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社会保険労務士による労務解説記事が毎月4回(毎週水曜日)にUPされます。
第36回目は社会保険労務士三谷先生(三谷社会保険労務士事務所代表)による解説です。
「ハラスメント研修はした方がいいですか。」経営者や人事担当者からこのような質問を受けることがあります。答えは、「はい」です。
なぜなら、ハラスメントの防止につき、厚生労働省の指針に基づき、「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」は行わなければならないところ、研修というのは、周知・啓発の方法として効果が高いからです。
研修の形態として、リアル集合研修とするのか、オンラインでの研修とするのか、ですが、ベストはリアル集合研修です。ハラスメント研修は、後述するように、何かを暗記したり覚えたり、といった内容がメインではなく、事例などに対する個々人の見解や感想を伝え合う、いわゆる対話することに意味があります。
オンラインでもこの効果は達成できますが、リアルに比べるとどうしても「温度感」に差が出てくることは否めません。
また、eラーニングでの「個別」受講(例えば、厚労省「あかるい職場応援団」HPで公開されている動画を個人で観てもらう)は、そもそも対話の時間がないため、それだけをもって研修とするのはおすすめしません。
社内でハラスメント研修を行う際、人事担当者などの社内の人間が講師として行うのか、外部講師をお願いするのか、決める必要があります。
これについては、内部でも外部でも特に問題ないと考えます。後述するプログラムを実践することができればよいので、その講師が外部講師である必要性はないからです。
ただ、外部講師のメリットには、次の3つがあります。
権威性があることで、受講者の納得感が高まると同時に、第三者からの話の方が客観性も担保されます。また、外部講師は、各種の事例や経験、研修ルールを豊富に持っていることが多いため、主催者側(会社)のニーズに合わせた、より具体的な研修内容をプログラムしてもらえるでしょう。
どの研修でも同じですが、ハラスメント研修においても、目的を明確にする必要があります。目的に合わせてプログラムや研修対象者も変化するからです。「従業員にハラスメントの内容を理解してもらうため」、「役員にハラスメントのリスクを知ってもらうため」、「ハラスメントが起きない職場をつくるため」など目的を明確にしておきましょう。「この研修を受けた後、従業員がどのような状態になっているか(効果)」をイメージすることが大切です。
もし、外部講師に依頼するならば、この目的や研修後の効果をしっかり共有しておきましょう。
研修プログラムですが、私の経験上、「役員」、「管理職」、「スタッフ」の3つの層に分けて組むのがよいと思っています。なぜなら、各層で学んでいただくことが違うからです。研修の目的にもよりますが、基本的には各層ごとに研修を行いましょう。
以下、各層ごとに行うとよいプログラム項目を示し、その解説をいたします。
役員に対する上記研修のポイントは、2つです。
職場のハラスメントに関する社会的な位置づけを理解してもらうこと、会社として何を行うべきかを理解してもらうこと、です。
そのために法的規制やハラスメントを放置することのリスクを理解してもらった上で、ハラスメント撲滅への社内整備を行っていく、という行動を促すような内容にするとよいでしょう。
管理職に対しては、パワハラと指導との境界線について、事例を通したワークショップ形式で理解を促す内容を盛り込みます。パワハラは、部下の指導という業務との関連性で主に問題となるからです。
また、叱り方も含めたコミュニケーションの研修も効果的です。厚労省の指針においても、「感情をコントロールする手法についての研修、コミュニケーションスキルアップについての研修、マネジメントや指導についての研修等の実施や資料の配布等により、労働者が感情をコントロールする能力やコミュニケーションを円滑に進める能力等の向上を図ること」がパワハラの原因や背景となる要因を解消するために望ましいと指摘されています。
セクハラに関しては、業務とは関係なく発生するものです。そのため、判例などのアウト事例を共有し、そのような言動を行わないように認識を統一します。また、セクハラの場合、無意識・無自覚に行われることも多く、その要因には価値観や思い込み(たとえば、「男はこうあるべき」)やこれまでの経験(たとえば、「昔はこれくらい許されていた」)が影響しています。そのため、自分の価値観を見直すための価値観ワークを行うのもよいと考えます。
さらに、管理職は中間管理職として、非常にストレスがたまりやすいポジションでもあります。ストレスによって感情が乱れ、部下へハラスメントを行うという事例もあります。そのため、ストレスへの対処法やセルフケアの内容も加えると、より研修の満足度が上がるでしょう。
