【2026年版】「フキハラ」「AIハラスメント」って知ってる?~職場を揺るがす新種ハラスメント図鑑
- 2026年1月6日
- 社会保険労務士による労務記事
- 社会保険労務士による記事,トレンド・調査

いま職場で起きているハラスメントは、かつてのような「怒鳴る」「殴る」「飲み会でのセクハラ」だけにとどまりません。Job総研(株式会社ライボ)が2025年に実施した調査によると、
「職場でハラスメントを受けた経験がある」と答えた人は55.1%にのぼり、
半数を超える人が何らかの嫌な経験をしていることが分かりました。

「それ、ハラスメントじゃないから」で終わらせていませんか?
さらに、最近よく耳にする「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」「ジタハラ(時短ハラスメント)」「リモハラ(リモートハラスメント)」「AIハラスメント」「自己肯定感ハラスメント」など、これまで存在しなかった新しいハラスメントの言葉も増えています。
こうした“新種ハラスメント”は、法律で明確に定義されていない場合も多く、つい次のような言葉で片づけてしまいがちです。
- 「こんなの、法的にはハラスメントじゃないから」
- 「ちょっと気にしすぎじゃない?」
しかし、こうして問題を見過ごしてしまうことが、知らず知らずのうちに組織を静かにむしばんでいるかもしれません。
本コラムでは、新種ハラスメントの種類や背景、放置した場合に起こるリスク、そして対話を軸とした具体的な向き合い方について整理していきます。
新種ハラスメント図鑑で現代のハラスメントを理解しよう
代表的なものを簡潔にまとめました。
(1)フキハラ(不機嫌ハラスメント)

無言やため息、舌打ち、物音などの「空気」で周囲に圧力をかけるハラスメントです。たとえば、会議で上司が終始不機嫌な態度をとり、誰も発言できなくなる状況が生まれたり、部下が「機嫌取り」を仕事の一部と感じてしまうことがあります。
(2)ジタハラ(時短ハラスメント)

本来は長時間労働の是正を目的とした時短や残業削減が、いつの間にか「とにかく労働時間を減らせ」と一方的に強要され、業務量は変わらないまま残業禁止だけが徹底されることで従業員を追い詰めてしまうハラスメントです。
(3)リモハラ(リモートハラスメント)

常時カメラのONを強要したり、自宅の様子について無神経なコメントをしたり、「在宅だから出られるよね?」と勤務時間外の連絡を当然視するなど、リモートワーク特有のプレッシャーが生じるハラスメントです。
(4)テクハラ(テクノロジーハラスメント)

デジタルツールが苦手な人に対し、「こんなこともできないの?」と馬鹿にしたり、十分な説明もなく「やる気がない」と決めつけるなど、DXの進展についていけないこと自体がハラスメントとして感じられる場合があります。
(5)ロジハラ(ロジカルハラスメント)

「論理的であること」「正しさ」を盾に、細かな矛盾やミスを執拗に指摘したり、「それはロジカルじゃない」と切り捨てることで、「反論できない=自分が悪い」と感じさせてしまうハラスメントです。
(6)AIハラスメント

AI技術の導入や運用に際し、「AIだから仕方ない」「AIが正しい」といったことを利用して、人の意見を封じたり、不利益な扱いを正当化するハラスメントです。極端な例では、AIの評価結果だけを根拠に人事評価や配置を一方的に決めることなどが該当します。
(7)自己肯定感ハラスメント

