【第47回】障害年金請求を社労士に依頼した場合の流れと依頼のメリット・デメリット
- 2024年12月11日
- 社会保険労務士による労務記事
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目次
はじめに
障害年金は、病気やケガによって障害を持つことになり、日常生活や仕事が難しくなった方たちを支援するための制度です。
しかし、その請求手続きはとても複雑です。そのため、自分で手続きを進めようとしたが難しくて途中でやめてしまった、といった話も耳にします。
また、治療をしながら、お仕事を継続されながら、ご家庭の事情を抱えながら等、複雑な障害年金の手続きをご自身で行うご苦労はいかばかりかと察します。
このように、もし個人で手続きを行うことが難しい場合は、社会保険労務士(社労士)に依頼することが可能です。
この記事では、障害年金の請求を社労士に依頼した場合の流れを簡潔に解説し、依頼のメリットや注意点についてもご紹介していきます。
1. 初回相談:社労士への問い合わせと確認事項
障害年金の請求を検討している方は、社労士事務所に問い合わせ、初回相談を行います。
ここで一つ注意したいのは、多くの社労士事務所では主に顧問先の社会保険手続きや給与計算、労務関係の相談業務など中心を行っていることが多く、障害年金の相談には対応していない、というケースがあります。(もちろん、社労士同士のネットワークがあるので、最初に問い合わせした社労士から障害年金請求が得意な社労士に繋いでもらえる、といったこともあります。)
そのため、障害年金の請求に力を入れている社労士をホームページなどでご自身で情報収集する必要があります。
ちなみに、初回相談にあたって、以下のような項目を確認されることが多いです。
- お名前
- 生年月日やご年齢
- ご住所
- 電話番号
- 傷病名
- 初診日
- 初診時に加入していた年金の種類
- その他、現在の症状などを
障害年金の相談が可能な社労士事務所の多くは、初回相談を無料で提供しています。初回相談では、これまでの通院歴や生活状況等についてヒアリングを行うほか、障害年金の請求手続きの流れや、ご自身の傷病が障害年金の対象になるのか、などを確認できます。
ここで必ず確認したいのが、社労士に依頼する場合の「費用」です。
社労士の報酬は、事務所や申請の種類、地域等によって異なりますが、一般的な料金体系としては「着手金+成果報酬型」であることが多いと思います。成果報酬型は、年金が受給できた場合にのみ報酬が発生します。成果報酬型の場合、審査の結果、残念ながら不支給となってしまった場合には、社労士に報酬を支払う必要はありません。
前述の通り、お手続きの流れや費用面などを確認し、面談の結果、料金やサポートの内容等について双方合意した場合に、業務委託契約書、委任状などの必要書類にサインをしていただき、契約になります。
「着手金+成果報酬型」の料金体系の場合、契約書の提出および着手金の支払いをもって契約が成立する、といったケースが多いと思います。
また、障害年金の手続きを進めるためには、いくつかの条件があります。詳しくは以前の記事(【第12回】障害年金の奥深い世界と手続きのポイント)をご参考にしてみてください。
抜粋として、以下のような条件が満たせていない場合には、入り口の段階で手続きそのものが進められなくなる可能性がありますので、ご注意ください。
それは、保険料の納付要件です。
障害年金の請求にあたっては、「初診日の前日時点」での保険料の納付要件を満たしている必要があります。障害年金請求における「初診日」とは、病気やケガのために医師や歯科医師に初めて診察してもらった日のことをいいます。国民年金、厚生年金などに加入している間に「初診日」があることを証明する必要があります。
そして、「初診日の前日」時点で保険料納付要件を満たしていない場合(未納が多い場合など)は、手続きそのものができません。もし過去に国民年金保険料の未納期間が多く、納付要件がご心配な場合は、依頼をする社労士にその旨伝えておくと良いでしょう。
手続きの進捗状況や審査結果の報告の頻度、連絡方法などについても契約前に話し合っておきましょう。
