【第49回】人材データを活かせていますか?タレントマネジメントシステムで組織力を最大化!
- 2024年12月25日
- 社会保険労務士による労務記事
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目次
はじめに
現代のビジネス環境では、企業が競争力を維持・向上させるためには、人材の力を最大限に引き出すことが欠かせません。その鍵となるのが、タレントマネジメントシステム(以下:TMS)です。
この記事では、TMSを活用して組織力を最大化する方法と、その効果について解説します。
タレントマネジメントシステムとは?
タレントマネジメント(Talent Management)は、企業や組織がその人材を戦略的に管理し、最適化するためのプロセスや戦略を指します。
特に、社員一人ひとりの才能やスキルを最大限に活用することで、組織全体のパフォーマンス向上や目標達成を目指します。
タレントマネジメントの定義と目的
タレントマネジメントとは、組織の人材(タレント)を獲得、育成、維持し、効果的に活用するための一連の活動を包括する概念です。主に、以下を目的としています。
- 優れた人材の採用と維持
- 社員のスキルアップとキャリア形成支援
- 高パフォーマンスのチーム構築
- 長期的な組織の競争力強化
- 社員エンゲージメントの向上
タレントマネジメントの主なプロセス
タレントマネジメントは以下の段階で構成されます。
(1) 採用(Attracting Talent)
優秀な人材を組織に引き付ける段階です。
適切な採用戦略を通じて、組織のニーズに合った人材を確保します。
- ジョブディスクリプションの明確化
- 採用チャネル(例: 求人サイト、リファラル、ソーシャルメディア)
- エンプロイヤーブランディングの強化
(2) 育成(Developing Talent)
採用した人材が組織内で成長し続けられるよう、トレーニングやキャリア開発プログラムを提供します。
- オンボーディングプログラム
- スキル研修やリーダーシップ開発
- メンター制度やコーチングの導入
(3) 評価と管理(Performance Management)
社員のパフォーマンスを継続的にモニタリングし、フィードバックを提供します。
- 定期的なパフォーマンスレビュー
- OKRやKPIによる目標設定と評価
- 360度評価の活用
(4) リテンション(Retaining Talent)
優秀な人材の離職を防ぎ、組織に長く貢献してもらうための取り組みです。
- ワークライフバランスの推進
- 報酬と福利厚生の最適化
- キャリアパスの明確化
(5) 後継者計画(Succession Planning)
将来的な組織のリーダー候補を育成し、欠員や組織変更に備えるプロセスです。
- 高潜在能力者の特定
- キャリアのロードマップ策定
- 知識の継承プログラム
タレントマネジメントの重要性
タレントマネジメントが重視される背景には、ビジネス環境の急速な変化やグローバル化、デジタル化があります。
- 競争優位性の確保:優秀な人材を確保することで、競争力を維持・強化できます。
- エンゲージメント向上:社員が自身の価値を認識し、組織との一体感を持つことでモチベーションが向上します。
- 適応力の強化:多様性や変化の激しい市場に対応できる柔軟な人材を育成できます。
タレントマネジメントにおける課題
タレントマネジメントにおける課題は、現代の企業にとって重要なテーマであり、これらを克服することが組織の成長に直結します。
その中でも最も大きな課題のひとつは、優秀な人材の不足です。
特にITやデータサイエンス、AIなどの分野では、技術の進歩に伴い必要とされるスキルが急速に変化しており、これに対応できる人材が限られています。
また、少子高齢化や労働人口の減少も相まって、必要な人材を確保するのがますます難しくなっています。その結果、企業は重要なプロジェクトや事業を円滑に進めるのが困難になる場合があります。
次に挙げられるのが、多様性と包括性に関連する課題です。
多様なバックグラウンドや価値観を持つ人材を受け入れ、それを組織の強みとして活用することは、現代のビジネスにおいて不可欠です。
しかし、多様性を阻害する組織文化や、無意識のバイアスが採用や評価に影響を及ぼすケースも少なくありません。特に、女性や外国人、障害を持つ方々など、特定の層が働きやすい環境が整っていない企業では、潜在的な優秀な人材を活かせず、競争力が損なわれる可能性があります。
さらに、従業員のエンゲージメント不足も深刻な課題のひとつです。
従業員が自分の仕事や組織に対して情熱ややりがいを感じられないと、生産性の低下や離職率の上昇を招きます。
その背景には、ワークライフバランスが保てない労働環境や、キャリアパスが不明確であること、リーダーシップの欠如などが挙げられます。こうした状況では、特に優秀な人材が他社へ流出する可能性が高まります。技術活用の遅れもタレントマネジメントにおいて見逃せない課題です。
HRテックやデータ分析ツールを活用することで、より効率的かつ精度の高いタレントマネジメントが可能になる一方で、これらを導入するリソースが不足している企業も多く見られます。