「もっと自己肯定感を持とう」「ネガティブは禁止」など、一見前向きな言葉を押し付けることで、不安や辛さを口にできない雰囲気を作り出すハラスメントです。弱音や本音を話すこと自体が悪いことのように感じられ、誰も本心を言えなくなってしまいます。
これら7つの新種ハラスメントは、怒鳴られたり直接命令されたりするわけではありませんが、確実に人の心をすり減らします。そこが新種ハラスメントの厄介なところです。
新種ハラスメントが生まれる背景
(1)「ハラスメント」の認知度が高まった
ひと昔前までは、職場での不快な出来事も「上司とはそういうもの」「多少は我慢するしかない」と受け止められがちでした。
しかし現在では、パワハラ防止法の施行や行政のガイドライン制定、メディアやSNSでの情報発信を通じて、「それはおかしい」「それってハラスメントでは?」と声をあげやすい雰囲気が広がっています。これは労働者の権利を守るうえで大きな前進です。
ハラスメントという言葉と類似した現象に「ブラック企業」があります。当初はネット上で使われていた表現でしたが、やがてメディアを通じて社会一般に広まり、行政も「ブラック企業対策」を打ち出すようになりました。
長時間労働やサービス残業、横暴な上司など、現場で感じていた漠然とした不満に名前が与えられたことで、「自分の職場もおかしい」「これは問題だ」と声を上げやすくなり、社会問題化・改善へとつながりました。
その一方で、「やや厳しい会社」や「成果主義の会社」まで一律にブラック企業と見なされるような、ラベリングや単純化の問題も生まれました。
新種ハラスメントも同じような構図にあります。
「ハラスメント」という言葉が広く知られるようになったことで、これまで見過ごされてきた働きにくさや苦しさに光が当たる一方で、「何でもハラスメント」とレッテルを貼られてしまうリスクも生じているのです。
(2)働き方の多様化と複雑化
近年、働き方そのものも大きく変化しています。働き方改革による残業削減や時短の推進、コロナ禍を経たリモートワークの普及、DX・AIの導入の加速、多様な価値観の登場、世代間ギャップの拡大など、職場環境が急速に変わっています。
こうした働き方の変化に、「ハラスメント」という言葉の浸透が重なった結果、時短や残業削減のプレッシャーが過剰になる「ジタハラ」や、ポジティブ思考の押しつけが「自己肯定感ハラスメント」と呼ばれるなど、新しい摩擦が見えるようになりました。
つまり、新種ハラスメントは、社会全体の意識が高まり、働き方が多様化したことで初めて表面化した新たな摩擦と言えるでしょう。
ここで重要なのは、「言葉が増えてわかりにくい」と片付けるのではなく、「○○ハラ」という言葉の背後にどんな働きづらさや苦しみが隠れているのかに目を向け、立ち止まって考えることです。
そこで、「法的にはハラスメントではないから」と問題を放置した場合、職場でどのような影響が生じるのかについて考えてみます。
「ハラスメント放置は組織崩壊の始まり?」—現実的な代償
新種ハラスメントの厄介な点は、「法的にはグレーゾーン」であることが多い点です。そのため、相談があってもつい次のような判断になりがちです。
- 「証拠も不十分だし、パワハラとまでは言えないのでは」
- 「とりあえず当事者同士で様子を見てもらおう」
こうして様子見を選択した場合、職場内ではどのようなことが起きるでしょうか。大まかな流れは以下のようになります。
- 「法的にはハラスメントじゃない」として問題を放置
相談しても「そこまで問題とは言えない」と片付けられ、相談者の心にはモヤモヤが残る。 - 職場の雰囲気が徐々に悪化
当事者はモヤモヤを抱えたまま、周囲も「見て見ぬふり」をせざるを得なくなる。 - 「言ってもムダ」が職場の共通認識に
一度相談が無駄に終わる経験は、「ここでは何を言ってもムダ」という学習につながり、やがて誰も声を上げなくなる。 - 心理的安全性が低下し、ミスやリスクが隠蔽される
「怒られそう」「また面倒になるから」と、ミスや違和感、モヤモヤが共有されにくくなり、会議も本音が出ず無難な報告に終始する。 - 優秀な人材から静かに去っていく
真剣に問題提起した人ほど「この職場は変わらない」「ここでは成長できない」と見切りをつけて離職していく。 - 残った人たちのモチベーションも低下
最低限の業務だけをこなし、新しいことへの挑戦や提案もしなくなる。すぐに数字には表れなくても、職場全体のモチベーションは徐々に下がっていく。
ハラスメントによる代償というと、「訴訟リスク」や「慰謝料」「休職・離職」などが注目されがちです。しかし、新種ハラスメントの怖さは、こうした静かな組織崩壊がじわじわと進行する点にあります。
たとえば、私が実際にある会社の人事部長から受けた相談があります。これは「自己肯定感ハラスメント」のケースです。
その会社では離職率の上昇を受けて、職場の雰囲気改善のために「もっと前向きな組織にしよう」「自己肯定感を高めよう」といったスローガンを掲げました。会議の最後には「今日よかったことを一人ひとつずつシェアしましょう」などの取り組みがなされていました。
最初は明るい雰囲気になったものの、数か月後から次のような声が寄せられるようになったそうです。「プロジェクトのリスクを正直に話すと『ネガティブな発言はやめよう』と注意される」「しんどいと伝えると『それは自己肯定感の問題じゃない?』と言われる」
その結果、「不安」や「つらさ」といった本音を話すこと自体が言いづらくなり、職場の雰囲気が逆に悪化しつつある、ということでした。
この会社の取り組みは法的に問題はなく、むしろ職場改善のための前向きなものです。しかし、「励まし」や「前向きさ」の名のもとで弱音や違和感が封じ込められてしまう点に、見えない怖さが潜んでいます。まだ離職者は出ていないものの、職場内では徐々に心理的安全性が損なわれている状態といえるでしょう。
それでは、このような新種ハラスメントによる職場全体のモチベーション低下を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。次に、「対話」を軸にした具体的な取り組みについて考えていきます。
対話を軸に新種ハラスメントと向き合う
(1)「法」と「自分たちの基準」を分けて考える
まず重要なのは、組織として以下の前提を、対話を通じて共有することです。
「法律に違反しているかどうかは確かに大切。しかし、私たちの会社(職場)として『これは嫌だよね』と思う基準を、法律とは別に持とう」
法律はあくまで最低限守るべきルールですが、皆さんの会社(職場)には「これは良くない」「こういうコミュニケーションは不快に感じる」「これは大切にしたい」といった独自の価値観や想いがあるはずです。もちろん、社員一人ひとりにもそれぞれの考え方があります。
そこで、対話の場を設け、具体的な事例や状況を示しながら、「法律的にはどうか」「自分たちの職場ではどう扱いたいか」などを話し合い、職場独自の基準をみんなで言葉にしておきましょう。
(2)対話を仕事の一部にする
対話は業務の合間や余裕があるときに行うものではなく、仕事の一部として組み込むことが重要です。
例えば、月に一度の1on1で「最近モヤモヤしたこと」や「言いづらかったこと」を話す時間を必ず設ける、会議の終わりには参加者に感想を尋ねる(「モヤっとしたこと」「変えてみたいこと」などを自由に共有してもらう)、AIツールを利用している部署や担当者から制度や運用について学ぶ機会を設ける、といった具体的な取り組みが挙げられます。
このような対話の場を積み重ねることで、上司や同僚、あるいは部署間で感じる違和感やモヤモヤした気持ちを早期に発見することができます。
(3)行動につなげる
そして何よりも大切なのは、対話で得た気づきを実際の行動に移すことです。
対話の本来の目的は、他者との感じ方や価値観の違いを認識し合うことにあります。同じ職場にいても、感じ方は人それぞれです。
例えば、ある部下がフキハラと感じていても、別の部下はまったく気にしていない場合もあります。そのような違いを認め合うことこそが対話の意義です。また、近年注目されているタレントマネジメントの観点からも、一人一人の個性(能力や経験、持ち味などの違い)を認めあうことは非常に大切です。
しかし、そこで終わってしまうと「君はそう感じているんだね」と受け流してしまい、結果として問題が放置されることになりかねません。だからこそ、違いを受け止めた上で、各自が自らの行動を見直し、必要に応じて改善することが求められます。
例えば、フキハラと指摘された上司がアンガーマネジメントを学ぶ、ロジハラに心当たりのある人が、相手の前提や感情を確認してから自分の意見を述べるようにする、といった工夫が考えられます。
また、組織や会社単位での取り組みも重要です。たとえば、リモートワーク時の連絡時間帯やカメラON/OFFのルールをチームで合意したり、テレワーク規定を整備することも解決策となります。
こうした一つひとつの行動が、新種ハラスメントを減らし、「安心して本音を話せる職場風土」を育てていきます。その行動の前提にあるのは、やはり対話による他者との違いを認識することなのです。
執筆者プロフィール