スタッフには、各ハラスメントの定義をしっかり理解してもらいましょう。ハラスメント・ハラスメント(略して「ハラハラ」と言われることもあります)という言葉があります。
これは、上司が行う指導や言動に対して部下が何でもかんでもパワハラやセクハラと訴える、このような言動のことをいいます。ハラスメントに対する正しい理解を行うことで、このようなハラスメント・ハラスメントを防ぎ、無用な労務トラブルを防ぐことができます。
パワハラに関しては、厚労省が示しているパワハラの典型例である6類型を学んでもらい、職場内でこれらの言動をとってはならないことを共有します。
セクハラについては、管理職向けの内容と同様、アウト事例を共有するとともに、価値観ワークを通して、固定観念のアップデートを行うようにします。
この他、スタッフ向けで内容に盛り込むとよいのは、自己理解と他者理解を深めるためのワークショップです。これは、スタッフ同士の関係性を高め、お互いのことをより深く理解するためのワークです。日頃のスタッフ同士の関係性が良好であればハラスメントが起こりにくくなるからです。
たとえば、育児休業で休むスタッフの代わりに、周りの同僚がその方のフォローをすることは職場でよく起こりえますが、日頃からの関係性がよくないと、「また育休取るの?迷惑なんだよね」といったマタハラが起こります。
このような状況を防ぐために、自己理解と他者理解を深めるための内容をハラスメント研修の一環として取り入れるのも効果的です。
セカンドハラスメント(ハラスメントを受けた人が、その相談をしたことによって起こるハラスメント)を防ぐことも大切です。そのため、管理職向けに、「部下が相談しやすい聴き方」や「正しい1on1のやり方」といった内容で研修を行うことも効果があるでしょう。
また、社内の一体感の醸成と行動指針を作成するために、役員、管理職、スタッフが一堂に介し、「ハラスメントのない理想の職場を作るためにどうしたらよいか」という「理想の職場づくりワークショップ」を企画することもできます。
最後に、マタハラについてですが、マタハラの要因の多くが、育児休業や介護休業などの制度の不知に由来しています。「そのような制度があるとは知らなかった」ということで、知らずにマタハラになっているケースです。そのため、マタハラ研修の内容には、育児休業や介護休業等の基本的な制度説明や、他社での利用事例をメインにすることでその要因を解消できると思われます。
三谷 文夫 (みたに ふみお)
社会保険労務士/産業カウンセラー
三谷社会保険労務士事務所 代表
中小企業の就業規則・人事制度構築を得意とする社会保険労務士
保有資格:アンガーマネジメントファシリテーター
1977年大阪府生まれ。兵庫県在住。
慶應義塾大学卒業後、地元兵庫県の有馬温泉旅館でフロントスタッフとして働くも1年で退職し、大学時代から挑戦していた司法試験に再挑戦。25歳頃までアルバイトをしながら試験合格を目指すも断念。その後は転職を繰り返し、営業、販売、事務、接客に携わる。合間に東欧への放浪の旅をしながら気ままに過ごすも、将来に不安を感じてきたところで28歳の時に製造業の総務課に採用していただく。
総務課では社会保険、給与計算などの事務を始め、採用、評価、従業員満足度向上施策、労働組合や地域住民との渉外交渉、労務費の予算作成・実績管理など、幅広い業務に従事。
「従業員が相談しやすい総務スタッフ」を意識して職務に取り組む。また、工場での勤務ということもあって、労働安全衛生の重要性を実感するとともに、労務管理では現場のスタッフとの関係性が大切であることを学ぶ。在職中に社会保険労務士の資格を取得。
2013年、「多くの中小企業経営者に労務管理の大切さを伝えたい」という想いが募り、社会保険労務士事務所を開業し独立。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングは、優しい語り口調も相まって人気がある。また、自身の総務課経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚く、これまでに関与してきた顧客数は60社以上。
労務相談をメインに、クライアント企業にマッチした就業規則の作成、運用のサポートまで行う人事評価制度の構築が得意。その他、メンタルヘルス、承認力、ハラスメント、怒りの感情との付き合い方、健康経営、SDGs等をテーマに、商工会議所、商工会、自治体、PTAその他多数講演。新入社員研修、管理職向け行動力アップ研修等、年間20回以上登壇する企業研修講師でもある。
2020年から関西某私大の非常勤講師。300名の学生に労働法の講義で教鞭をとる。
趣味は喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。ランニング。
家族は、妻と子ども4人、金魚のきんちゃん。