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社会保険労務士による労務解説記事が毎月2回!(第1水曜日と第3水曜日)にUPされます。
さて第5回目は社会保険労務士寺島先生(寺島戦略社会保険労務士事務所代表)による解説です。
はじめに
昨今業務以外での私傷病による休職、なかでもメンタル不調による休職者が増えており、対応に悩む会社が増えています。
私傷病による場合は休職開始前から欠勤が続くことも多く、なによりも初動対応が重要です。
今回は休職の中でも、特に「私傷病による休職」の初動対応について社会保険労務士が解説します!
そもそも休職とは?
そもそも休職とはどういうものなのでしょうか。
休職制度とは従業員が何らかの理由で労務に従事することが困難になった場合に、雇用契約を維持したまま一定期間労働を免除する制度です。休職について労働基準法では明確に定められておらず、法律上で労働者の権利として認められているものではありません。そのため、休職を制度として導入するかどうかは実は会社の判断に任されています。
とはいえ、従業員に一定期間安心してお休みいただくだめにも、休職制度は一般的に設けている企業が多いようです。
休職制度を導入する場合は、休職の事由、その期間、休職までの手続き、さらには復職の手続き等も就業規則等に定めて従業員に周知しましょう。
休職の種類
上述のとおり休職制度は法的なものではなく、あくまでも会社の判断で導入するものですので、休職を認める事由も会社によって異なりますが、一般的には次のような事由があります。
・私傷病休職:業務外のケガや病気が原因で一定期間働けない場合
・公務休職:議員に選出されたなど公職に就くために相当期間働けない場合
・起訴休職:従業員が刑事事件の嫌疑を受けて起訴され相当期間働けない場合
・出向休職(会社都合休職):出向命令を受けた従業員が社外の業務に従事するため一定期間働けない場合
・自己都合による休職:留学やボランティア活動など自己都合による事由により一定期間欠勤する場合であって会社が認めた場合
これらの中でも近年メンタルの不調の従業員への対応に苦慮する会社が多いことから、今回は私傷病休職について取り上げます。
休職前の注意点とは?
私傷病休職の場合、一般的な体調不良による欠勤と異なり、従業員が心身の不調による度重なる遅刻早退や欠勤、著しいパフォーマンスの低下などが発生することで一会社としても「休職したほうがいいのでは・・・」と検討し始める場合が多くなっています。
多くの会社では欠勤が数日以上に及ぶ場合、医師の診断書の提出を求める旨が就業規則に明記されていますが、さらにこうした断続的な勤怠不良が見られ、一定期間以上の療養が必要な場合、休職の手続きとして医師の診断書とあわせて従業員本人から休職願の提出を求めましょう。
特に会社が休職の判断をするにあたり、傷病により従業員が労務不能の状態であること、その原因となる疾病、療養に必要な期間について、医学的な知見を持つ医師の診断書に基づいて判断することが判例上妥当とされており、診断書の取得は欠かせません。
そのうえで、前述のとおり休職は労働者の権利ではなく、あくまで会社が認めるものであるので提出された書類をもとに、休職を命じる発令を行います。
一方で、従業員本人から休職願や医師の診断書の提出はないものの、「明らかに様子がおかしい・・・」「労務提供が滞っている」等何らかの心身の不調により労務の提供が困難であると思われる場合はどう対応すべきでしょうか?
