BLOG
ブログ
BLOG
ブログ
毎週水曜日に掲載している社会保険労務士による解説記事、今回は成澤紀美先生(社会保険労務士法人スマイング代表社員)による解説です。
近年、クラウド勤怠システムを入れ替えるケースも増えてきました。はじめて導入するケースとは別で、どんなことに留意する必要があるのでしょうか。
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中、クラウドベースの勤怠管理システムの導入は多くの企業にとって重要なステップとなっています。
クラウド勤怠管理システムは、働き方の多様化やリモートワークの普及に対応し、業務の効率化やデータ管理の精度向上に寄与します。しかし、システムの導入にはさまざまな注意点があり、適切な準備と管理が不可欠です。
本コラムでは、クラウド勤怠管理システム導入に伴うシステム変更の際に注意すべき事項について詳しく解説します。
現在の勤怠管理プロセスを詳細に把握するために、業務フローをマッピングします。これにより、どの部分で効率化が可能か、どの機能が不足しているかを明確にできます。
このマッピングにより明確になったニーズに対し、各部門やユーザーからの要件を集め、必要な機能や改善点を明確にします。たとえば、シフト管理、残業申請、休日申請などの具体的な機能を把握します。
すべての要件について具体的な機能の把握ができたら、最も重要な要件を優先順位として設定し、その後の要件についても順次優先順位を設けていきます。
各要件の優先順位が決定したら、経営層、人事部門、IT部門、ユーザー代表など、システム変更に影響を与えるすべてのステークホルダーをリストアップします。ステークホルダーの特定と巻き込みは、クラウド勤怠管理システムの導入成功に向けて欠かせないプロセスです。各ステークホルダーのニーズと期待を理解し、適切な対応を行うことで、システム変更が円滑に進むだけでなく、最終的な成果も高まります。以下に、具体的なステップと方法を説明します。
・経営層:経営層は、システム導入の全体的な戦略や予算、期待される成果に関心を持ちます。彼らの承認がプロジェクトの推進力となります。
・人事労務部門:勤怠管理システムの主なユーザーであり、システムの機能や運用に関する要件を提供します。給与計算、シフト管理、休暇管理などのニーズがあります。
・IT部門:システムの導入、カスタマイズ、運用、保守を担当します。システムの技術的な要件やセキュリティ、インフラの整備に関する知識を持っています。
・法務部門:法規制の遵守や契約内容の確認を行う部門です。個人情報保護や労働法に関する知識が求められます。
・現場の従業員:実際にシステムを使用するユーザーです。使いやすさや実用性、日常業務にどのように影響を与えるかが重要です。
・管理職:部門内の勤怠管理やパフォーマンス評価に影響を与える立場です。管理職の意見や要望も反映させることが重要です。
要件定義ができたら定期的なコミュケーションをし、ステークホルダーの意見を反映しながら実際のシステム変更を進めていきます。
具体的には、メール、社内ポータル、会議など、ステークホルダーにとって適切な方法を選び情報共有の方法を決定し、ステークホルダーとのコミュニケーションを定期的に行い、システム変更の進捗状況を共有します。
ステークホルダーと調整しながらクラウド勤怠管理システムの選定を行なっていく場合、自社の業務ニーズに合った機能を提供するベンダーを選定します。例えば、シフト管理、休暇申請、残業管理など、自社の要件に対して必要な機能が備わっているかを確認します。また将来的に業務が拡張する可能性を考慮し、システムの拡張性やカスタマイズの可能性も評価します。スケーラビリティが高いシステムは、長期的な投資として有効です。
クラウド勤怠管理システムの変更に際しては、既存のシステムやインフラとの互換性も大事な要素になります。特に、データの連携やシステムの統合がスムーズに行えるかどうかを検討します。
クラウドの環境面では、ベンダーが提供するクラウド環境の安定性やパフォーマンスも重要です。データの可用性やバックアップ体制が整っているかを確認します。
システムを利用していくにあたり、導入後のサポート内容を確認します。24時間対応のサポートがあるか、また、サポートの方法(電話、メール、チャットなど)も確認します。またサポートチームの対応品質や過去の実績を調査し、信頼できるサポート体制が整っているかを確認します。
