【第55回】障害認定日の特例について
- 2025年5月15日
- 社会保険労務士による労務記事,障害年金記事
- 障害年金

目次
はじめに
「障害年金」は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった時に、現役世代の方も含めて受け取ることができる可能性がある年金です。
今回は、そんな障害年金の中でも「障害認定日の特例」についてお話します。「特例」は、多くの方に関わる可能性がある制度です。
障害認定日とは
「障害認定日」についてご説明します。「障害認定日」とは、障害の状態を定める日のことです。
原則として、その障害の原因となった病気やけがについての「初診日」から1年6カ月を経過した日、または1年6ヶ月以内にその病気やけがが治った場合(症状が固定した場合)はその日をいいます。「初診日」とは、障害の原因となった傷病につき、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日を指します。
原則は、初診日から1年6ヶ月を経過しなければ障害認定日が到来しませんが、初診日から1年6ヶ月以内に以下のいずれかに該当する日があるときは、特例により、その日が障害認定日と認められます。
参考:日本年金機構ホームページ 年金用語集「さ行 障害認定日」https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/sagyo/ninteibi.html
1:人工透析療法を行っている場合は:透析を初めて受けた日から起算して3カ月を経過した日
2:人工骨頭または人工関節をそう入置換した場合:そう入置換した日
3:心臓ペースメーカー、植え込み型除細動器(ICD)または人工弁を装着した場合:装着した日
4:人工肛門の造設、尿路変更術を施術した場合:造設または手術を施した日から起算して6カ月を経過した日
5:新膀胱を造設した場合:造設した日
6:切断または離断による肢体の障害:原則として切断または離断した日(障害手当金の場合は、創面が治癒した日)
7:喉頭全摘出の場合:全摘出した日
8:在宅酸素療法を行っている場合:在宅酸素療法を開始した日
人工透析を受けている方の障害認定日と手続きのポイント
上記に該当するケースとして、人工透析を受けることになった方からのご相談を例にあげてみました。
人工透析を受けている方の障害認定日は、原則として以下のようになります。
・初診日から1年6ヶ月以内に人工透析を開始した場合:人工透析を開始した日から3ヶ月を経過した日
・初診日から1年6ヶ月を経過後に人工透析を開始した場合:人工透析を開始した日
人工透析で障害年金を申請する場合は、原則、障害等級2級に該当します。
ここでは、2つの異なる状況で人工透析に至った場合の手続きのポイントを説明します。
ケース1:急な体調悪化により、初診日から1年6ヶ月以内に人工透析を開始した場合
例えば、これまで特に大きな病気をしていなかったAさんが、急に腎機能が悪化し、緊急で人工透析を開始することになったとします。この場合、Aさんの障害認定日は「初めて透析を受けた日から起算して3カ月を経過した日」となります。
【手続きのポイント】
・初診日は、腎機能が悪化して初めて医療機関を受診した日となります。
・診断書には、腎機能の状況、人工透析の開始日等が明記される必要があります。
・障害年金の請求手続きは、障害認定日(透析開始日から3ヶ月経過した日)以降に行うことになります。
※障害認定日を迎えた後にスムーズに請求手続きを行うためには、年金事務所や社会保険労務士などへの相談を早めにしておいたり、請求手続きに向けた書類の準備自体は障害認定日を迎える前に開始しておく方が良いでしょう。
ケース2:長らく糖尿病を抱えていた方が、腎症から人工透析を開始した場合(多くは事後重症請求)
長年糖尿病を患っていたBさんが、糖尿病性腎症により腎機能が徐々に低下し、最終的に人工透析が必要になったとします。
この場合、初診日は最初に糖尿病の症状で医療機関を受診した日となることが一般的です。
そして、人工透析を開始した日が、初診日から1年6ヶ月を経過していることが多いため、障害年金の請求は事後重症請求となるケースが多くなります。
障害認定日時点では障害等級に該当する状態になく、後に症状が悪化して障害年金を受給できる状態になった場合などに、事後重症請求を行います。
【手続きのポイント】
・初診日の特定が重要です。最初に糖尿病で受診した医療機関と日付を正確に把握する必要があります。
・診断書には、糖尿病の経過、腎症の進行状況、人工透析の開始日等が記載される必要があります。
・障害の原因となった傷病(糖尿病)と、現在の障害状態(人工透析)との因果関係が重要になります。
※初診日が古い場合、医療機関にカルテが残っていなかったり、医療機関が廃業してしまったりと、初診日の証明が困難なケースが多くあります。そういった場合には専門家の力を借りた方が手続きがスムーズなケースが多くあります。
※初診日から1年6ヶ月を経過したタイミングで人工透析を開始していない場合であっても、その時点ですでに日常生活に一定の制限がある場合など障害状態にある場合は、障害年金を受給できる可能性があります。主治医や、障害年金の請求に力をいれている社会保険労務士に相談してみるのも良いでしょう。
共通の手続きのポイント
1:年金事務所への相談: 状況を説明し、障害認定日や必要な書類、手続きについて確認しましょう。特に初診日の特定が難しい場合は、早めに相談することをお勧めします。
2:必要書類の準備: 年金手帳、本人確認書類、医師の診断書、受診状況等証明書(必要な場合)などを準備します。
3:裁定請求書の作成・提出: 障害年金の裁定請求書に記入し、準備した書類とともに年金事務所に提出します。
4:日本年金機構での審査: 提出された書類をもとに、障害の状態や年金加入状況などが審査されます。
5:審査結果の通知: 審査結果が郵送で通知されます。
詳細な情報や手続きについては、日本年金機構の公式ウェブサイトをご参照ください。
・日本年金機構ホームページ 障害基礎年金を受けられるときhttps://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/shougai/seikyu/20140519-01.html
・日本年金機構ホームページ 障害厚生年金を受けられるときhttps://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/shougai/seikyu/20140519-02.html
まとめ
障害年金の請求において、障害認定日の特定は非常に重要です。
自分が障害年金の要件に該当するかも?と思ったら、お早めに年金事務所や社会保険労務士にご相談されるのが良いと思います。
執筆者プロフィール

松本 恵梨(まつもと えり)
茨城県出身。
明治大学卒業後、金融機関に勤務。個人ローンや法人融資を担当。
その後、体調を崩し一時期入院。入院中に目にした「社会保険労務士による仕事の相談窓口」のチラシをみて、社会保険労務士の仕事に興味を持った。
結婚・出産・離婚を経て、シングルマザーとなった後に社会保険労務士の資格を取得。
株式会社TECO Designに入社し、クラウド勤怠管理システムの設定代行チームに所属。
現在は障害年金専門の社会保険労務士として開業。人々の支援に力を注いでいます。