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【第50回】2025年育児介護休業法改正とその対応について社労士が解説

【第34回】パートの雇用保険加入要件と適用拡大を解説

目次

はじめに

主な改正内容

2025(令和7年)年4月1日~改正事項

2025(令和7年)年10月1日~改正事項

次世代育成支援対策推進法の改正

おわりに

はじめに

2025年4月以降、男女ともにより一層育児介護と仕事を両立できるよう、育児期の柔軟な働き方を実現すること、および介護離職防止を目的として育児介護休業法が改正されます。

厚生労働省の雇用均等基本調査において男性の育休取得率は、2022年度は17.13%であったものが2023年度は30.1%になり、過去最高の伸び率となりました。

この背景として、2022年10月に出生時育児休業(産後パパ育休)が創設されるとともに、育児休業の分割取得などが可能となったこと、制度を後押しするための各種助成金の給付もなされたことで、育児休業への取り組みが一気に加速したことが理由として挙げられます。

今回の改正では、育児休業の男女格差を緩和し、労働者が希望すれば育児休業を取得できる制度・環境を作ること、出産後の雇用継続割合をより増加させることを目的とした大幅な改正が行われます。

今回は、2025年4月1日から段階的に施行される育児介護休業法の改正ポイントと必要な実務対応について解説いたします!

主な改正内容

これまで育児休業や介護休業制度及び職場復帰後の育児短時間勤務については活用が進んできましたが、今回の改正は特に育児期に子どもの年齢に応じて柔軟な働き方を実現するための措置を拡充し、出産だけでなく育児期についても仕事との両立を可能としていく施策となっています。

また、これまで育児休業について事業主に義務づけられていた制度の周知や雇用環境の整備について介護休業にも展開されており、深刻な人手不足のなか介護離職を予防するための施策が強化されていることも今回の法改正の特徴です。

それぞれの詳細を見ていきましょう。

2025(令和7年)年4月1日~改正事項

1. 子の看護休暇の見直し

    義務:就業規則等の見直し

    テーブル

自動的に生成された説明

    現行では、小学校就学前の子を養育する労働者が申し出た場合、ケガ・病気の子の世話または、子どもに予防接種・健康診断をうけさせるために、1年度につき5日の子の看護休暇が取得できます

    今回の法改正によって、対象となる子の年齢が小学校3年生修了まで拡大されるとともに、感染症による学級閉鎖になった場合の子の世話と入園(入学式)、卒園式への参加のためにも取得できるようになりました。

    この場合、証明書類の提出を求める場合は、事後の提出を可能にするなど過度な負担への配慮をすることが厚生労働省告示第286号において求められております。

    また、日雇い労働者を除き対象となる子を養育する労働者が取得できるものの、労使協定を締結することによりこれまでは週の所定労働日数が2日以下の労働者と、入社6か月未満の労働者を除外することができましたが、法改正により労使協定を締結した場合であっても入社6か月未満の労働者を除外することができなくなります。

    具体的な対応としては、就業規則または育児介護休業規程の改定と、新たな労使協定の締結が必要になります。

    2.所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大

      ※義務:就業規則等の見直し

      現行では、3歳未満の子を養育する労働者が申し出た場合、事業主は事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させる(残業)ことができません。

      今回の法改正によって、所定外労働の制限の対象が小学校就学前の子を養育する労働者まで拡大されます。

      制限の対象は拡大されましたが、制限が可能となる期間については1回につき、1か月以上1年以内の期間と変更はなく、また労使協定の締結により除外可能な対象者にも変更はありません。日々雇い入れられるものは請求できませんが、期間雇用者は請求できます。

      具体的な対応としては、就業規則または育児介護休業規程の改定が必要になります。

      3.短時間勤務(3歳未満)の代替措置にテレワークを追加

      ※選択する場合は就業規則等の見直し

      テーブル

自動的に生成された説明

      短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる具体的な業務がある場合に限り、労使協定を締結したうえで代替措置を講ずることが必要ですが、今回の改正ではその代替措置にテレワークが追加されました。

      しかし、そもそも短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務というのは、例えば国際線のフライトアテンダントや流れ作業による製造業務等、いったん業務が開始したら終業まで途中で入れ替わることが難しい業務といったものが対象であり非常に限定されます。

      多くの企業ですでに短時間勤務制度自体を導入済みと考えますので、現在短時間勤務制度を導入済みの企業では具体的な対応は不要になります。

      4.育児のためのテレワーク導入

        ※努力義務:就業規則等の見直し

        本改正により3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化されます。もし、自社で実施したい場合は就業規則または育児介護休業規程の改定が必要になります。

