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【第33回】クラウド勤怠管理システムの導入前に知っておくべき基礎知識とポイント

毎週水曜日に掲載している社会保険労務士による解説記事、今回は成澤紀美先生(社会保険労務士法人スマイング代表社員)による解説です。

クラウド勤怠管理システムは導入はもちろんですが、導入前の情報収集やポイントをおさえることがとても重要です。具体的に、どんなことに注意していけば良いのでしょうか。

目次

はじめに

クラウド勤怠管理システム導入のメリット

クラウド勤怠管理導入前に確認すべきポイント

まとめ

はじめに

近年、特にコロナ禍以降、企業の規模を問わず、クラウド勤怠管理システムの導入が急速に進んでいます。その背景には、働き方改革やテレワークの普及、そして業務効率化へのニーズの高まりがあります。しかし、導入前にしっかりと基礎知識とポイントを押さえておかなければ、せっかくのシステムも宝の持ち腐れになってしまう可能性があります。

勤怠管理は、単に従業員の労働時間を記録するだけではありません。適正な給与計算、労務管理、そして企業コンプライアンス遵守の基礎となる重要な業務です。特に最近は、長時間労働の是正や年次有給休暇の取得促進など、働き方改革関連法への対応も求められており、正確かつ客観的な勤怠管理が不可欠となっています。

そこでクラウド勤怠管理システムの導入が進んできました。

クラウド勤怠システム導入のメリット

従来の紙(タイムカード打刻)やExcelでの勤怠管理と比較して、クラウド勤怠管理システムには多くのメリットがあります。

まず想定できるのは、業務効率化です。従業員による打刻データが自動で収集され、集計作業も自動化されます。これにより、従来手作業で行っていた集計作業が不要となり、担当者の負担を大幅に軽減できます。勤怠データの承認プロセスもシステム上で完結するため、紙の申請書や押印による承認作業が不要となります。これにより、承認にかかる時間を短縮し、業務効率を向上させることができます。つまり、あらかじめシステムに設定された条件に従って、打刻、集計、承認などの作業が自動化され、大幅な時間短縮が可能になります。

従来のタイムカード打刻やExcelでの勤怠管理と比較すると、システム導入・運用コストは生じることになりますが、自社独自のシステムを開発するのに比較して、汎用的なクラウド勤怠システムを導入することで、高額なサーバーやソフトウェアの購入が不要となり、システムのアップデートやメンテナンスも自動で行われるため、結果的に、システム導入開発や運用にかかるコストを削減することができます。

従業員満足度の点からみると、テレワークやフレックスタイム制など、多様な働き方に対応できるシステムも多く、従業員のワークライフバランス向上に貢献できる可能性が高まります。また自分の勤怠状況をいつでも確認でき、煩雑な申請も不要となれば、従業員の利便性向上にもつながりますので、従業員の自己管理意識を高めることができます。

また、いつでもどこでも従業員の勤怠状況を確認することができる=リアルタイムにデータ確認ができるのは、クラウド勤怠管理の大きなメリットといえます。管理者は、従業員の労働時間や残業時間、有給休暇の取得状況などをいつでもどこからでも把握できるため、迅速な労務管理が可能となります。従業員の労働時間をリアルタイムで監視し、長時間労働を早期に発見でき、さらにアラート機能などを活用することで、過重労働を未然に防ぎ、健康経営にも貢献します。

そして、客観的な労働時間の管理を求められる状況からすると、コンプライアンス強化にもちながり、法改正への対応や、長時間労働の早期発見に役立つともいえます。 その他メリットしては、事業継続性いわゆるBCP対策があります。クラウド上にデータが保管されるため、災害時にもデータが消失するリスクが低く、事業継続性を確保できます。また給与計算システムや人事評価システムなど、他のシステムとの連携が可能なものも多くあり、無駄な二重入力やヒューマンエラーを予防し、さらなる業務効率化が期待できます。セキュリティ面でも、クラウドサービス事業者による強固なセキュリティ対策が施されているため、安心して利用できます。

クラウド勤怠管理導入前に確認すべきポイント

クラウド勤怠管理システムを導入するだけでは、自社で望んだような勤怠管理ができるわけではありません。システムを導入し従業員に操作を理解してもらい、最大限活用するためには、以下のポイントを確認しておくことが重要と考えます。

現在の勤怠管理方法に対する課題の明確化

まず現在の勤怠管理方法における問題点や改善したい点を洗い出します。例えば、集計作業に時間がかかる、打刻漏れが多い、リアルタイムな勤怠状況が把握できない、などです。次に、洗い出した課題を解決するために必要な機能をリストアップします。例えば、自動集計機能、リアルタイムな勤怠状況の確認機能、打刻漏れ防止機能、などです。この時、絶対に必要な機能、あれば便利な機能、に分かれてきますので、今回はどこまでの機能を優先するかも大事な要素になります。さらに、今後の事業拡大や働き方の変化に対応できるシステムであるかどうかも考慮します。例えば、従業員数の増加、テレワーク導入、などです。クラウドシステムは「どれが一番?」「どれが伸びる?」にどう向き合うか、が大切です。日常的に機能のアップデートがされ、企業の求めるものとにギャップが生じることもよく見られますので、あまり先を見るのではなく、2〜3年程度でシステム入れ替えも想定されると認識しておくのも必要かもしれません。