2.年金事務所で保険料納付要件の確認
障害年金の請求にあたっては、保険料納付要件の確認が必要になります。
具体的には、「初診日の前日」において、「初診日がある月の2ヶ月前まで」の被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あることが必要です。※生まれつきのご病気などで、20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合を除きます。
その他、初診日が令和8年3月末日までにあるときは、次のすべての条件に該当すれば、納付要件を満たすものとされています(特例)。
- 初診日において65歳未満であること
- 初診日の前日において、初診日がある月の2カ月前までの直近1年間に保険料の未納期間がないこと
個人で手続きを行う場合には、まずは年金事務所に予約を取っていただき、指定日時に年金事務所に行っていただく必要がありますが、社労士に依頼した場合には、上記納付要件の確認やその後の書類提出まで社労士が行ってくれるケースが多いので、体力的・精神的・時間的なメリットが生まれます。
障害年金は非課税であるため、年末調整や確定申告でも障害年金の金額を申告する必要は基本的にはありませんが、一方で「障害者控除」を受けるためには、年末調整や確定申告にて申告を行う必要があります。
障害者控除とは、納税者自身、同一生計配偶者または扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合には、一定の金額の所得控除を受けることができる制度をいいます。障害者控除は、扶養控除の適用がない16歳未満の扶養親族を有する場合においても適用されます。控除の金額など、詳細は国税庁ホームページにてご確認ください。
また、障害年金を受給しているから即ち障害者控除の対象、というわけではありませんのでご注意ください。
参考:国税庁ホームページ「障害者控除」
3.受診状況等証明書の取得
保険料納付要件の確認後、受診状況等証明書を取得します。
受診状況等証明書は、障害年金請求で必要な「初診日」を証明するための書類です。初診日は、保険料の納付状況や、初診日に加入していた保険制度を確認するための重要な基準となります。この日がわからないと、障害年金の請求手続きを進めることができません。
そのため、日本年金機構は正確な初診日を求めており、もし最初に受診した医療機関でカルテが廃棄されていたり、病院が閉院していたりして証明書が取れない場合には、次に受診した病院の記録など、他の証拠資料を提出する必要があります。
証明書を取得するには、まず最初に受診した病院に確認し、それが無理であれば次に古い受診先を順に当たっていきます。ただし、医師法第24条で、カルテの保存期間は「最終の診療日から5年間」とされています。そのため、古いカルテはすでに廃棄されている可能性があります。
個人で障害年金請求を進める場合には、該当の傷病のために初めて受診した病院に問い合わせを行い、受診状況等証明書の作成が可能かどうか問い合わせを行います。作成可能である場合には、所定の用紙を揃えた上で医療機関に文書依頼を行います。
証明書は1ヶ月以内に出来上がることが多いです。証明書が出来上がった旨連絡を受けたら病院で文書代を支払い、証明書を受領する流れです。
社労士に依頼した場合には、病院への問い合わせから書類受領まですべて社労士が行ってくれるケースが多いです(病院によっては必ず本人が取りに来てください、というケースもあります)。社労士に依頼した場合には、出来上がった証明書をその場で内容確認できるので、もし不備があった場合の訂正依頼もスムーズに行えると思います。
4.診断書の取得
受診状況等証明書など、初診日が書類上で特定できましたら、医師に診断書依頼を行います。
もし障害年金請求手続きを社労士に依頼した場合には、ご本人からお聞きした状況(治療の経過や日常生活状況等)のうち、診断書の記載項目に関連する情報を医師に資料提供することがあります。
※診断書作成において必ず参考にしてもらえる、というものではありません。
