【第61回】【2025年10月施行】最低賃金違反を防ぐ!罰則と労務担当者が知るべき実務対応
- 2025年10月23日
- 社会保険労務士による労務記事
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はじめに:過去最大の引き上げ、企業に問われる「対応力」
2025年10月から、最低賃金が全国的に改定されました。
全国加重平均額は 時給1,121円(前年より+66円)。
これは過去最大の引き上げ幅であり、各地域の企業や人事労務担当者にとって、極めて重要な転換点となります。
一方で、最低賃金の改定は毎年行われているにもかかわらず「自社が本当に最低賃金を下回っていないか分からない」、「パートや試用期間中の給与設定が不安」
といった声が後を絶ちません。
社会保険労務士として現場を見ていると、企業の規模を問わず「人件費を抑えようとしたわけではないのに、結果的に違反していた」というケースがみられます。
本記事では、最低賃金の基礎知識から計算方法、違反時のリスク、そしてクラウドシステムを活用した未然防止策まで、実務で役立つポイントをわかりやすく解説します。
給与計算初心者の方、人事労務担当者、賃金決定に関わる経営層の方にもぜひ参考にしていただければと思います。
【2025年10月施行】最低賃金はいくらに?全国平均と適用時期を解説
2025年度(令和7年度)の最低賃金は、全国加重平均で時給1,121円となりました。
前年から「+66円」の引き上げで、過去最大の上昇幅です。
地域別では東京都が1,226円、神奈川県が1,225円、大阪府が1,177円と、都市部と地方の格差も依然として存在します。
最低賃金の改定は、毎年10月1日前後から都道府県ごとに順次適用されます。
給与計算上の注意点は、最低賃金が改定された日が含まれる月分の給与(支払日が11月でも)から新しい金額が適用されるという点です。
「いつから適用するか」を間違えると、ほんの数日のずれで違反扱いになることもあります。毎年のように改定されるからこそ、「発行日」の確認をチームで共有する仕組みが欠かせません。
特に注意したいのは、最低賃金の対象範囲。「パート」「アルバイト」「契約社員」「試用期間中の従業員」もすべて対象になります。
「うちは正社員の基本給は十分に高いから大丈夫」という油断は禁物です。地域別の最低賃金を常にチェックし、全従業員の時給換算額が基準を下回らないかを確認しましょう。
最低賃金の計算方法|時給・日給・月給・試用期間・出来高払いのチェックポイント
最低賃金を守っているかを判断するには、まず「1時間あたりの賃金」を正しく算出する必要があります。
支払い形態によって計算方法が異なるため、以下を参考にしてください。
■ 時給制
そのまま支払われている時給が最低賃金以上であれば問題ありません。
例:東京都内の企業
現在の時給1,250円 → 基準(1,226円)を上回っておりOK。
■ 日給制
1日の労働時間で割って時給換算します。
日給10,000円で1日8時間勤務の場合
10,000円 ÷ 8時間 = 1,250円/時 → OK
■ 月給制
月給から残業代・通勤手当などを除き、「基本給+定額的な手当」をもとに計算します。
月給額 ÷(月の平均所定労働時間)= 時給換算額
月給200,000円、月平均労働時間160時間の場合
200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円/時 → OK
ここで注意が必要なのが「手当の扱い」です。
精勤手当や職務手当などの「固定的手当」は含みますが、通勤手当・賞与・残業代は除外。
この区別を誤ると、実際には下回っていたというケースも多いのです。
■ 試用期間中
「試用期間だから低くても良い」とはなりません。
試用期間中でも、最低賃金を下回る設定は違法となります。
■ 出来高払いや歩合給
固定給部分と出来高部分を合算し、その月の総労働時間で割った結果が最低賃金を上回っているか確認します。
罰則以前に、「給与体系が整理されていない会社」は要注意。誰がどんな基準でいくら支払われているかが説明できない状態こそ、最もリスクが高い状態といえます。
最低賃金未満を支払ったらどうする?罰則・訂正方法・相談先まとめ
もし誤って最低賃金を下回る給与を支払ってしまった場合、「知らなかった」では済まされません。
労働基準法第40条および最低賃金法第4条に基づき、違反企業には罰則が科される可能性があります。
■ 罰則の内容
最低賃金法第40条によれば、
「使用者が最低賃金に満たない賃金を支払った場合、50万円以下の罰金」に処されることがあります。
また、悪質な場合は企業名の公表など行政指導の対象にもなります。
■ 訂正の流れ
1.該当する従業員を特定
2.不足分を計算し、速やかに支給
3.給与明細に訂正の旨を明記
4.必要に応じて労働基準監督署へ相談・報告
過去分を含めて支払いが不足している場合は、2年分まで遡って請求可能(労働基準法第115条)です。
早期に是正すればトラブル拡大を防ぐことができます。
■ 相談先
- ・労働基準監督署
- ・都道府県労働局「総合労働相談コーナー」
- ・社会保険労務士などの専門家
実際の現場では、「最低賃金を下回っていた」と発覚するのは退職後の未払い請求が多いです。つまり、社内では気づかれず、トラブルになって初めて明るみに出るケース。年1回の給与点検をルーティン化することが最大の予防策です。
社労士への相談は、是正報告書の作成や社内ルール見直しまで含めてサポートを受けられるためおすすめです。
クラウドで最低賃金違反を防ぐ!便利機能と導入メリット
