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社会保険労務士による労務解説記事が毎月2回!(第1水曜日と第3水曜日)にUPされます。
第9回目は社会保険労務士寺島先生(寺島戦略社会保険労務士事務所代表)による解説です。
ここ数年最低賃金の引き上げが大きく報道され注目が集まっています。よく耳にする最低賃金制度ですが、各事業場においては制度の基本を押さえた上で、適正に運用することが重要です。
今回は最低賃金制度の基本や、法違反にならない適切な賃金支払いの実践方法、最低賃金引上げに向けた小規模事業者向け支援(業務改善助成金)について、社会保険労務士が解説します!
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づいて国が賃金の最低額を定め、使用者はその定められた最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないという制度です。最低賃金制度は、労働者の年齢や、働き方の違いにかかわらずすべての労働者に適用され、規模や法人業態にかかわらずすべての使用者が順守しなければなりません。
使用者が最低賃金額未満の賃金を支払った場合は、その差額を支払わなければならず、たとえ最低賃金額より低い賃金額を労使合意の上定めていたとしても、最低賃金額と同様の賃金支払いの定めをしたものとみなされます。
使用者が最低賃金額以上の賃金を支払わない場合は、最大で50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
最低賃金には地域別最低賃金と特定最低賃金があります。地域別最低賃金は年齢や正社員パート・アルバイト、嘱託などの雇用形態、呼称にかかわらずすべての労働者に適用されます。
特定最低賃金とは、地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認められる産業について適用されます。例えば北海道なら乳製品製造業、愛知県なら自動車小売業のように、都道府県によって特定最低賃金が設定される産業は異なります。地域別最低賃金と異なり、特定最低賃金は基幹的労働者に適用され、個別に適用されない労働者の範囲が定められています。
ただし、この最低賃金減額の特例は管轄の労働局に申請して許可を受ける必要がありますので、試用期間の労働者だからといって勝手に減額することはできません。地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される労働者に対しては、使用者は高い方の最低賃金を支払う必要があります。
また、派遣労働者の場合は、派遣元の事業場の所在地にかかわらず、派遣先の最低賃金が保障されます。
地域別最低賃金は、厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会によって提示された目安を参考に、各地方最低賃金審議会が答申した改定額が、都道府県労働局長によって決定されます。令和5年度は47都道府県で39円から47円が引上げられ、全国加重平均である43円の引上げは、昭和53年度にこの目安制度が始まって以降最高額の引上げとなりました。
現在支給している賃金が最低賃金を超えているか確認する方法を解説します。まず最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる賃金から以下の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。
1.臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
2.1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)
3.時間外割増賃金
4.休日割増賃金
5.深夜割増賃金
6.精皆勤手当、通勤手当、家族手当
近年よく支給されている、固定残業手当は最低賃金の対象賃金に含まれませんので注意しましょう。
上記をもとに算出した賃金を最低賃金額と比較します。比較する際は時給額で比較しますので、日給や週給、月給制などの場合は、対象賃金額を時間額に換算するのがポイントです。
時間給≧最低賃金額(時間額)
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定最低賃金が適用される場合
日給≧最低賃金額(日額)
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。ここでいう総労働時間数は時間外労働時間も含みます。
例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は、それぞれ上記(2)、(3)の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。
(年俸÷12)÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし年俸に賞与が含まれている場合には、賞与分を控除して計算します。
もし、最低賃金に違反していた場合は、最低賃金との差額を支払います。賃金請求権には消滅時効がありますが、労働基準法改定により従来の2年から5年に延長(当面は3年)延長されています。最低賃金違反が発覚した後の賃金だけでなく、賃金請求権の消滅時効が完成しない期間は遡って支払いましょう。
賃金額が最低賃金額を上回るように賃金の引き上げを行う事業所を支援するため厚生労働省・中小企業庁は助成金や補助金制度を用意しています。厚生労働省が行う賃上げに関連する助成金としては、「キャリアアップ助成金」がよく知られています。今回はもう一つの助成金「業務改善助成金」をご紹介します。業務改善助成金はその事業場内で最も低い賃金を地域別最低賃金より30円以上引き上げた事業所が、生産性を向上させるために設備投資を行った場合、設備投資に要した費用の一部が助成されるもので、引上げ額と事業場規模に応じて30万円から最大で600万円が助成されます。また業務開改善助成金は令和5年8月31日から令和6年1月31日までの申請に限り拡充されていますので原則の制度と拡充後のポイントを合わせてお知らせします。
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内の事業場
・賃金引上げ前に事前に「賃金引上げ計画」「事業実施計画(設備投資等の計画)」を提出し、計画の審査の上交付決定を受けたら、計画に基づく賃上げと設備投資等を行います。
・事業場内最低賃金額に応じて以下の通り設備投資等の費用の助成率が決定します。
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内の事業場
・事業場規模が50人未満の場合のみ、2023年4月1日から12月31日までに賃金引上げを実施していれば、事前の計画提出は不要です。ただし、事業実施計画(設備投資等の計画)と賃金引上げ結果の提出は必要です。
・事業場内最低賃金額に応じて以下の通り設備投資等の費用の助成率が決定します。
ここでいう「生産性」とは企業の決算書類から算出した労働者1人当たりの付加価値を指し、助成金申請時と3年度前の生産性を比較し、伸び率が一定水準を超えている場合生産性要件を満たします。
助成対象となる経費は、機械装置等の購入費や原材料費といった設備投資のほか、経営コンサルティング経費や、人材育成・教育訓練費も対象となります。
業務改善助成金では、以下のア~ウのいずれかに該当する場合、特例事業者として助成上限額の拡大・イ・ウに該当する場合はさらに助成対象経費の拡大が受けられます。
ア.賃金要件:事業場内最低賃金が950円未満の事業場に係る申請を行う事業者の場合
⇒助成上限額の区分10人以上が受けられます。
イ.生産量要件:売上高や生産量等の事業活動を示す指標の直近3か月間の平均が前年、前々年又は3年前同期に比べ15%以上減少している事業者
ウ.物価高騰等要件:原材料費の高騰など社会的経済的環境といった外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1ヶ月の利益率が前年同月に比べ3%ポイント以上低下している事業者※パーセントで表された2つの数値の差をパーセントポイントと言います。
注意点としては、「予算の範囲内で交付されるため、申請期間内に募集を終了する場合がある」「交付決定前に助成対象設備の導入を行った場合は助成の対象とならない」といった点がありますが、過去に業務改善助成金を活用した事業者も基本的には助成対象となります。
検討される場合は、最新の交付要綱・要領で助成要件を再度ご確認ください!
固定的な労働時間制度と比べると、フレックスタイム制は自由度の高い、洗練された労働時間制度だと考えています。うまく運用できれば労働者にとってはプライベートと仕事の充実が図られひいては生産性の向上や社員のエンゲージメント向上などメリットはとても大きいものです。
一方で主体的な労働時間管理ができない従業員の場合、パフォーマンスが上がらない、コアタイム以外の時間の会議への参加を強制できないため業務が回らなくなるなどのトラブルにもつながりかねません。また、人事部門でも実務運用をしっかり理解できていないと未払い賃金発生につながるなどのリスクもあります。
労使双方がフレックスタイム制度の理解をしたうえで日々運用していくことが肝要と考えています。
寺島有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所所長社会保険労務士
一橋大学商学部卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。
在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO 労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
HP:https://www.terashima-sr.com/
2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイントいちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。
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