クラウド勤怠管理システムの変更では、コスト面での評価も当然に必要です。
システムの初期導入費用だけでなく、運用費用や維持管理費用も含めて評価します。総コストを明確にし、予算に見合ったシステムを選びます。この時、システムの機能カスタマイズや追加機能、トレーニングなどにかかる追加費用も確認し、予算に計上します。
最終的に利用するクラウド勤怠管理システムが決定したら、契約内容の確認となります。
・契約書に記載された導入範囲が、自社のニーズと一致しているか
・範囲外の追加要求がある場合の取り決め
・システムの稼働率や可用性に関する保証
・サポート対応の時間や優先度、問題解決までの時間、緊急対応が必要な場合の対応策
・データの取り扱いや保護に関する条項、特にデータのバックアップ、暗号化、アクセス制御についての詳細
・個人情報保護法や労働法に基づくデータの取り扱い
・契約期間、導入後のサポートやメンテナンスの期間、契約満了後の更新手続きや条件
・契約の解約条件や違約金
・システムに関連する知的財産権(特許、商標、著作権など)についての取り決め、システムの利用に関する権利と制限
・ソフトウェアのライセンス範囲(ユーザー数、使用場所など)
クラウド勤怠管理システムの導入とデータ移行は、システムが実際に運用を開始する重要なフェーズです。このプロセスでは、システムの初期設定、カスタマイズ、データ移行の計画と実施が含まれます。各ステップでの適切な対応が、システムの成功を左右します。
まずユーザーアカウントの設定をします。システム内のユーザーアカウントを設定し、各ユーザーの役割や権限を定義します。管理者、一般ユーザー、部門リーダーなど、役割に応じた設定が必要です。
次にシステムの基本機能(勤怠入力、シフト管理、休暇申請など)を設定し、業務プロセスに合った設定を行います。必要に応じて、初期設定のテンプレートを使用することも考慮します。この時、既存のシステム(給与計算システム、HRシステムなど)とのデータ連携やインテグレーションを設定します。これにより、データの一貫性が保たれます。
自社の業務ニーズに応じて、システムのカスタマイズが必要かどうかを判断します。特定の業務プロセスに合わせた機能追加や変更が必要な場合があります。カスタマイズが必要な場合は、そのの範囲を明確にし、ベンダーと協力して必要な変更を実施します。カスタマイズの内容やスコープを事前に合意し、費用や納期についても確認します。
初期設定やカスタマイズが完了した後、システム全体のテストを実施します。機能が正常に動作するか、業務プロセスに適合しているかを確認します。この時、実際のユーザーによるテストを実施し、システムの使い勝手や問題点を把握します。ユーザーからのフィードバックをもとに、必要な改善を行います。テスト中に発見された問題やバグを修正し、システムが安定して動作するようにします。問題が発生した場合には、迅速に対応します。
移行対象となるデータ(勤怠データ、従業員情報、シフト情報など)を明確にし、どのデータを移行するかを定義します。定義ができたら、データ移行のスケジュールを策定し、移行作業のタイミングを決定します。業務に最小限の影響を与えるように、移行作業のタイミングを考慮します。
データ移行にあたり、移行対象データの整備を行い、不要なデータや重複データを削除します。データのクレンジングを行うことで、移行後のデータ品質が向上します。併せてデータのフォーマット変換が必要であれば、新しいシステムに適合するように変換します。たとえば、日付形式や数値形式の変換が必要な場合があります。
本格的なデータ移行前に、テスト環境でデータの移行を実施します。テスト移行により、データの整合性や正確性を確認します。テスト移行後にデータの検証を行い、データが正しく移行されているかを確認します。データの整合性や一貫性を確認することが重要です。
データ移行が完了したら、データが正しく移行されているかを再確認します。移行データの整合性や正確性をチェックし、必要に応じて修正します。
移行データの確認後、システム全体の動作を確認し、データが正しく反映されているかをチェックします。システムの機能が正常に動作するかを確認します。
