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【第57回】【2025年版】“自社だけ運用”が招くクラウド疲れ。原因となる7つの壁の乗り越え方

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バックオフィス業務を効率化しようと、クラウド型の労務管理システムを導入する企業が増えています。しかし実際には、「導入したのにラクにならない」「結局、現場が混乱している」という声が後を絶ちません。

なぜ、こんなことが起きるのでしょうか?
その理由はシンプルです。

クラウドは「導入」よりも「運用」が難しい
とくに、労務の専門知識なしに“自社だけ”で使いこなそうとする場合、いくつもの「壁」にぶつかるからです。

この記事では、クラウド労務管理システムの運用で企業が直面しやすい7つの壁となる課題と、解決のヒントをご紹介します。
導入をご検討されている方も、すでに使い始めている方もぜひ参考にしてみてください。

読み終えるころには「自社では何から解決すれば良いか」がきっと見えてくるはずです。

ペーパーレス化や業務効率化の流れで、勤怠・給与・人事といった労務管理の領域でもクラウド化が急速に進んでいます。

<クラウド化が進んでいる仕事内容の具体例>

  • ⚫︎労務・人事手続き
  • ⚫︎勤怠管理
  • ⚫︎給与計算
  • ⚫︎経費精算
  • ⚫︎会計・財務(統合会計)
  • ⚫︎請求・売掛・電子インボイス
  • ⚫︎購買・支払管理
  • ⚫︎ワークフロー・稟議
  • ⚫︎電子契約・文書管理
  • ⚫︎タレントマネジメント・人材開発

ですが、クラウド化しただけで「すべてが自動化される」「導入後すぐに作業負担が激減する」と期待しすぎるのは要注意。

特に以下のような方は、導入後の「ギャップ」に戸惑うケースが多く見られます。

  • ⚫︎クラウド導入=すぐにラクになると信じていた
  • ⚫︎担当者が労務未経験(管理部門に異動してきたばかりなど)
  • ⚫︎設定をベンダーや設定代行企業に任せず、自社で対応

クラウドサービスは、設定や運用を“どう設計するか”で効果が変わるもの。そしてその設計には、「労務の専門知識」と「クラウドシステム特性の理解」の両方が欠かせません。

クラウド労務システムを導入した企業が最初にぶつかるのが、「設定、何から手をつければいいの?」という壁です。

「とりあえずアカウント作ったけど…」で手が止まる。
これは、クラウド導入初心者によくある“クラウドあるある”です。

ーなぜ初期設定でつまずくのか?

それは、「何を」「どの順番で」「どう設定すればいいか」が体系的に整理されていないからです。
システムのマニュアルを読んでも、それが自社にとってどれだけ重要なのかがわからず、どこからどう手をつけるか判断できません。

たとえば、以下のような設定があります:

  • ⚫︎就業規則との整合が必要な勤怠ルール
    • ⚪︎休憩時間の扱い(自動付与か手入力か)
    • ⚪︎遅刻・早退の定義
  • ⚫︎給与計算と連動させるべき項目
    • ⚪︎残業時間の集計方式
    • ⚪︎深夜・休日・法定外の時間外手当
  • ⚫︎労務法令に準拠した各種区分
    • ⚪︎社保・雇保の加入判定
    • ⚪︎育児・介護・年休などの休暇設定

これらは、労務の法的知識×業務設計×システム仕様がすべて重なってはじめて「正しい設定」ができるのです。

ー“なんとなく”で設定してはいけない理由

初期設定で下記のようなことがありがちです。

  • ⚫︎前任者の設定をそのまま引き継ぐ
  • ⚫︎デフォルト設定のままにする
  • ⚫︎一旦適当に設定して、あとで直そうとする

こういった対応は、のちのち大きなトラブルを生みます。

設定ミスは、「データ崩壊」や「給与誤支給」の引き金に。

特に給与や社保に関わる設定は、後から修正することが非常に困難です。
一度ミスが起きると、遡って修正する手間や社員対応に追われ、逆に業務負担が増える結果になります。

ーシステム導入=業務設計の見直しチャンス

初期設定とは、単なる「入力作業」ではありません。
むしろ、今の業務フローを棚卸しし、制度と整合性をとったうえで“新しい運用の型”を設計することなのです。

つまり、導入はゴールではなくスタート。

  • ⚫︎現場で実際に運用できるか?
  • ⚫︎社内ルールとのズレはないか?
  • ⚫︎管理者が理解して設定できるか?