客観的にみて明らかに勤怠不良があったり、明らかに挙動がおかしかったりなど業務遂行に影響が出ている場合、会社には従業員に対し安全配慮義務があるため医療機関の受診や産業医面談などを勧奨することが可能です。就業規則にもこうした受診をさせる根拠は盛り込んでおきたいところです。
また、主治医の診断書が提出された場合であっても、労務の提供がどの程度可能なのか判断が難しい場合もあります。
その場合は、従業員本人の同意を得た上で、主治医に診断について確認を行うことも考えられます。また、産業医のいる50人以上の事業所の場合であれば、産業医面談を行うことが望ましいです。判例上も会社の実情がわかった産業医の意見のほうが主治医の意見よりも重要視されている傾向があります。
休職発令時の注意点
主治医や産業医等の医学的知見を根拠に休職発令がなされることになった場合にも注意すべき点があります。復職の判断や休職期間中・休職期間満了時の取扱いなどは必ず従業員本人と確認し、同意を得ておくのが望ましいと考えます。
<復職の判断>
通常復職とは休職の事由が消滅した場合をいいますが、休職期間満了時または休職期間の途中であっても本人から復職の希望があった場合は、復職の可否について主治医または産業医の診断をもとに行います。
しかし、昨今のメンタルヘルス不調の増加にともない、休職の判断時と同様、治癒とはどのような状態をいうのか、治癒していたらどのような業務を行えるのかは、医師によって診断が異なる場合が多く、判断が難しくなっています。
実際は治癒していないのに本人の希望に基づいて復職させ、万が一病状が増悪した場合、会社は安全配慮義務違反に問われる可能性があります。そのため、復職の判断基準を明確にしておきましょう。
判例では、治癒の判断は「従前の職務」を「通常の程度」に行える健康状態に復したことを要すると考えられています。このような判断基準をあきらかにして医師の診断書を求めることが良いでしょう。
<休職期間中の取扱>
休職期間中はノーワークノーペイの原則により会社で特段の定めがなければ無給になります。また、産前産後休暇や育児休業と異なり社会保険料の個人負担分は免除になりません。一方で、住民税などその他給与から控除される個人負担費用等がある場合もあります。
このように賃金支払いがないものの社会保険料等が発生するため、会社が立替えて支払うことになります。そのため、休職期間中の立替金の支払い期日や支払い方法などをあらかじめ明らかにしておくとスムーズです。
休職期間中の賃金は無給になってしまいますが、従業員が社会保険に加入している場合は傷病手当金を受給できる場合がありますので、その手続きについても案内しておくと従業員も安心して療養に専念できるでしょう。
休職期間中は、労働が免除され療養に専念する必要がありますが、休職期間満了前に傷病が治癒し休職事由が消滅する可能性があります。治癒の状況や主治医の指導内容を把握するため、定期的な報告や面談などを従業員に求める場合は、就業規則等に定めておきましょう。
<休職期間満了時の取扱>
休職期間満了時に治癒していない=復職できないと会社が判断した場合で就業規則に自然退職になる定めがあれば、休職期間満了は自然退職という扱いになります。
しかし、休職する従業員は休職期間満了時に退職となると思っていないケースもありますので、トラブルとならないよう、休職発令時に自然退職の可能性を説明し、同意を得ておきましょう。
<休職期間の通算>
昨今増加しているメンタルヘルス不調は、治ったと思ったらまた再発・・・というサイクルを繰り返す特徴があります。そのため、再発のたびに休職発令した場合、長期間労務の提供ができない従業員との雇用契約が継続し続けることになりかねません。また、メンタルヘルス不調の場合は、休職前後で診断名が異なる場合があります。同一傷病または類似の傷病について休職期間を通算するかどうかも就業規則であらかじめ決めておくと良いでしょう。
おわりに
私傷病休職特にメンタルヘルス不調による休職は、その病状や就労状況など多種多様で個別の判断が求められます。また、休職は労働基準法に明確な定めがないため、労使トラブルになることが増えています。将来的に争訟になった際に、会社の判断が社会通念上相当であり、従業員への安全配慮義務をつくしていたという根拠を明らかにしておくことが重要です。それと同時に休職に入る従業員にとって将来的に不利益となりうる点をあらかじめ確認しておくことで、将来のトラブルを未然に防ぐことになるでしょう。傷病休職者が発生する前に、休職制度について就業規則の定めだけでなく、対応フローを確認しておきましょう。
【執筆者プロフィール】
寺島有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所所長社会保険労務士。
一橋大学商学部卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。 在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO 労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
HP:https://www.terashima-sr.com/
2020 年9 月15 日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイン
トいちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。
https://www.amazon.co.jp/dp/4897952417/
ref=cm_sw_em_r_mt_dp_TQ0xFb39THS7W
その他:
2020 年7 月3 日に「Q&A でわかるテレワークの労務・法務・情報
セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1 章労務パートを執筆しています。
https://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4297114488/gihyojp-22
2019年4月に、「これだけは知っておきたい!スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまでこの一冊でやさしく理解できる!」を上梓。
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