さらに、テクノロジー導入への抵抗感や、導入後のスキル不足が足かせとなり、適切な人材配置や将来の人材計画が立てられない状況が発生しています。
また、リーダーシップの不足も重要な課題です。
次世代リーダーの育成が進まない場合、組織全体の方向性が曖昧になり、意思決定のスピードが低下する可能性があります。これに加え、後継者計画が整備されていない企業では、リーダー層に欠員が生じた際に事業継続が危ぶまれるケースも少なくありません。
さらに、離職率の増加はタレントマネジメントの直接的な負担を増大させます。
離職が増えると、採用や育成にかかるコストが再び発生するため、財務的な負担が大きくなります。
その原因としては、給与や福利厚生への不満、働きがいの欠如、キャリアアップの機会不足などが挙げられます。
これらの課題は、グローバル化の進展や労働市場の多様化など、現代のビジネス環境の変化によってさらに複雑化しています。そのため、企業はタレントマネジメントにおける課題を認識し、戦略的かつ柔軟に対応することが求められます。
具体的には、長期的な視点での人材戦略の策定、技術の積極的な導入、多様性を尊重する組織文化の醸成、そしてリーダーシップ開発への投資が重要です。
これらの取り組みを通じて、企業は課題を克服し、持続可能な成長を実現することができるでしょう。
タレントマネジメントシステム人気4選を比較
タレントマネジメントシステムは、従業員の才能やスキルを効果的に管理・活用するための重要なツールです。
日本国内で広く利用されている「カオナビ」「タレントパレット」「HRBrain」「SmartHRタレントマネジメント」の4つのシステムについて、それぞれの特徴を比較・説明します。
1. カオナビ
カオナビは、株式会社カオナビが提供するタレントマネジメントシステムで、3,600社以上の導入実績があります。
人事出身の創業者が開発したこのシステムは、人材データベース、配置シミュレーション、スキル管理、評価管理、労務管理、従業員サーベイなどの機能を備えています。
特に、ユーザーコミュニティを運営しており、他社との交流やナレッジ共有が活発に行われている点が特徴です。
2. タレントパレット
株式会社プラスアルファ・コンサルティングが提供するタレントパレットは、3,000社以上に導入されています。
人材データの分析・活用を通じて、経営戦略や人事戦略の意思決定を高度化する「科学的人事戦略」を推進しています。
人材データベース、配置シミュレーション、スキル管理、学習・研修管理、評価管理、採用管理、労務管理、従業員サーベイなど、多彩な機能を提供しています。
3. HRBrain
株式会社HRBrainのHRBrainは、3,000社以上で利用されています。
タレントマネジメント、人事評価、360度評価、組織診断サーベイ、パルスサーベイ、ストレスチェック、労務管理、AIチャットボットなど、必要な機能を選択して組み合わせることが可能です。
これにより、自社のニーズに合わせた柔軟なシステム構築が可能となっています。
4. SmartHRタレントマネジメント
株式会社SmartHRが提供するSmartHRタレントマネジメントは、60,000社以上の導入実績があります。
もともと人事・労務システムとして開発され、入社手続きや年末調整、給与明細などの業務効率化を実現しています。
これらの業務を通じて収集された従業員データを活用し、人材データベース、配置シミュレーション、スキル管理、学習・研修管理、評価管理、採用管理、労務管理、従業員サーベイなどの機能を提供しています。
機能比較
4つのシステムは共通して、人材データベース、配置シミュレーション、スキル管理、評価管理、労務管理、従業員サーベイの機能を備えています。しかし、学習・研修管理や採用管理の機能については、システムによって提供状況が異なります。
例えば、タレントパレットとSmartHRは学習・研修管理機能を提供していますが、HRBrainは提供していません。
また、採用管理機能はタレントパレットとSmartHRが提供していますが、カオナビとHRBrainは提供していません。
料金比較
各システムの料金は、初期費用や月額料金が発生しますが、具体的な金額は公式サイトに記載されていません。これは、導入するシステムの内容や企業規模などによって金額が異なるためです。
無料トライアルについては、カオナビとHRBrainが7日間、タレントパレットが14日間、SmartHRが15日間提供しています。
また、SmartHRは小規模事業者向けに30名まで従業員情報を登録できる無料プランを提供している点が特徴です。
連携サービス比較
各システムは、他社のサービスと連携することで、より幅広い機能を提供しています。
例えば、カオナビは適性検査ツールやシングルサインオン、人材開発・育成ツール、勤怠管理システムなどと連携可能です。
HRBrainは、労務管理システムや給与計算ソフト、勤怠管理システム、社内コミュニケーションツールなどと連携しています。
SmartHRは120以上のサービスと連携可能で、給与計算ソフト、勤怠管理システム、採用管理システム、タレントマネジメントシステム、人事評価システムなど、多岐にわたるサービスと連携しています。
口コミ比較
ユーザーからの評価を見ると、カオナビはUIがわかりやすく、操作が簡単であるとの声が多い一方、ヘルプデスクの対応に不満を持つユーザーもいます。
