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【第51回】治療と就労の両立について

【第39回】障害年金の等級について

目次

はじめに

自身の経験から

我が国におけるがん罹患状況

企業担当者向け:労働者の高齢化と職場の課題

労働者向け:療養生活で役立つ制度と不安な時の相談窓口

おわりに ~がん治療と就労の両立を考える際に参考にしたい資料〜

私たちは、今後の人生において、様々な病気と向き合うことになるかもしれません。

人々は、医療の進歩により、多くの疾患を抱えながらも、長く生きることができるようになりました。それと同時に、病気を抱えながらも働き続けたい、社会参加をしたいと切に願う人々も増えてきています。

今回の記事では、一生のうちに日本人の約2人に1人が診断されると言われている「がん」に焦点をあてながらお話ししたいと思います。

記事の後半部分はがんに限らず様々な疾病により療養する方に共通する部分が多いと思いますので、今後の治療と就労の両立を図るうえで本記事が何らかのヒントになれば幸いです。

私自身、20代で体調を崩し、一定期間仕事ができない時期がありました。

幸い、2~3ヵ月の休職期間の後、徐々に仕事復帰することが叶いました。当時と現在では職や家庭環境は変わったものの、今現在も定期的に通院にて経過観察を受けながら、元気に過ごすことができています。

しかし、体調を崩して突如として働けなくなった当時は、社会保障制度について全く知識がなかったことや、お金の心配よりも病状やプライベートの心配の方が大きかったために、傷病手当金(制度概要については後述させていただきます)の申請にたどり着くことはなく、病気で働けない期間については、残っていた有給休暇を充てて対応してもらったり、足りない分については欠勤扱いになっていました。

もっと休職期間が長引いていれば、傷病手当金を申請するよう当時の勤務先から案内があったのかも、とも思いますが、本来傷病手当金は、業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間の待期の後、「4日目以降」の仕事に就けなかった日に対して支給されるので、私のように休職期間が短期間だったとしても申請する権利はあったのです。

この経験から、「知らないと損する」ということを痛感しました。

この記事を読んでくださっている方の中には「傷病手当金も知らなかったのか」と驚かれた方も多いと思いますが、傷病手当金に限らず、障害年金や障がい者手帳などについても、もらう権利があるにも関わらず「よく知らないから請求していない」という方は多いと思います。

困った時には、一人で悩まずに、周りの人に相談したり、専門の機関に助けを求めるようにしましょう。今回の記事では、いざという時に頼れる相談窓口についても触れたいと思います。

我が国におけるがん罹患状況について確認しておきたいと思います。

下図をご覧ください。男性女性ともに、がんの罹患数は1985年以降から増加し続けています。

出典:がん情報サービス 年次推移 1)罹患数https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html#anchor2

元データ:地域がん登録罹患データhttps://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a17

全国がん登録罹患データhttps://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a14

がん罹患数の増加の主な原因は、人口の高齢化です。

以前こちらの記事(【第18回】働きながらでも障害年金はもらえるの?)で触れましたが、近年の法改正により、企業には65歳までの雇用確保が義務付けられました。

一般的には、年齢が上がるにつれて、がんなどの病気に罹るリスクは上昇していきます。

職場においても高齢化の進展が予想される中で、企業側でも疾病を抱えた労働者の治療と就労の両立への対応がますます重要となってくると思います。

また、一口に「両立支援」といっても、症状や治療方針は個人ごとに大きく異なるので、個々人の事情に応じた配慮が必要になってきます。

治療に伴う就労上の受け入れ態勢を整えるためには、身体的な負担に配慮して業務内容を変えたり、早朝深夜のシフトから外したりなど様々な対応方法がある一方で、本人が病気であることを周囲に隠したい場合もあります。

治療と就労の両立支援を適切に行うためには、本人の病状や通院スケジュールといった疾病に関する情報の取得が必要になりますが、そういった情報は機微な個人情報であるために、事業者が情報を把握した場合、第三者への漏洩防止のためにその管理体制も徹底しなければなりません。

病気になっても(本人が希望する場合に)働き続けられる環境を当たり前にするには、いざという時に相談できる社内窓口を明確にしておいたりと、職場の風土作りが非常に重要です。

企業の担当者が両立支援の進め方などでお困りの場合は、産業保健総合支援センター(さんぽセンター)といった、地域で事業者や労働者を支援する機関に相談することも可能です。

さんぽセンターは、独立行政法人労働者健康安全機構が運営しており、全国47都道府県ごとに設置されています。

社内には有給休暇以外の休暇(病気休暇など)にはどういったものがあるか、短時間勤務制度があるか、テレワークの制度があるか等、もしかしたら現在の就業規則の内容も見直す必要がでてくるかもしれません。

さんぽセンターでは、そういった両立支援に取り組む企業からの依頼を受けて、企業訪問等したうえで両立支援制度導入をサポートしてくれます。まずは各都道府県のさんぽセンターに問い合わせをしてみてください。

参考:独立行政法人労働者健康安全機構 産業保健総合支援センター(さんぽセンター)https://www.johas.go.jp/shisetsu/tabid/578/Default.aspx

