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【第38回】年次有給休暇の年5日の時季指定義務と確実な取得促進を解説

【第34回】パートの雇用保険加入要件と適用拡大を解説

毎週水曜日に掲載している社会保険労務士による記事、今回は寺島先生(寺島戦略社会保険労務士事務所 代表)による解説です

現在、年5日の有給休暇の確実な取得が義務付けられています。達成のために、どのような運用をしていけば良いのでしょうか。

目次

はじめに

年次有給休暇と年5日の取得義務

原則の被保険者要件

有給休暇の付与日数

有給休暇のルール

年次有給休暇の5日取得義務

有給休暇の計画的付与

年5日の取得のイレギュラーな対応

年次有給休暇の買取

おわりに

はじめに

年次有給休暇の取得率は、働き方改革により上昇傾向ですが、2019年4月から年5日の年次有給休暇の確実な取得が使用者の義務となったこともあり、2022年に厚生労働省が行った調査によると58.3%と過去最高を更新しています。義務付けられた年5日の年次有給休暇の取得は、実際の運用はどのようになされているのでしょうか。

また、イレギュラーな扱いやパートの有給休暇もあわせて社会保険労務士が解説します!

年次有給休暇と年5日の取得義務

年次有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的とするもので、労働の義務のある日に、その労働を免除するものです。年次有給休暇は労働者の権利ですので、原則として労働者が請求する時季に与えなければなりません。

しかし、同僚に迷惑がかかるのではないかといった気兼ねなどから、取得率は長年低調でありました。そのため、労働基準法が改正され2019年4月からは、中小企業も含めたすべての企業において、年10日以上年次有給休暇が付与される労働者は、年5日については使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられることになりました。

原則の被保険者要件

適用事業所に使用され、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、且つ、同一の事業主に引き続き31日以上雇用される見込みがある場合は、原則として雇用保険の被保険者となります。この週所定労働時間については、雇用契約書や労働条件通知書に記載されたものが基準となります。

また、雇用保険制度は、労働者が失業したり、雇用の継続が困難になったりした場合に、労働者の生活や雇用の安定、就職促進のために給付を行うことを目的とする制度であるため、社会保険では被保険者となっていた代表取締役等の役員や、アルバイトの昼間学生については、雇用保険制度では被保険者から除外されます。

有給休暇の付与日数

労働基準法において、労働者が雇い入れの日から6ヶ月間継続して勤務し、かつその6ヶ月間の全労働日のうち8割以上を出勤した場合は、有給休暇が付与されます。この労働者には、管理監督者やパートタイムなどの有期雇用労働者も含まれます。通常の労働者の場合、2つの要件をクリアすると10日の年次有給休暇が付与されます。

ただし、パートタイム労働者などの所定労働日数が少ない労働者は、所定労働日数に応じて比例付与されます。具体的には、週の所定労働時間が30時間未満であり、かつ、週の所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下のパートタイム労働者が比例付与の対象となります。パートタイム労働者であっても週の所定労働日数が5日以上の場合や週の所定労働時間が30時間以上の場合は通常の労働者と同じ付与日数となります。

ここでいう継続勤務年数は、在籍期間を言いますので休職中であっても在籍していれば継続勤務年数に算入されます。また、パートタイマーから正社員に転換した場合や、定年退職後嘱託社員として再雇用した場合などは、継続勤務として通算しなければなりません。

また、出勤率を算定する際は、業務上のケガや病気で休んでいる期間や育児休業・介護休業を取得した期間は出勤したものとみなして計算されます。なお、会社都合で休業した期間については、原則として全労働日から差し引いて計算する必要があります。

年次有給休暇の請求権は2年で時効となりますので、前年度の取得されなかった日数は翌年度に繰り越すことができます。

有給休暇のルール

年次有給休暇は、法律で労働者に与えられた権利になりますので、原則として前述のように労働者が請求する時季に与えなければならず、その理由も問われません。

ただし、年次有給休暇を与えることにより事業の正常な運営を妨げる場合には、事業主は他の時期に年次有給休暇の取得を変更することができます。これを時季変更権といいます。この事業の正常な運営を妨げる場合というのは、判例では、事業規模・業務内容、繁忙度、代替要員確保の困難度、休暇期間の長短などを総合して判定されています。

ただ単に業務が多忙だからといって時期変更が可能になるわけではなく、有給休暇取得によって事業の正常な運営が妨げられるという客観的な蓋然性に加え、代替要員を確保するなど請求された有給休暇取得が可能になるよう通常の配慮も必要であるとされています。

ただし、長期にわたる年次有給休暇については、事業主が業務計画や、他の労働者の有給休暇取得の調整などが必要になるため、事業主にも早めの届出を求めるなどの裁量的判断が認められる余地があります。