タレントパレットは直感的で使いやすいとの評価がある一方、メール配信機能がないことやカスタマイズに時間がかかるとの指摘があります。
HRBrainはUIが優れており、ヘルプデスクが充実しているとの声が多いですが、一部機能の利用について難しさを感じるという意見も見られます。
SmartHRは「操作が直感的で使いやすい」「システム導入のハードルが低い」と高く評価される一方、「タレントマネジメント専用ツールではないため、特化型ツールと比較すると機能がやや限定的」との意見もあります。
各システムの特徴と選択のポイント
カオナビ
カオナビは、UIのわかりやすさとコミュニティ活動によるナレッジ共有が強みです。比較的シンプルなタレントマネジメント機能を求める企業に向いており、人材データの可視化と活用に注力したい場合に適しています。
タレントパレット
タレントパレットは、人材データの分析を活用して経営戦略や人事戦略に結び付けたい企業に最適です。多機能で柔軟なシステムを求める中~大規模企業向けといえます。
HRBrain
HRBrainは、柔軟な機能選択と手厚いサポートが特徴です。必要な機能を選びつつ、導入初期からしっかりサポートを受けたい中小規模の企業に適しています。
SmartHRタレントマネジメント
SmartHRは、労務管理や入社手続きなどの業務効率化を重視しつつ、タレントマネジメント機能を統合的に利用したい企業におすすめです。特に小規模事業者や、すでにSmartHRの労務管理システムを使用している場合に最適です。
選択時の注意点
- サポート体制:導入後のサポートがしっかりしているかも選択の大きなポイントです。
- 導入目的の明確化:自社のタレントマネジメントで解決したい課題を整理し、それに最も合致する機能を持つシステムを選ぶことが重要です。
- スケーラビリティ:企業の成長に伴い、必要な機能が拡張できるかを確認する必要があります。
- コスト:初期費用や月額料金、追加機能の費用などを考慮し、予算に合うかを検討します。
- 操作性:現場の従業員が実際に使用するため、直感的な操作性が重要です。
4製品の主要な機能
項目 | カオナビ | タレントパレット | HRBrain | SmartHR |
---|---|---|---|---|
人材データベース | ○ | ○ | ○ | ○ |
配置シミュレーション | ○ | ○ | ○ | ○ |
スキル管理 | ○ | ○ | ○ | ○ |
学習・研修管理 | ○ | ○ | – | ○ |
評価管理 | ○ | ○ | ○ ※HRBrain人事評価 | ○ |
採用管理 | – | ○ | – | ○ |
労務管理 | ○ ※ロウムメイト | ○ | ○ ※HRBrain労務管理 | ○ ※SmartHR 労務管理 |
従業員サーベイ | ○ | ○ | ○ ※HRBrain組織診断サーベイ・パルスサーベイ | ○ |
まとめ
タレントマネジメントは、単なる人事管理にとどまらず、組織のビジョンや戦略を実現するための中核的な役割を果たします。
現代のビジネス環境では、人材が最大の資産とされる中、タレントマネジメントを効果的に活用することが、企業の成功の鍵となります。
執筆者プロフィール
成澤 紀美
特定社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)
社会保険労務士法人スマイング 代表社員
株式会社スマイング 取締役
クラウドBPO株式会社 代表取締役
大手システムインテグレーション企業・外資系物流企業・住宅建設不動産企業でシステムエンジニアとして長年にわたり技術開発・システム設計を担当。人事管理システム構築を行った事がきっかけで人事・労務に興味をもち、人事労務コンサルティングを行う。
IT業界に特化した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。企業の視点に立った労務管理セミナーや研修を行っている。
「IT業界 人事労務の教科書」「自社に最適な制度が見つかる 新しい労働時間管理 導入と運用の実務」「労務管理の実務が丸ごとわかる本」「改定版)IT業界 人事労務の教科書」「エンジニアが働き方で困ったときに読む本」、近著は「ポストコロナの就業規則見直し」を出版。
社会保険労務士法人としては、IPO(株式公開)向け労務デューデリや人事労務対策支援にも注力し、監査法人や証券会社と企業間のコーディネーターの役割も担っている。
顧問先企業の約8割がIT関連企業。
2018年よりクラウドサービスを活用した人事労務サービスで業務効率化を図ったり、 クラウドサービス導入時の困ったを解決する「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」サービスを展開。2018年10月のマネーフォワード社主催のMFクラウドExpoで「クラウドサービスアワード2018大賞」を受賞。
2021年10月より給与計算などBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)に特化した「クラウドBPO株式会社」を共同設立し、企業ニーズへの対応を進めている。