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社会保険労務士による労務解説記事が毎月3回(第1.2.3水曜日)にUPされます。
第16回目は社会保険労務士三谷先生(三谷社会保険労務士事務所代表)による解説です。
どの企業でも、「人手不足で・・・」「なかなか応募がなくて・・・」という悩みをお聞きします。少子化の影響で労働市場に入ってくる労働者はますます少なくなりますし、これからも人手不足の悩みは続くのでしょう。そのような状況なので、既存社員の離職はできるだけ少なくしたいものです。
今回は厚生労働省のデータを基に、社員の離職原因とそれに対する私が考える解決方法をお伝えしたいと思います。
厚生労働省の令和4年雇用動向調査によると、令和4年1年間の転職入職者が前職を辞めた理由は、「その他の個人的な理由(全体19.6%)」を除くと、次のとおりです。
第1位 労働時間、休日等の労働条件が悪かった(男性9.1% 女性10.8%)
第2位 職場の人間関係が好ましくなかった(男性8.3% 女性10.4%)
第3位 給料等収入が少なかった(男性7.6% 女性6.8%)
私も仕事柄、経営者や人事の方から離職者の離職理由を聞くことがあるのですが、「仕事が自分には合わないと思って」という理由が比較的多く聞かれるところです。しかしながら、その理由は上記調査では第5位です(「仕事の内容に興味が持てなかった(全体4.5%)」)。離職者は本音を言わない、ということが見えてきます。
会社にとって、本当の離職理由(本音)を言ってもらえないことは、離職対策が的外れになるかもしれない、ということです。例えば、本当は上司のパワハラが理由なのに、「仕事内容が少し自分には合わないと思って…」などと無難な理由で会社を去っていくことで、会社にはパワハラ上司という隠れたリスクを抱えたまま、方向性の違う離職対策を行ってしまい、さらなる離職者を生み出す、という負のサイクルに陥ってしまいます。
少し話はそれましたが、上記調査結果による離職原因の「労働条件」「職場の人間関係」「賃金」それぞれに対する解決方法を、以下説明します。
「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が、離職理由の第1位。これを解決するためには労働条件を向上させればよい、ということになります。
労働条件には、労働時間、休日、休暇、契約期間、賃金、福利厚生、定年制、退職などがあります。離職者によって、不満をもつ労働条件は異なると思いますが、最近の傾向として、私は「休日」がポイントになると考えています。なぜなら、求職者の58.5%が仕事を探した時に重視した内容(絶対条件)として「勤務日数(休日・休暇)」を挙げており、最も高い結果がでているからです(ジョブズリサーチセンター『求職者の動向・意識調査2023基本調査報告書』)。私の感覚でも、年間の休日数を気にする求職者が多いと感じています。
背景には、ワークライフバランスの広がりによって、休日に対する労働者の意識が高まっていること、労働時間については、残業時間の上限規制もはじまり、長時間労働を解消する動きは多くの企業で見られること等があると考えられます。
そこで、離職対策として行うことは、最低限「週休2日制」にすることです。業種や職種によっては、「それは難しい」という声も聞こえてきそうですが、時代的に週休2日は最低ラインだと思います。
ちなみに、政府の「骨太方針2022」には選択的週休3日制という言葉も出てきています。また、楽天インサイト株式会社の『休暇に関する調査(2023.05.19)』によると、希望の休日数は「週3日」が最も多いという結果も見られます。
すでに完全週休2日や年間休日数が130日など、休日がある程度充実している会社は週休3日制へのニーズを調査してみるのはどうでしょうか。働き方の選択肢が増えることで離職を防ぐことができるかもしれません。
また、「休日を増やしたら副業しないか心配」という経営者の声も聞くのですが、上記調査によると、今よりも休日が増えてほしいと希望する人にその理由を聞くと、「趣味の時間を増やしたいから(49.6%)」が第1位で、「副業の時間を増やしたい(13.4%)」は第10位という結果となっています。あまり副業を心配する必要はないと思われます。
心理的安全性研究の第一人者であるエドモンドソン教授によると、心理的安全性とは、「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」と定義されています。私は、職場において「人間関係が良好な状態」とは、まさに、この「気兼ねなく自分の意見や気持ちが言い合える状態」だと考えます。
例えば、先日スターバックスに行った時のことですが、社員の方々がたまたまミーティングを行っていました。