三谷 文夫 (みたに ふみお)
社会保険労務士/産業カウンセラー
三谷社会保険労務士事務所 代表
中小企業の就業規則・人事制度構築を得意とする社会保険労務士
保有資格:アンガーマネジメントファシリテーター
1977年大阪府生まれ。兵庫県在住。
慶應義塾大学卒業後、地元兵庫県の有馬温泉旅館でフロントスタッフとして働くも1年で退職し、大学時代から挑戦していた司法試験に再挑戦。25歳頃までアルバイトをしながら試験合格を目指すも断念。その後は転職を繰り返し、営業、販売、事務、接客に携わる。合間に東欧への放浪の旅をしながら気ままに過ごすも、将来に不安を感じてきたところで28歳の時に製造業の総務課に採用していただく。
総務課では社会保険、給与計算などの事務を始め、採用、評価、従業員満足度向上施策、労働組合や地域住民との渉外交渉、労務費の予算作成・実績管理など、幅広い業務に従事。
「従業員が相談しやすい総務スタッフ」を意識して職務に取り組む。また、工場での勤務ということもあって、労働安全衛生の重要性を実感するとともに、労務管理では現場のスタッフとの関係性が大切であることを学ぶ。在職中に社会保険労務士の資格を取得。
2013年、「多くの中小企業経営者に労務管理の大切さを伝えたい」という想いが募り、社会保険労務士事務所を開業し独立。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングは、優しい語り口調も相まって人気がある。また、自身の総務課経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚く、これまでに関与してきた顧客数は60社以上。
労務相談をメインに、クライアント企業にマッチした就業規則の作成、運用のサポートまで行う人事評価制度の構築が得意。その他、メンタルヘルス、承認力、ハラスメント、怒りの感情との付き合い方、健康経営、SDGs等をテーマに、商工会議所、商工会、自治体、PTAその他多数講演。新入社員研修、管理職向け行動力アップ研修等、年間20回以上登壇する企業研修講師でもある。
2020年から関西某私大の非常勤講師。300名の学生に労働法の講義で教鞭をとる。
趣味は喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。ランニング。
家族は、妻と子ども4人、金魚のきんちゃん。
カテゴリー
タグ
最近の投稿
月別アーカイブ
- 2026年1月
- 2025年12月
- 2025年11月
- 2025年10月
- 2025年9月
- 2025年8月
- 2025年7月
- 2025年6月
- 2025年5月
- 2025年4月
- 2025年3月
- 2025年2月
- 2025年1月
- 2024年12月
- 2024年11月
- 2024年10月
- 2024年9月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2023年1月