治療と仕事の両立支援「ブラック・ジャック篇」https://www.ryoritsushien.johas.go.jp/blackjack/

以下、療養生活を送るうえで知っておきたい制度と、いざという時の相談窓口についてお伝えしたいと思います。

医療保険制度

病気やケガで病院にかかった際の医療費を負担してくれる制度です。

会社員や公務員であれば健康保険、自営業者やお仕事をしていない方であれば国民健康保険に加入しています。保険証を提示することで、医療費の自己負担額は原則3割(年齢や所得によっては1割)になります。もし医療費が高額になった場合は、高額療養費制度を利用することで自己負担額を抑えることができます。

高額療養費制度は、ひと月にかかった医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、その超えた分を払い戻してくれる制度です。年齢や所得に応じて自己負担限度額が設定されています。この制度により、高額な医療費負担を軽減することができますが、制度の利用には原則申請が必要です。

原則申請が必要と言いましたが、マイナンバーカードを健康保険証として使うことで、事前の申請手続きが不要になる場合があります。

条件としては、マイナンバーカードを健康保険証として利用登録していることや、医療機関がオンライン資格確認システムを導入していること、などがあります。

医療機関・薬局の窓口で高額な医療費を一時的に自己負担したり、事前に役所で書類申請手続きをしたりする必要がなくなりますので、詳しくは医療機関や健康保険組合に確認してみましょう。

参考:厚生労働省 カンタン!便利!マイナンバーカードの保険証利用!https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/mainahokensho/campaign2024/index.html

傷病手当金

業務外の病気やケガで働けず、連続3日以上休んだ場合、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。

支給額は、お給料の約3分の2で、最長で1年6ヶ月支給されます。ただし、会社から給料が出ている場合は支給されません。

また、申請には医師の診断書などが必要になります。詳しくは、加入している健康保険組合や各都道府県の健康保険協会、または会社の人事労務担当者に確認してみましょう。

参考:全国健康保険協会 病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/r139

その他の医療費助成制度

その他、指定難病の治療を受ける方や重度障害が残った場合などに、医療費を軽減するために利用できる支援制度(指定難病医療費助成制度、重度心身障害者医療費助成制度、など)があります。また、ひとり親家庭の場合などにも多くの自治体で助成制度があります。

これらは、各自治体ごとに名称や助成内容などが異なる場合がございますので、お住まいの市役所などにご相談ください。

障害年金

病気やケガが原因で障害が残った場合、障害の程度に応じて年金が支給されます。

国民年金や厚生年金に加入している方が対象です。障害等級1級から3級まであり、等級が重いほど年金額は高くなります。

働きながら障害年金を受給する際のポイントについては、以前こちらの記事(【第18回】働きながらでも障害年金はもらえるの?)で取り上げたので、よろしければ参考にしてみてください。

相談窓口について

一定規模以上の病院の場合、ソーシャルワーカーなどが常駐している相談室(名称は医療連携室、患者相談窓口など)があります。こちらでは、多くの場合に治療や生活に関する様々な悩みについて相談に乗ってくれます。

また、都道府県によりますが、病院にがんに関する相談支援窓口を設置し、社会保険労務士による就労に関する相談を無料で実施している場合があります。

参考:茨城県ホームページ 社会保険労務士による就労相談窓口https://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/yobo/sogo/yobo/cancergrop/cawork.html

その他、ハローワークの専門の就職支援担当者が、就労に関する相談を実施している場合がありますので、お住まいの自治体で実施しているか確認してみてください。

参考:茨城労働局 長期療養しながら、働きたいという方へ
https://jsite.mhlw.go.jp/ibaraki-roudoukyoku/roudoukyoku/gyoumu_naiyou/antei/antei/chouki_ryouyou.html

がんと診断された方が、今後の働き方を考える際にぜひ一度目を通していただきたい資料をご紹介したいと思います。

出典:国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターホームページ『診断されたらはじめに見る がんと仕事のQ&A がんサバイバーの就労体験に学ぶ第3版』https://ganjoho.jp/public/qa_links/brochure/pdf/cancer-work.pdf

こちらには、復職後の働き方からお金に関するご質問まで、幅広い項目がQ&A方式でまとめられています。厚生労働省の研究班が実施した「治療と就労の両立に関するアンケート調査」を元にして作成されました。

がん治療と仕事の両立の経験者による実体験を元にしたコラムも多数掲載されていますので、突然の病名告知や治療方法の選択、仕事の引き継ぎや私生活の段取りなど課題が山積みの状況でお悩みの時、今後の生き方を考えるうえで、何か良いヒントになればと切に願います。

まずはお気軽にご相談してみませんか

執筆者プロフィール

松本先生

松本 恵梨(まつもと えり)

茨城県出身。
明治大学卒業後、金融機関に勤務。個人ローンや法人融資を担当。

その後、体調を崩し一時期入院。入院中に目にした「社会保険労務士による仕事の相談窓口」のチラシをみて、社会保険労務士の仕事に興味を持った。

結婚・出産・離婚を経て、シングルマザーとなった後に社会保険労務士の資格を取得。
株式会社TECO Designに入社し、クラウド勤怠管理システムの設定代行チームに所属。

現在は障害年金専門の社会保険労務士として開業。人々の支援に力を注いでいます。

まつもと社会保険労務士事務所

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