        5.育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大

          ※該当する場合義務

          現行では、従業員数が1000人超の企業に公表義務が課されていますが、今回の改正で従業員数300人超の企業に公表義務(育児休業には、産後パパ育休を含む。)が課されます。

          ここでいう従業員数とは、期間の定めなく雇用されている者及び過去1年以上引き続き雇用されている有期雇用労働者または雇い入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれるものをいいます。

          <公表内容>      

          男性の「育児休業等の取得割合」または「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のいずれかを公表します。

          テキスト, 手紙

自動的に生成された説明

          6.介護休暇を取得できる労働者の要件緩和

            ※義務:就業規則等の見直し

            現行では、要介護状態にある家族の介護を行う従業員は対象家族1人につき1年間に5日、2人以上の場合は1年間につき10日を限度として介護休暇を取得できます。

            介護休暇を取得できる労働者は日雇い労働者を除きますが、労使協定を締結することによりこれまでは週の所定労働日数が2日以下の労働者と、入社6か月未満の労働者を除外することができました。

            今回の法改正により労使協定を締結した場合であっても入社6か月未満の労働者を除外することができなくなります。

            具体的な対応としては、就業規則または育児介護休業規程の改定と、新たな労使協定の締結が必要になります。

            7.介護離職防止のための雇用環境整備

              ※義務

              もともと2022年の育児介護休業法改正により育児休業・産後パパ育休に関して、下表の雇用環境整備事項と同様な措置をおこなう義務が始まりましたが、今回の改正により、育児休業等に加え、介護休業や介護両立支援制度等(①介護休暇に関する制度②所定外労働の制限に関する制度、③時間外労働の制限に関する制度④深夜業の制限に関する制度⑤介護のための所定労働時間の短縮等の措置)についても、申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下の①~④いずれかの措置を講じなければならなくなりました。

              2022年の育児休業法改正での育児休業を取得しやすい雇用環境整備でも②の相談窓口設置を選択した企業が多く見受けられましたが、その場合は今回も②とすることが簡便な対応と考えます。

              8.介護離職防止のための個別の周知・意向確認等

                ※義務

                (1)介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、事業主は介護休業制度等に関する以下の事項の周知と介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を、個別に行わなければなりません。

                個別周知と意向確認は原則面談(オンラインも可)か書面交付で行う必要があります。

                (2)(1)に加えて、労働者が介護に直面する前の早い段階で、介護休業や介護両立支援制度等の理解と関心を深めるため、事業主は介護休業制度等に関して上記の周知必須事項と同じ内容について

                ① 労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間)

                ② 労働者が40歳に達した日の翌日(誕生日)から1年間 

                のいずれかのタイミングで情報提供しなければなりません。

                情報提供は面談(オンラインも可)、書面交付、労働者が希望した場合はFAX・電子メール等のいずれかで実施します。

                9.介護のためのテレワーク導入

                  ※努力義務:就業規則等の見直し

                  本改正により要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化されます。もし、自社で実施したい場合は就業規則または育児介護休業規程の改定が必要になります。

                  2025(令和7年)年10月1日~改正事項

                  10.柔軟な働き方を実現するための措置等

                    ※義務:就業規則等の見直し

                    (1)育児期の柔軟な働き方を実現するための措置

                    本改正により3歳以上、小学校就学前の子を養育する労働者に関する柔軟な働き方を実現するための措置について、下記の柔軟な働き方の中から2つ以上の制度を選択して設ける必要があります。

                    その際、従業員代表等からの意見聴取が必要になります。

                    なお、意見聴取の方法には特段の制限はなく、かつ意見通りに制度を入れる義務はありません。なお、労働者は事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。

                    テキスト, 手紙

自動的に生成された説明

                    各選択肢の詳細

                    ①始業時刻等の変更:フレックスタイム制または時差出勤制度 

                    ②テレワーク等(10日/月):原則時間単位で取得可能としなければなりません。なお、a.1週間の所定労働日数が5日の労働者については、1か月につき10労働日以上とし、b.1週間の所定労働日数が5日以外の労働者についてはa.の日数を基準としてその1週間の所定労働日数に応じた労働日とすることとされています。 

