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【第59回】2026年7月から障害者法定雇用率2.7%へ―今から備える新ルール対応の障害者採用と雇用管理とは

2026年7月から始まる障害者法定雇用率2.7%へ 今から備える新ルール対応の障害者採用と雇用管理とは

障害者雇用に関するルールが大きく変わろうとしています。
2026年7月1日から、民間企業の法定雇用率は「2.7%」へ、雇用義務の対象となる企業規模も「従業員37.5人以上」に拡大されます。

また、週10時間以上20時間未満勤務の精神・重度障害者を「0.5人」としてカウントできる新たな制度も運用開始されています。障害者法定雇用率引き上げへの対応が遅れると納付金の支払額が増加するだけではなく、人的資本の情報開示上でマイナス評価に直結する可能性が高まります。

本記事では、障害者雇用ルールの最新改正ポイント必要な雇用人数計算方法業務効率化のための管理ツール採用・配慮のポイントについてご紹介します。障害者雇用を正しく理解し、人的資本経営やDE&Iの推進を進めましょう。

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まず、障害者雇用に関する直近の改正点や新しいルールを確認しましょう。

1 段階的な障害者法定雇用率の引き上げ(2024年4月・2026年7月)

民間企業の法定雇用率は、現行の2.5%から2026年7月に2.7%へ引き上げられます。対象事業主の範囲も「従業員37.5人以上」へと拡大されます。

したがって、従業員が37.5人以上の企業は2026年7月以降障害者の法定雇用義務の対象となり、1人以上障害者を雇用しなければなりません。

適用時期法定雇用率義務対象となる企業規模
2024年4月2.5%従業員40.0人以上
2026年7月~2.7%従業員37.5人以上

2 雇用状況報告と推進者選任

対象事業主には、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークへ報告する義務があります。

雇用の促進と継続のため「障害者雇用推進者」の選任も努力義務として設けられています。

法定雇用率の変更により新たに障害者雇用が必要となる企業は注意が必要です。

3 除外率の10ポイント引き下げ(2025年4月)

2025年4月から除外率設定業種における除外率が一律10ポイント引き下げられました。

除外率とは、特定の業種において障害者が就業することが困難と認められる職種が相当数ある場合に、雇用義務の一部を軽減する制度です。
今回の見直しでは、全ての除外率設定業種で一律10ポイントの引き下げが行われました。

これにより「実効的な」雇用率達成ハードルが上がっている点に注意が必要です。

4 精神障害者の算定特例の延長と一部の短時間勤務者の雇用率への算定

2024年4月以降、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者は、0.5カウントとして算定可能となっています。

また、週20時間以上30時間未満の精神障害者は、雇入れ後の期間にかかわらず1カウントとして算定できる特例は継続されています。

これにより多様な就業時間帯の障害者雇用を受け入れる等、法定雇用率を達成するための選択肢が広がっています。

5 納付金・調整金・報奨金の動向

障害者雇用納付金制度は、障害者を雇用する上で事業主の経済的負担を調整し、全体の雇用水準を引き上げることを目的とした制度です。

法定雇用率未達成の場合の納付金は、不足人数1人あたり月額50,000円となります。

一方、達成の場合は
常時雇用労働者数が100人超の事業主には調整金(1人超過につき月額29,000円)
・常時雇用労働者数が100人以下の事業主には報奨金(1人超過につき月額21,000円)
支給されます。

なお、2024年4月以降、超過人数が一定数を超える部分については調整金・報奨金が引き下げられています。

具体的には、2024年度実績に基づく2025年度支払い分から適用されています。
調整金は超過人数が10人超の部分が1人あたり23,000円
報奨金は35人超の部分が1人あたり16,000円