近年では、給与計算ソフトやクラウド人事労務システムに「最低賃金アラート機能」が搭載されているものもあります。
この機能を活用すれば、最低賃金改定時の見落としやヒューマンエラーを大幅に減らすことができます。
オフィスステーションでは、最低賃金を下回っている従業員を自動抽出し、一覧表示できる機能があります。 → 参考:【1310|【給与計算】各チェック項目の抽出条件について】https://x.gd/wMSw2
最低賃金チェック機能は全クラウドサービスで対応しているわけではありませんが、クラウド型給与システムの導入は、単なる業務効率化にとどまらず、企業全体の「リスク管理」や「経営判断スピード」を大きく変えるものには間違いありません。
ここでは、クラウドサービスを導入する主なメリットを5つに整理して紹介します。
① 法改正への即時対応
クラウド型給与システムでは、今回の最低賃金以外に社会保険料などの法改正データを自動で更新するものもあります。これにより、担当者が改定内容を逐一確認する手間を省き、法令違反のリスクを軽減できます。
② 人的ミスの防止
最低賃金アラートや自動計算機能がついていれば、人的な入力ミスを大幅に削減できます。
多くの場合、csvデータによる一括修正・更新ができますので、エクセル管理のような属人的作業から脱却し、給与計算の正確性が格段に向上します。
③ 情報共有と業務の一元化
勤怠・給与・社会保険の情報を一元管理することで、人事・経理・現場間の情報連携がスムーズになります。紙やメールでのやり取りが減り、確認・承認フローも効率化できます。
④ セキュリティとバックアップの強化
クラウド上でデータを管理するため、PCトラブルや災害時にもデータ損失の心配が少なく、セキュリティ基準も高水準。アクセス権限の設定により、個人情報の管理も容易です。
⑤ 経営データの見える化
給与情報をもとに、人件費の推移や部門別コストをリアルタイムで可視化できます。これにより、経営者がタイムリーに判断できる環境が整い、戦略的な人事施策にもつながります。
このように、クラウド型給与計算システムは「手間を減らすツール」であると同時に、「リスクを未然に防ぐ仕組み」としても機能します。
特に最低賃金改定のような“毎年変わるテーマ”にこそ、導入効果が大きく表れます。
複数拠点で従業員を抱える企業や、パート・アルバイトの多い業種ではクラウドによる一元管理が違反防止の最短ルートです。
最低賃金の改定対応を担当者の記憶に頼る時代は終わりました。
今は「誰がやっても同じ結果になる仕組み」を作ることが、真のリスクマネジメントといえるでしょう
まとめ:罰則回避とクラウド活用で「安心の給与計算」へ
2025年10月施行の最低賃金改定(全国平均1,121円、+66円)は、企業にとって単なる数字の変更ではなく、「労務管理の正確性」が問われる試金石です。
最低賃金を下回るリスクを放置すれば、罰金だけでなく企業イメージの失墜にもつながります。その一方で、早めの準備と仕組みづくりで、トラブルは確実に防ぐことができます。
- ・計算方法を正しく理解し、定期的に給与をチェックする
- ・未払いが発生した場合は速やかに是正・相談
- ・クラウドツールを活用してアラート自動化と法改正対応を効率化
現場に立っていると「気づかないうちに違反していた」企業が後を絶ちません。
しかし逆にいえば、“気づける仕組み”さえ整えれば、ほとんどのトラブルは防げるということです。
法改正は毎年やってきます。
だからこそ「都度対応」ではなく、「仕組みで解決する」時代へ。
クラウドを活用し、誰もが安心して働ける給与設計を実現していきましょう。
執筆者プロフィール

成澤 紀美
特定社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)
社会保険労務士法人スマイング 代表社員
株式会社スマイング 取締役
クラウドBPO株式会社 代表取締役
大手システムインテグレーション企業・外資系物流企業・住宅建設不動産企業でシステムエンジニアとして長年にわたり技術開発・システム設計を担当。人事管理システム構築を行った事がきっかけで人事・労務に興味をもち、人事労務コンサルティングを行う。
IT業界に特化した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。企業の視点に立った労務管理セミナーや研修を行っている。
「IT業界 人事労務の教科書」「自社に最適な制度が見つかる 新しい労働時間管理 導入と運用の実務」「労務管理の実務が丸ごとわかる本」「改定版)IT業界 人事労務の教科書」「エンジニアが働き方で困ったときに読む本」、近著は「ポストコロナの就業規則見直し」を出版。
社会保険労務士法人としては、IPO(株式公開)向け労務デューデリや人事労務対策支援にも注力し、監査法人や証券会社と企業間のコーディネーターの役割も担っている。顧問先企業の約8割がIT関連企業。
2018年よりクラウドサービスを活用した人事労務サービスで業務効率化を図ったり、 クラウドサービス導入時の困ったを解決する「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」サービスを展開。2018年10月のマネーフォワード社主催のMFクラウドExpoで「クラウドサービスアワード2018大賞」を受賞。
2021年10月より給与計算などBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)に特化した「クラウドBPO株式会社」を共同設立し、企業ニーズへの対応を進めている。