こうした視点を持ちながら設定を行うことで、クラウドシステムは初めて“使えるツール”になります。

労務管理におけるクラウドシステムの導入で見落とされがちな落とし穴、それが法改正対応の遅れです。

「クラウドだから、自動で全部アップデートされるんじゃないの?」

……実はここに大きな誤解があります。

クラウドシステムが“勝手に”対応してくれるのは一部だけ

たしかに、クラウドのメリットのひとつはベンダー側のアップデート対応です。

たとえば、下記のような項目はシステム側で自動更新されることも多いです。

  • ⚫︎労働保険料率の変更
  • ⚫︎年末調整フォーマットの更新
  • ⚫︎健康保険料率の改定

しかし、本当に重要なのはその先の「制度変更にあわせて、自社の運用も変えられているか」です。

ーシステムが変わっても、運用が変わっていない企業が多い

たとえば、以下のようなケース。

  • ⚫︎育児・介護休業法の改正により、新しい休業取得ルールができた
  • ⚫︎36協定の特別条項運用が厳格化された
  • ⚫︎月60時間超の残業への割増率が引き上げられた(中小企業も対象)

これらは、設定の見直しや社員への周知が必要になります。

にもかかわらず、下記のような状態のまま、気づけば“法令違反リスク”を抱えてしまっている企業も少なくありません。

  • ⚫︎法改正による制度変更で何が変わったのか把握できていない
  • ⚫︎システム側にどう反映すればいいかわからない
  • ⚫︎書類テンプレートだけ変えて、運用は旧ルールのまま

ー法改正は「知ってる」だけでは足りない

法律が変わるたびに、企業側には次のような対応が求められます

  1. 1.法改正による制度変更で何が変わったかを把握する
  2. 2.自社の制度・運用と照らし合わせて影響を確認する
  3. 3.必要なシステム設定・マニュアル・社員対応を整える

このような一連の流れを、日々の業務の中でこなすのは大変ですが、クラウドを導入したことで安心してしまい、「対応すべき変化」に気づかず放置してしまうのは、非常にリスクの高い状態です。

ー「クラウド × 法改正対応」のベストプラクティス

以下のような体制があると、法改正にも強くなれます。

  • ⚫︎定期的な制度改正チェック(社労士や外部ニュース活用)
  • ⚫︎年1〜2回のクラウド設定見直し(設定の棚卸し)
  • ⚫︎変更点の社内周知とマニュアル更新
  • ⚫︎ベンダー・外部支援者との連携窓口を確保

特に労務管理におけるクラウドは、「導入して終わり」ではなく
「制度改正のたびに更新する前提」で運用設計しておくことが重要です。

「出勤を間違えて入力してしまった」「残業時間の計算が合わない」など、導入初期は特に従業員からの問い合わせが急増します。

導入したてでまだ慣れていない場合は制度とシステム、どちらに原因があるのかも判別しづらく、現場の混乱を招きがち。

導入すればラクになるどころか、人事担当者の負担が一時的に爆増するという現象も、珍しくありません。

下記のような体制づくりや運用を行い、あらかじめ人事担当者に質問や問い合わせが集中しないように対策を行いましょう。

  • ⚫︎各部署から「運用推進者(クラウドアンバサダー)」を1人ずつ任命し、現場でも解決できる仕組みをつくる
  • ⚫︎運用ノウハウや過去に行った質問・回答などを関係者全員の見えるところに共有
  • ⚫︎「社内浸透の工夫(説明会・マニュアル・フォローアップ)」を行う(外部のサポート企業と一緒に伴走型で進めるとスムーズ。)
  • ⚫︎対象のクラウドサービスを従業員や管理者向けに説明会を行なってくれる代行サービス提供会社に依頼する