では次に、実際に障害者は何名雇用しなければならないのか、必要雇用人数の算定方法を確認していきます。

(1)実雇用人数算定のポイント

2024年4月以降、障害者の雇用人数をカウントする算定方法に新たな特例が導入されています。ポイントは次の2点です。

週10時間以上20時間未満の精神障害者・重度身体/知的障害者「0.5人」としてカウントできる

週所定労働時間20時間以上30時間未満の精神障害者「1人」としてカウントできる

(2)必要雇用人数の算定方法

必要雇用人数は、法定雇用率を「算定基礎となる労働者数」に乗じ、最終的な計算結果に端数が生じた場合は小数点以下を切り捨てて算定します。

なお、算定基礎となる労働者数は、次の合計となります。

 1.週20時間以上30時間未満の短時間労働者を0.5カウント

 2.週30時間以上の常用労働者を1.0カウント

法定雇用率を2.7%とした場合の具体的な計算式は以下の通りです。

必要雇用数 =
(1の労働者数 + 2の短時間労働者数×0.5)× 法定雇用率 2.7%

(3)ケーススタディ

法定雇用率2.7%、除外率0%の場合の必要雇用人数や実雇用人数を、具体的な従業員数をもとに計算してみます。

【ケース①】

常用労働者(週40時間)280名、短時間(週25時間)労働者40名
精神障害者(週25時間)1名、重度身体障害者(週15時間)5名を雇用
・常用雇用人数 =(280+40×0.5)= 300名
・必要雇用者数 =300×2.7% = 8.1 → 8名
・実雇用人数  =(1+5×0.5)= 3.5名 → 8-3.5 =4.5名の不足

【ケース②】

常用労働者(週40時間)40名、短時間(週25時間)労働者10名、
精神障害者(週15時間)1名、
・常用雇用者数 =(40+10×0.5)=45名
・必要雇用者数 = 45×2.7% = 1.215 → 1名
・実雇用人数  =(1×0.5)= 1.5名 → 1-1.5 =0.5名の超過

(4)実務上の注意点

 新たな算定方法の特例が導入されたことにより、障害者の必要雇用人数を満たしているか、また認識に誤りがないか確認をしましょう。
2026年7月から新たに障害者の雇用義務の対象となる従業員37.5名以上の企業は、
どのように必要雇用人数を満たしていくか、障害者の受け入れ方を早期に整理しましょう。

また、除外率適用業種では、設定除外率を掛け合わせて計算する必要がありますが、2026年度の申告や報告からは除外率が引き下げられていることも注意しましょう。

 なお、障害者雇用者数が不足した場合は、納付金支払リスクが生じますので、
計画的な採用や業務切り出しによる新たなポジション設定等、戦略的な障害者雇用の推進が必要です。



障害者雇用人数の管理や雇用状況報告などは、以前であれば紙やExcelで行う企業がほとんどでした。しかし、法定雇用率引き上げや雇用形態の多様化、算定方法の特例導入により、従来の紙やExcelでの管理は限界を迎えつつあります。

こうした背景から、近年はSaaS等のクラウド型人事労務管理ツールを活用した効率的な障害者雇用マネジメントへの移行が進んでいます

【代表的なサービス】

サービス名主な特徴・機能
SmartHR障害者雇用状況報告用のレポート作成や人数の自動計算。従業員区分(所定労働時間、雇用形態)、障害者手帳情報、合理的配慮内容、配置・異動履歴、休職情報等を一元管理可能。
オフィスステーション障害者雇用状況報告の申請業務の効率化。最新アップデートで帳票の改訂自動対応。帳票出力機能による業務工数軽減。
カオナビ障害者雇用状況報告用の情報管理(障害等級や種別、所定労働時間や雇用人数)が可能。障害者手帳情報や面談記録を蓄積し現場管理者の負担軽減。配慮事項や服薬・通院歴等も管理することでアセスメントにも利用可能。

【クラウド運用設計の主なポイント】

・雇用形態別に所定労働時間(30h以上・20〜30h・10〜20h・10h未満)の区分管理
・障害種別(身体・知的・精神)、重度区分、0.5カウント等特例該当者のフラグ管理
・雇用人数の達成率、見込や不足予測の可視化
・前年度差分や監査ログのレポート、帳票作成フローの効率化
・面談記録や特性・配慮事項の蓄積による適切な雇用管理や安全衛生対応