システム導入に関しては、システムへのアクセス権限を適切に設定し、データの不正アクセスを防ぎます。役割に応じたアクセス権の設定が重要です。また保存データや通信データを暗号化し、データの漏洩を防ぎます。特に個人情報や機密情報については、強固な暗号化が必要です。
システム導入が進んだら、ユーザーの役割に応じたトレーニングプログラムを設計します。例えば、管理者向け、一般ユーザー向けなど、対象を分けて実施します。
トレーニングの実施にあたり、対面、ハイブリッドなど、トレーニングの方法を検討し、ユーザーの利便性に合わせた実施方法を選びます。併せてユーザーマニュアルやFAQなどの資料を作成し、トレーニング後にも参照できるようにします。
また実際のシステム利用開始に併せて、システムに関する質問やトラブルに対応するためのサポート窓口を設置します。窓口の対応時間や連絡方法も明確にしておき、サポートが必要となった場合の対応時間や優先度を把握します。
クラウド勤怠管理システムの導入において、法規制の遵守は非常に重要です。法律や規制に適合することで、企業は法的リスクを回避し、コンプライアンスを確保することができます。
まず自社の業務プロセスにどの法規制が適用されるかを把握します。例えば、労働時間の集計方法や休暇の取り扱いが労働基準法に基づいているか確認します。労働基準法は、労働時間、休憩、残業、休日などに関する基準を定めた法律です。勤怠管理システムはこれに従って、労働時間の集計や休暇の管理を行う必要があります。
従業員の情報収集時には個人情報保護法に抵触しないようにします。この法律は、個人情報を適切に取り扱うための法律です。データの収集、保存、利用、提供に関するルールを遵守する必要があります。
業界固有の規制として、特定の業界(建設、医療、金融など)に関連する規制や標準もありますので、業界に特有のコンプライアンス要件も確認し、法律に抵触しないようにする必要があります。
クラウド勤怠管理システムの導入は、業務の効率化やデータ管理の精度向上に大きな影響を与えますが、その成功には慎重な計画と実行が不可欠です。
導入計画から運用まで、各ステップでの詳細な対応と管理が、システムの効果を最大化し、ビジネスの成長に貢献します。本記事が、クラウド勤怠管理システムの導入に向けた有益なガイドとなることを願っています。
成澤 紀美
特定社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)
社会保険労務士法人スマイング 代表社員
株式会社スマイング 取締役
クラウドBPO株式会社 代表取締役
大手システムインテグレーション企業・外資系物流企業・住宅建設不動産企業でシステムエンジニアとして長年にわたり技術開発・システム設計を担当。人事管理システム構築を行った事がきっかけで人事・労務に興味をもち、人事労務コンサルティングを行う。
IT業界に特化した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。企業の視点に立った労務管理セミナーや研修を行っている。
「IT業界 人事労務の教科書」「自社に最適な制度が見つかる 新しい労働時間管理 導入と運用の実務」「労務管理の実務が丸ごとわかる本」「改定版)IT業界 人事労務の教科書」「エンジニアが働き方で困ったときに読む本」、近著は「ポストコロナの就業規則見直し」を出版。
社会保険労務士法人としては、IPO(株式公開)向け労務デューデリや人事労務対策支援にも注力し、監査法人や証券会社と企業間のコーディネーターの役割も担っている。
顧問先企業の約8割がIT関連企業。
2018年よりクラウドサービスを活用した人事労務サービスで業務効率化を図ったり、 クラウドサービス導入時の困ったを解決する「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」サービスを展開。2018年10月のマネーフォワード社主催のMFクラウドExpoで「クラウドサービスアワード2018大賞」を受賞。
2021年10月より給与計算などBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)に特化した「クラウドBPO株式会社」を共同設立し、企業ニーズへの対応を進めている。