自社のニーズに合ったシステム選び

数多くの勤怠管理システムから自社にマッチしたシステムを選択するのは容易ではありません。将来的な拡張性も考慮しつつ、複数のシステムを比較し、自社のニーズに合った機能、費用、サポート体制などを比較検討しましょう。費用面では、初期費用だけでなく、月額費用やサポート費用なども含めたトータルコストでの比較検討が大切です。各社とも、デモ版や無料トライアルを提供していますので、これらを活用して、操作性やインターフェースが自社の従業員にとって使いやすいかどうかを実際に体験し試してみることをお勧めします。

勤怠管理システムの場合、給与計算システムへの連携が前提となります。ワンストップ型のクラウドシステムでない限り、連携設定に各種制限がありますので、トライアル期間前から確認し、トライアル期間中に連携機能を確認するなども必要になります。人事評価システムなど、他のシステムとの連携も必要な場合は、この期間中に連携が可能かどうかを確認します。

導入前・導入後のサポート体制

システム提供会社によって導入前・導入後のサポート内容にも差があります。導入前の各種設定の対応が必要か、各種設定を自社で行なった際のサポートはどうなっているか、導入後のトラブル対応や質問への回答などヘルプデスク体制がどうなっているかも、導入前に確認をしておきましょう。なお、既存の勤怠データを、導入後のクラウド勤怠管理システムへ移行する場合は、データ移行方法の確認も導入前に検討が必要です。

就業規則との整合性

システム導入により運用面での課題が出てくる場合があります。必要に応じて、就業規則を見直す必要があるかもしれません。この場合、早期にルールの見直しが求められることにもなりますので、システムの機能で自社の勤怠管理ルールにマッチしないところが出てきたら、システム側で対応できるのか、自社勤怠ルールの変更が必要なのか判断することになります。

従業員への周知と理解

従業員からすれば、いきなり勤怠管理方法が変更されるのはストレスになります。システム導入の目的や使用方法を丁寧に説明し、トライアル期間を設けて入力方法に慣れてもらうなど、一定期間をかけて導入を進めましょう。併せて、システムの使用方法について、研修やマニュアルなどを活用して従業員がスムーズに利用できるようにし、従業員からの質問や相談に対応できる窓口を設置するなどもし、安心してシステムを利用できるようにします。

セキュリティ対策

システム内で個人情報や企業情報の保護について、どのような仕組みの元で取り扱われているか、しっかりと確認しましょう。

運用体制の構築

システム導入後の運用ルールや担当者を明確にし、運用ルール上での疑問や課題が出た際に速やかに解決できるようにします。例えば、打刻忘れや修正申請に関するルール、承認フローなどです。せっかく導入しても従業員の理解と利用が十分でないと、勤怠情報も望んだ形でのデータにならず、結局は担当者が都度確認し、修正作業を行わなければならなくなります。一度導入し運用できれば良し、ではなく、定期的に運用状況を見直し、改善点があれば対応していくようにし、自社にマッチしたシステムとして稼働できるようにしていきます。

まとめ

クラウド勤怠管理システムの導入は、企業にとって大きなメリットをもたらします。そのためには、導入前にしっかりとポイントを押さえて準備を進めることが、導入成功の鍵となります。特にシステム選定を担当する方は、システムの選定から、システム導入までにしっかりと基礎知識とポイントを押さえておくことが重要です。

クラウド勤怠管理システムは、どんどん機能改善がされています。導入を決定した時点で最適と判断したシステムであっても、2〜3年経つと自社にマッチしないものになる可能性も十分あり得ます。ぜひ自社に最適であろうというシステムを選び、スムーズな導入を実現してください。また導入後も定期的な見直しを行い、システムを最大限活用することで、企業の成長と従業員の満足度向上に貢献できます。

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執筆者プロフィール

成澤先生

成澤 紀美
特定社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)
社会保険労務士法人スマイング 代表社員
株式会社スマイング 取締役
クラウドBPO株式会社 代表取締役

大手システムインテグレーション企業・外資系物流企業・住宅建設不動産企業でシステムエンジニアとして長年にわたり技術開発・システム設計を担当。人事管理システム構築を行った事がきっかけで人事・労務に興味をもち、人事労務コンサルティングを行う。

IT業界に特化した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。企業の視点に立った労務管理セミナーや研修を行っている。

「IT業界 人事労務の教科書」「自社に最適な制度が見つかる 新しい労働時間管理 導入と運用の実務」「労務管理の実務が丸ごとわかる本」「改定版)IT業界 人事労務の教科書」「エンジニアが働き方で困ったときに読む本」、近著は「ポストコロナの就業規則見直し」を出版。

社会保険労務士法人としては、IPO(株式公開)向け労務デューデリや人事労務対策支援にも注力し、監査法人や証券会社と企業間のコーディネーターの役割も担っている。

顧問先企業の約8割がIT関連企業。

2018年よりクラウドサービスを活用した人事労務サービスで業務効率化を図ったり、 クラウドサービス導入時の困ったを解決する「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」サービスを展開。2018年10月のマネーフォワード社主催のMFクラウドExpoで「クラウドサービスアワード2018大賞」を受賞。

2021年10月より給与計算などBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)に特化した「クラウドBPO株式会社」を共同設立し、企業ニーズへの対応を進めている。

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