これらSaaS等のクラウド型人事労務管理ツールの活用により、単なる「数合わせ」ではなく、計画的な雇用・報告の効率化・定着支援まで含めた総合的な障害者雇用管理のDXが加速します。
今後ますます障害者雇用が拡大していくため、業務フローのクラウド化は不可欠となってくるでしょう。

採用チャネルの選定や具体的な配慮事項を整理し、障害者雇用を円滑かつ定着につなげる実践的なポイントを解説します。

(1)採用チャネルの選定

障害者雇用を成功させるためには、採用予定者に適したチャネルを選び、ジョブマッチングの精度を高めることが重要です。職場実習やジョブコーチ等の専門家派遣、就労支援機関との連携等をあわせて活用することで、安定した採用の実現や採用効果の向上に繋がります。

・ハローワーク(障害者専門援助部門)
地域の相談支援機関と連携し、実習前提のマッチングを進めやすい。

・障害者雇用相談援助事業(原則無料)
認定事業者による雇用管理支援を活用し、採用から定着までのプロセス全体を伴走支援。一定要件のもと事業者に助成あり。

・職場実習等支援事業
実習・見学の受入れに対して日額助成(上限あり)。実習指導員の謝金や保険料も支援対象となり、ミスマッチ低減に有効。

(2)採用要件の見える化

採用チャネルの選定とあわせて、障害者雇用時に明確にしておくべきポイントは以下の通りです。

・業務内容の説明
「業務の切り出し」によって業務を明確化。先入観を出来るだけ排除し、充分に対応できていない業務や後回しになっている業務を「見つける」意識が良い。どのようにしたら「任せられる」か工夫を行い、短時間労働者も活用し無理のない業務分担と0.5人カウント特例の活用を。

・配属先の受け入れ準備状況
通勤ルート、休憩や静養スペース、バリアフリー動線の確認や説明、医療機関・支援機関との連絡体制の構築などを行う。

・面接・選考プロセスの明確化
面接時の合理的配慮申出機会、労働条件や試験方法の配慮(休憩・代替手段)、職場体験の設定等、選考プロセスを具体的に設計する。

(3)採用後のフォローと評価

採用後の定着率を高めるためには、フォローや評価も重要です。
受入体制の明確化や現場への理解、服薬や通院と両立できる勤務時間、静かな作業環境やノイズ対策なども考えられます。

また、評価と目標管理についても事前にルールを作成し、目標や成果物の具体化等一定の配慮が必要です。さらに1on1の実施やメンター制度によるフォローを行い、コンディションや配慮事項の早期把握に努めることも有効です。

最後に、本記事のポイントをまとめておきます。

  • ⚫︎2026年7月以降、法定雇用率2.7%・企業規模は従業員37.5人以上に引き上げ
  • ⚫︎実雇用人数の特例を理解し、多様な雇用形態による障害者雇用を
  • ⚫︎各種助成金・SaaS活用で採用・定着支援を強化

今後、障害者雇用の重要性はより高まっていきます。
計画的な採用・定着支援や職場環境整備、業務効率化に取り組みましょう。
早めの準備・アクションが企業成長の鍵となります。

障害者雇用の推進は、多様な人材が活躍できる職場づくりや企業の持続的な成長につながります。
障害者雇用は法律上の義務や”やらされ感”として捉えられがちですが、
自社ならではの強みや現場の創意工夫を活かし、誰もが安心して働ける環境を実現することが、
企業価値向上の大きな原動力となることでしょう。

新ルールへの適切な対応を通じて、「数合わせ」から「働きがい・定着支援」へ、
さらなる前進を目指していきましょう。

執筆プロフィール

新井先生

新井 将司
社会保険労務士
汐留社会保険労務士法人 

神奈川県出身、法政大学法学部卒業。平成26年汐留社会保険労務士法人社員登録。IPO準備、M&Aや組織再編支援を得意とする。300社以上の労務管理経験をもとにDXや人的資本経営・ダイバーシティ推進にも積極的に取り組み、社会保険労務士の新たな可能性に挑戦し続けている。『これ一冊でぜんぶわかる!労働基準法』(ナツメ社)監修。 

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