クラウドに置き換えれば作業効率が向上し、何とかなるという考えは間違いです。曖昧な運用のままクラウド化してしまうとかえって混乱を招き、業務効率化から遠のきます。

たとえば、下記のような

  • ⚫︎休憩時間の取り方に部署差がある
  • ⚫︎勤務実績の修正を口頭でしている
  • ⚫︎遅刻・早退の判断基準が統一されていない

こうしたルールの“ゆらぎ”が、クラウド上で露呈してしまうのです。

クラウドは、自社専用でつくるカスタマイズ性の高いオンプレミスとは異なり、多くの企業が利用できるように汎用性の高いつくりになっています。そのため、自社特有のルールが多いまま運用使用とすると、設定で対応できずに運用がスタートできないことも少なくありません。クラウドを導入する際は「自社のルールで設定が可能なのか」を事前に把握し、必要な場合はクラウドに合わせてルールをつくり直しましょう。

クラウド運用においては、下記のような役割分担も重要です。

  • ⚫︎誰が申請するか
  • ⚫︎誰が承認するか
  • ⚫︎誰が設定・管理をするか

これが決まっていないと、「誰もチェックしていなかった」というミスが頻発し、運用が滞ります。

人事・労務ツールは1つでは完結せず、複数のツールを連携させるケースもあります。

ところが、新しいツールを入れるたびに、運用フローが崩れてしまう。

「連携」ではなく「連鎖的な混乱」が起きてしまうのは、設計が場当たり的になっているからです。対象のツールのみを見るのではなく、全体的な業務フローと効率化のパフォーマンスを考えながら業務設計を行うことをおすすめします。

最後に見落としがちなのが、担当者依存の運用

クラウドを導入しても下記のような状態では組織として安定した運用はできません。

  • ⚫︎設定を1人しか理解していない
  • ⚫︎社内マニュアルが整備されていない
  • ⚫︎その人が休むと、誰も対応できない

これら7つの壁は、どれも「クラウドを導入しただけでは乗り越えられない」ものです。

逆に言えば、下記の部分を専門家のサポートを得ることが、失敗を防ぐ近道になります。

  • ⚫︎自社の業務設計に合ったクラウドの選定
  • ⚫︎実務運用に落とし込むための設計支援
  • ⚫︎法改正や社内ルール変更への柔軟な対応

ー「クラウド選定や業務設計、設定…やることが多すぎてうちだけでは無理かも…」と思ったら

“ラクにしよう”とクラウドを導入したのに、いつの間にか「クラウド疲れ」になっていませんか?

そんなときは、一度プロに相談してみるのも一つの選択肢です。

TECO Designでは、「選定・業務設計・初期設定・検証・運用サポート・BPO」と行った内容をトータルでサポートしています。

まずは無料相談から、今の悩みを整理してみませんか?

執筆者プロフィール

成澤先生

成澤 紀美
特定社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)
社会保険労務士法人スマイング 代表社員
株式会社スマイング 取締役
クラウドBPO株式会社 代表取締役

大手システムインテグレーション企業・外資系物流企業・住宅建設不動産企業でシステムエンジニアとして長年にわたり技術開発・システム設計を担当。人事管理システム構築を行った事がきっかけで人事・労務に興味をもち、人事労務コンサルティングを行う。

IT業界に特化した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。企業の視点に立った労務管理セミナーや研修を行っている。

「IT業界 人事労務の教科書」「自社に最適な制度が見つかる 新しい労働時間管理 導入と運用の実務」「労務管理の実務が丸ごとわかる本」「改定版)IT業界 人事労務の教科書」「エンジニアが働き方で困ったときに読む本」、近著は「ポストコロナの就業規則見直し」を出版。

社会保険労務士法人としては、IPO(株式公開)向け労務デューデリや人事労務対策支援にも注力し、監査法人や証券会社と企業間のコーディネーターの役割も担っている。顧問先企業の約8割がIT関連企業。

2018年よりクラウドサービスを活用した人事労務サービスで業務効率化を図ったり、 クラウドサービス導入時の困ったを解決する「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」サービスを展開。2018年10月のマネーフォワード社主催のMFクラウドExpoで「クラウドサービスアワード2018大賞」を受賞。

2021年10月より給与計算などBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)に特化した「クラウドBPO株式会社」を共同設立し、企業ニーズへの対応を進めている。

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