                    ③保育施設の設置運営等:保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与をするもの(ベビーシッターの手配および費用負担など)ただし、こども家庭庁の「企業主導型ベビーシッター利用者支援事業」の「ベビーシッター派遣事業割引券」については、事業主は当該割引券の発行や割引券の精算手続き等に係る費用を負担するものの、当該負担は「ベビーシッターに係る費用」の負担とは異なるものであるため、便宜の供与に該当せず、措置されたものとは認められないとされています。 

                    ④養育両立支援休暇の付与(10日/月):原則時間単位で取得可能としなければなりません。ただし養育両立支援休暇は無給で問題ないとされています。 

                    ⑤短時間勤務制度:一日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含むもの    

                    (2)柔軟な働き方を実現するための措置の個別の周知・意向確認

                    3歳に満たない子を養育する労働者に対して、子が3歳になるまでの適切な時期(1歳11か月に達した日の翌々日~2歳11か月に達する日の翌日まで)に、事業主は柔軟な働き方を実現するための措置として(1)で選択した制度(対象措置)に関する以下の事項の周知と制度利用の意向の確認を、個別に行わなければなりません。 

                    個別周知と意向確認は原則面談(オンラインも可)か書面交付で行う必要があります。

                    テキスト

中程度の精度で自動的に生成された説明

                    11.仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮

                    義務

                    (1)妊娠・出産等の申出時と子が3歳になる前の個別の意向聴取

                    本改正により、事業主は、労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た時と、労働者の子が3歳になるまでの適切な時期(1歳11か月に達した日の翌々日~2歳11か月に達する日の翌日まで)に、子や各家庭の事情に応じた仕事と育児の両立に関する以下の事項について、労働者の意向を個別に聴取しなければなりません。

                    なお意向聴取は原則面談(オンラインも可)か書面交付で行う必要があります。

                    テキスト, テーブル

自動的に生成された説明

                    配慮の例として下記が例示されています。

                    • 自社の状況に応じ勤務時間帯
                    • 就業の場所、業務量の調整、両立支援制度の利用期間等の見直し、労働条件の見直し等

                    また、配慮にあたって望ましい対応として下記が例示されています。

                    *子に障害がある場合、医療的ケアが必要な場合で希望があれば、短時間勤務制度や子の看護等休暇等の利用可能期間を延長する。

                    *ひとり親家庭の場合で希望があれば、子の看護等休暇等の付与日数に配慮すること。

                    テキスト

自動的に生成された説明

                    (③~⑧資料:厚生労働省・都道府県労働局雇用環境・均等部(室)令和6年11月作成リーフレット№17より抜粋)

                    次世代育成支援対策推進法の改正

                    育児介護休業法の改正とあわせて、次世代育成支援対策推進法でも育児休業に関する状況把握や数字目標設定を義務付けることで、一体的に仕事と育児を両立しやすい環境を整備します。

                    ①令和7年(2025年)までとなっていた法律の有効期限が、令和17年(2035年)3月31日までに延長されます。なお、くるみん認定制度も継続されますが、認定基準の一部が見直される予定です。

                    ②従業員数100人超の企業に対すて、一般事業主行動計画策定時の下記事項が義務化されます。(従業員数100人以下は努力義務)※施行日以降に開始(または内容変更)する行動計画から義務の対象となります。

                    ③計画策定時の育児休業取得状況(男性の育児休業等取得率とする予定)や労働時間の状況(フルタイム労働者1人当たりの各月ごとの時間外労働及び休日労働の合計時間数等とする予定)の状況(PDCAサイクルの実施)

                    ④上記における数値目標の設定

                    おわりに

                    いかがでしたでしょうか。このほか、育児休業給付の給付率の引き上げ(出産後休業支援給付金の創設)や育児時短就業給付の創設など、2022年以降大幅な改正が行われます。

                    今回の改正は事業主が子育て中の従業員の生活をより理解し、特に3歳以降や小学校就学後の時期においても、それらをサポートすべく就業対応措置を行うことが多く盛り込まれている点もポイントと考えます。

                    育児介護休業規程の改定や労使協定の締結など、今回の改正により必要な社内対応をリストアップし、早めに準備を始めていただくとともに、職場全体で改正内容を共有することでお互いの立場を慮りながら企業活動が活性化することが望まれます。

                    執筆者プロフィール

                    寺島先生

                    寺島 有紀
                    寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士

                    一橋大学商学部卒業。
                    新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
                    現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

                    寺島戦略社会保険労務士事務所

                    2023年11月16日に、弊所社労士大川との共著書「意外に知らない?!最新 働き方のルールブック」(アニモ出版)が発売されました。

                     

                     

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