すべて個人で請求手続きを行う場合にも、日頃の診察の場では話せていない前述のような内容を、メモなどでまとめて医師に渡しても良いと思います。
診断書が出来上がり次第、社労士に内容を見てもらい、不備などがないか確認してもらえます。
5.病歴・就労状況等申立書の作成
病歴・就労状況等証明書は、請求者本人の視点から、発病から現在までの経過や日常生活の状況を詳しく伝える書類です。この申立書は自分で作成するものですが、「どう書けばよいかわからない」と負担に感じられる方が多く、実際に社労士に手続きを依頼する方のうち少なくない割合で「申立書を自分で作れない」という理由があるように感じます。
「病歴・就労状況等申立書」は、申請者自身が症状や生活の状況を伝えられる唯一の書類です。そのため、この申立書のポイントを抑え、十分に準備して提出に備えることが大切です。
申立書作成に取り組む時期としては、私の場合ですと、医師へ診断書作成の依頼を行い、診断書の完成待ちの間に着手することが多いです。
初回面談でのお話や追加でのヒアリング内容などから一定程度申立書の内容を作り込んでおき、実際に診断書が出来上がってから、診断書や他の書類との整合性が取れているかなど最終的に確認をする、といったイメージです。
しかし、病院からいざ診断書が出来上がったと連絡を受け、出来上がった診断書の日付を確認してみると「有効期限があと1ヶ月しかない」ということもあります。診断書完成までの間に申立書をある程度作り込んでおけば、そういった場合にも慌てずに済むかと思います。
この申立書まで出来上がったら、提出までもう一息です。
6. 戸籍謄本など、必要書類の準備〜提出
年金請求書、年金生活者支援給付金請求書などに署名いただくほか、戸籍謄本、年金の入金先となる口座の通帳のコピー、障害者手帳のコピーなどといった必要な書類を揃えていただきます。
提出が必要となる書類はケースバイケースなのでこちらでは割愛いたします。
社労士に手続きを依頼している場合には、提出前の最終確認も社労士が行ってくれるので、ご依頼者は安心してお任せすることができます。
7. 審査結果の通知と対応:受給可否の確認と次のステップ
書類を提出後、日本年金機構での審査が開始されます。通常、審査には約3ヶ月の期間がかかりますが、状況に応じて長引くこともあります。
審査の結果、申請が認められると、障害年金の受給が決定し、年金証書が届きます。この通知には、受給金額や支給開始日、もし期限付きの認定の場合には次回更新のタイミングなどが記載されています。
障害年金請求手続きを社労士に依頼している場合には、受給が決定し、実際に年金が入金になってから社労士へ報酬を振り込む、というケースが多いと思います。
一方で、もし万が一不支給となってしまった場合、成果報酬型の料金体系で契約をしていた場合には、社労士に報酬を支払う必要はありません。
不支給決定後、社労士は不服申し立ての手続きを行うことができます。不服申し立てのプロセスは複雑なため、社労士によるサポートが大きな助けになると思います。(不服申立ての手続きについては別途契約となるケースが多いと思います。)
おわりに
障害年金の請求手続きは複雑で多岐にわたりますが、専門家の支援を受けることで、障害年金の請求準備から受給までの一連のプロセスがよりスムーズに進めることができます。
社労士に依頼してから審査結果が出るまで、通常6ヶ月から1年程度かかります。そういった長い期間にわたって、その社労士と関わることになりますので、「障害年金の相談を受けてくれる社労士なら誰でも良い」という考えで社労士を選ぶのではなく、人として信頼できそうな社労士を選ぶと良いと思います。
執筆者プロフィール
松本 恵梨(まつもと えり)
茨城県出身。
明治大学卒業後、金融機関に勤務。個人ローンや法人融資を担当。
その後、体調を崩し一時期入院。入院中に目にした「社会保険労務士による仕事の相談窓口」のチラシをみて、社会保険労務士の仕事に興味を持った。
結婚・出産・離婚を経て、シングルマザーとなった後に社会保険労務士の資格を取得。
株式会社TECO Designに入社し、クラウド勤怠管理システムの設定代行チームに所属。
現在は障害年金専門の社会保険労務士として開業。人々の支援に力を注いでいます。