年次有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュを目的とするものですので、その趣旨から本来は1日単位で取得するものですが、労働者が半日単位で取得を希望し、事業主が同意した場合は、半日単位で取得することが可能です。事業主が半日単位の取得に同意しているかどうかは、自社の就業規則で確認しておきましょう。

また、年次有給休暇の取得率をあげるため、また時間単位による取得希望もみられたことから、労使協定を締結した場合は、5日の範囲内であれば、時間単位で有給休暇を取得させることができます。

年次有給休暇の5日取得義務

年10日以上年次有給休暇が付与される労働者に対しては、付与された日数のうち年5日について、事業主は「時季を指定して」取得されることが必要です。ただし、既に希望により5日以上取得済みの労働者の場合は、事業主が時季指定する必要はありません。この年5日を取得する期間というのは、有給休暇が付与された日(基準日)から1年間を言います。もし、法定を上回る取扱として入社と同時に年次有給休暇が付与される場合は、付与日数の合計が10日に達した時点が基準日となります。この10日以上の年次有給休暇には、前年度から繰り越された日数は含めませんので注意が必要です。

また、休暇に関する事項は就業規則に絶対的記載事項であるため、年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、対象となる労働者の範囲や時季指定の方法等について就業規則に記載しなければなりません。

この年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合や、時季指定について就業規則に記載していない場合は、労働基準法第120条により30万円以下の罰金が課されることがあります。ただし、5日取得させなければ即座に罰則が科されるわけではなく、労働基準監督署の監督指導にしたがって、是正に向けて改善を図っていくことになっています。

有給休暇の計画的付与

年次有給休暇の時季指定とは別に、年次有給休暇の計画的付与制度があります。年次有給休暇の取得促進のため、年次有給休暇のうち、5日を超える分について労使協定を結べば、事業主が計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度を年次有給休暇の計画的付与制度といいます。なお、前年度取得されずに繰り越された有給休暇日数がある場合は、繰り越された日数を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができます。

年次有給休暇のうち5日は、労働者が自由に取得できるものとして必ず残しておかなければならないため、計画的付与の対象となるのは5日を超えた部分だけになります。

なお、この労使協定は所轄の郎等基準監督署に届け出る必要はありません。

年5日の取得義務のイレギュラーな対応

罰則もある年5日の有休休暇取得義務ですが、産休育休に入る労働者や休職している労働者の場合の取扱についてはどうでしょうか。

基準日から1年間の期間に産前産後休業・育児休業に入る予定の労働者や、育児休業から復職した労働者であっても年5日は確実に取得させなければなりません。ただし、残りの期間における労働日が、事業主が時季指定すべき残日数よりも少ない場合は5日取得させることが不可能であるため、5日取得させることができない場合に法違反とはなりません。

また、基準日からの1年間の前から休職しており、期間中に一度も復職しなかった場合も、事業主の義務履行が不可能な場合として法違反に問われません。

年次有給休暇の買取

なかなか年次有給休暇を取得することができず、すべて取得することができない場合、その分お金で払ってほしいと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし年次有給休暇は、その趣旨から買い取りすることは原則として禁止されています。なぜなら、買取が許されれば事業主は休暇を取らせずに働かせることができ、労働者に不利益となるからです。

ただし、例外として退職する場合などに退職日までに明らかに使用することが不可能な年次有給休暇や法定の付与日数を上回る分の年次有給休暇など、労働者に不利益とならない場合に限り買取が認められる場合があります。ただしその場合、買取の金額については事業主が自由に定めることができるとされています。あくまで労働者の不利益を与えない場合に限り買取が認められるため、いくらで買い取ったとしても労働者が不当に害されるわけではないからです。ただし、労使トラブルの観点からも必ず事前に労働者から書面での合意を取るようにしましょう。

ただ、年次有給休暇の買取はあくまでもイレギュラーな取り扱いであるため、その趣旨に従い日ごろから取得促進に努めることが望まれます。

おわりに

年5日の取得が義務化されたとはいえ、やはり有給休暇をすべて取得する労働者は少ないと考えます。退職の際に、有給休暇の残日数が多く、いわゆる有給消化期間として退職日よりもかなり前に最終出勤日となることもあります。業務の引継ぎ期間や代替要員の確保など、有給消化が事業主にとって負担になる可能性もあります。

義務付けられた時季指定だけでなく、計画的付与制度などを活用し計画的に有給休暇の取得促進をすることによって、労働者もためらいを感じずに有給休暇を取得することができ、事業主にとっても労務管理がしやすく計画的な業務運営ができるのではないでしょうか。

執筆者プロフィール

寺島先生

寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士

一橋大学商学部卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプアイアンす対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

寺島戦略社会保険労務士事務所

2023年11月16日に、弊所社労士大川との共著書「意外に知らない?!最新 働き方のルールブック」(アニモ出版)が発売されました。

 

 

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