席が近かったので、ところどころ会話が聞こえました。「そのオペレーションだとお客様待たせちゃうかも。こうしたらどう?」「あ、確かに。それいいね」「店長、だとしたら、スプーンがもう1セット必要になりますよね。」
この時、参加者は5~6人いたのですが、皆さんが自由に意見を言い合っていたのがとても印象に残っています。
「上司に意見を言うと怒られる」「社長には何を言っても無駄」「私の立場ではこれ言ったら失礼かな」「人手不足なのに育児休業なんて言いにくいなあ」という職場だと、恐怖と諦めに支配された職場となります。
場合によってはパワハラなどのハラスメントとなる可能性もあるでしょう。
そこで、気兼ねなく自分の意見や気持ちが言い合える状態を作るための方法ですが、次のような対策を行ってみてください。
パワハラ、セクハラなどのハラスメントは人権侵害行為。人間関係を構築するという前提が壊れてしまいます。厚生労働省の「パワハラ指針」でハラスメント防止措置の内容を確認し、定期的に管理職、一般職に対してハラスメント防止研修を行いましょう。
また、ハラスメント行為者に対しては、適切な処罰を与えることも必要です。社員はそのような会社の姿勢を見ているものです。
意見を言う、気持ちを伝える、というのは勇気がいることです。そのため、その行為に対しては、まずは素直に「ありがとう」という言葉を掛け合うようにします。「的外れだなあ」「忙しいのに今言うなよ」とか思うことはあるでしょう。
それは、感謝の言葉の後に伝えるようにしてみてください。サンクスカードの導入なども効果的でしょう。
相手のことを尊重しながら自分の意見や気持ちを伝えることを、アサーティブコミュニケーションといいます。
職場の全員が学び、社内におけるコミュニケーションの共有言語にすると効果的です。
みなさんの業界や地域における賃金水準を調べてみましょう。求人広告やハローワークの求人票を見ると、大体の水準が分かると思います。そのうえで、あまりにも劣っていたら賃金のベースアップを検討した方がよいでしょう。
しかし、賃金アップは外発的な動機付けであって、不満解消の効果は一時的で持続しないという心理的研究があります。「仕事の報酬は仕事」という言葉もあるとおり、賃金以外に社員のモチベーションがあがるような内発的な動機付けが必要です。
例えば、新しい仕事にチャレンジさせてみる、裁量を与える、というものです。仕事へのやりがいを感じることで賃金の不満が解消されるかもしれません。
ただ、やりがい搾取とならないように、ある程度賃金とのバランスを考慮する必要はあるでしょう。
以上
三谷 文夫 (みたに ふみお)
社会保険労務士/産業カウンセラー
三谷社会保険労務士事務所 代表
中小企業の就業規則・人事制度構築を得意とする社会保険労務士
保有資格:アンガーマネジメントファシリテーター
1977年大阪府生まれ。兵庫県在住。
慶應義塾大学卒業後、地元兵庫県の有馬温泉旅館でフロントスタッフとして働くも、1年
で退職し、大学時代から挑戦していた司法試験に再挑戦。25歳頃までアルバイトをしなが
ら試験合格を目指すも断念。その後は、転職を繰り返し、営業、販売、事務、接客に携わ
る。合間に東欧への放浪の旅をしながら、気ままに過ごすも、将来に不安を感じてきたと
ころで、28歳の時に製造業の総務課に採用していただく。
総務課では、社会保険、給与計算などの事務を始め、採用、評価、従業員満足度向上施策、
労働組合や地域住民との渉外交渉、労務費の予算作成・実績管理など、幅広い業務に従事。
「従業員が相談しやすい総務スタッフ」を意識して職務に取り組む。また、工場での勤務
ということもあって、労働安全衛生の重要性を実感するとともに、労務管理では現場のス
タッフとの関係性が大切であることを学ぶ。在職中に社会保険労務士の資格を取得。
2013年、「多くの中小企業経営者に労務管理の大切さを伝えたい」という想いが募り、
社会保険労務士事務所を開業し独立。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重
視したコンサルティングは、優しい語り口調も相まって人気がある。また、自身の総務課
経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚く、これまでに関与してき
た顧客数は60社以上。
労務相談をメインに、クライアント企業にマッチした就業規則の作成、運用のサポートま
で行う人事評価制度の構築が得意。
その他、メンタルヘルス、承認力、ハラスメント、怒りの感情との付き合い方、健康経営、
SDGs等をテーマに、商工会議所、商工会、自治体、PTAその他多数講演。新入社員研修、
管理職向け行動力アップ研修等、年間20回以上登壇する企業研修講師でもある。
2020年から関西某私大の非常勤講師。300名の学生に労働法の講義で教鞭をとる。
趣味は 喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。ランニング。
家族は、妻と子ども4人、金魚のきんちゃん。