分にコミュニケーションをとりながら、副業を認めていくのがよいでしょう。
副業を認めることにより労働者のスキルアップ等の可能性を高め、副業で得た知識や経験を本業で発揮し、企業と労働者ともに更なる成長・活躍につなげていただけると幸いです。
執筆者プロフィール

寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士
一橋大学商学部卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2023年11月16日に、弊所社労士大川との共著書「意外に知らない?!最新 働き方のルールブック」(アニモ出版)が発売されました。