【第53回】クラウドで内製化の壁を突破!給与計算業務をスマートに進化させる方法
- 2025年2月14日
- 社会保険労務士による労務記事
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目次
はじめに
現在、給与計算などの経算業務を内製化しようとする動きにシフトし始めています。その背景には、コスト抑制、情報流出の防止、および積極的な業務改善を目指す意図があるようです。
一方で、業務の内製化を試みようとしても、何かと内製化プロセスで発生する取り組み方の壁に直面する企業も少なくありません。
この記事では、クラウド技術を活用して、給与計算業務の内製化を成功に届けるための方法を提案します。

内製化の壁:三つの大きな問題
1.システム、ツールの選定難易
クラウドのシステムは多種多様で、企業に最適なものを選ぶのは易しくありません。これは、後継的な問題を浮上させる原因にもなりえます。
市場に存在する選択肢の多さ
給与計算に利用できるクラウドシステムは数多く存在し、それぞれが異なる特長や機能を持っています。
一見、選択肢が多いことは利点のように思えますが、実際には自社に最も適したものを選ぶために多くの労力と時間を費やさなければなりません。
さらに、専門知識が不足している場合、機能の優劣を判断するのは難しく、誤った選択をするリスクも高まります。
結果として、導入したシステムが業務に合わず、非効率や追加コストを引き起こす可能性があります。
業務要件との適合性
企業ごとに給与計算業務の形態やニーズは異なります。
例えば、従業員数が多い企業では複雑な勤怠管理機能が求められる一方、小規模な企業ではシンプルでコストパフォーマンスの良いツールが必要とされます。
しかし、多くのシステムは汎用的に設計されているため、自社特有の業務要件に完全に適合するものを見つけるのは難しい場合があります。
この適合性の欠如が原因で、導入後にカスタマイズが必要となり、初期コストや運用負担が増える可能性があります。
将来の拡張性や統合性の考慮不足
選定時に現在の要件にばかり目を向けてしまうと、将来的な事業拡大や法規制の変化への対応が難しくなるリスクがあります。
また、給与計算システムは人事管理システムや経費精算システムと連携して初めて効果を最大化しますが、連携性を十分に考慮せずにシステムを選定してしまうと、後に別のツールを導入する際に追加のコストや手間が発生します。
拡張性や統合性の不足は、業務全体の柔軟性を損ない、長期的な成長を妨げる要因となります。
2.スタッフの技術力や知識の不足
給与計算業務を内製化する際に直面するもう一つの大きな課題は、スタッフの技術力や知識の不足です。これは、新しいシステムやツールを導入しても、それを十分に活用するための能力がスタッフに備わっていない場合に生じる問題です。
新しいシステムへの適応の困難さ
クラウドベースの給与計算システムは多くの便利な機能を備えていますが、これを効果的に活用するには、システムの操作方法や設定に関する十分な知識が必要です。しかし、スタッフが既存の業務に慣れているほど、新しいツールへの適応には時間と労力がかかります。
特にITに不慣れなスタッフが多い場合、導入したシステムが活用されず、せっかくの投資が無駄になるリスクがあります。
専門知識の不足によるトラブル
給与計算業務には、労働法や税法など、法規制に関する専門的な知識が欠かせません。
クラウドツールはこれらの法改正に対応する機能を備えていますが、正確に設定を行わなければ機能を十分に発揮することはできません。
スタッフがシステム設定やデータ入力に必要な知識を持っていない場合、ミスが発生し、結果として法的なリスクや従業員の不満を招く可能性があります。
社内教育やトレーニング不足
新しいツールやシステムの導入時には、スタッフ向けのトレーニングが不可欠ですが、多くの企業ではこのプロセスが十分に行われないことがあります。
特に、中小企業では教育にリソースを割く余裕がない場合が多く、その結果としてスタッフがツールを正しく使いこなせない状況に陥りがちです。
これにより、業務の効率化が期待通りに進まず、逆に作業負担が増えることもあります。
スタッフの技術力や知識の不足は、給与計算業務を内製化する上で大きな障害となる可能性があります。
しかし、適切なトレーニングや支援体制を整えることで、この課題を克服することができます。
スタッフが新しいツールを使いこなせるようになれば、業務の効率化やミスの削減につながり、内製化の成功に寄与することになります。
3.企業プロセスの変更
給与計算業務の内製化に伴い、企業内の業務プロセスに変更が必要となることが多くあります。この「企業プロセスの変更」は、内製化の成功を妨げる主な要因の一つです。
システム導入により、企業内のワークフローが変わり、山積りとした拒否感が生じる場合もあります。
業務フローの変更への抵抗感
クラウドツールの導入や給与計算業務の内製化には、新しい業務フローへの変更が伴います。しかし、従来の方法に慣れている従業員にとって、これらの変更は大きな負担やストレスを伴うことがあります。
特に、業務が煩雑化していたり、属人的な運用が行われていた場合、新しいフローへの移行はスムーズに進まないことが多いです。
このような場合、従業員の間で不安や不満が生じ、業務効率が一時的に低下する可能性があります。
プロセス間の連携不足
新しいシステムやツールを導入する際には、既存の業務プロセスとの整合性を保つことが重要です。しかし、プロセス間の連携が適切に考慮されないまま変更が進められると、データの重複入力や伝達ミスなどが発生しやすくなります。
この結果、業務全体が混乱し、内製化のメリットを享受するどころか、逆に非効率が生じるリスクがあります。
責任の曖昧化
業務プロセスの変更が適切に計画・実行されない場合、責任範囲が曖昧になることがあります。
特に、クラウドツールの運用やトラブル対応がどの部門や担当者の責任であるのかが明確でない場合、問題が発生した際に迅速な対応が難しくなります。
このような状況は、全体の業務の流れを滞らせる原因となり、従業員のモチベーション低下を招くこともあります。
企業プロセスの変更は内製化を進める上で避けて通れないステップですが、従業員の抵抗感や連携不足、責任の曖昧化といった課題を伴う可能性があります。
これらの問題を解決するためには、段階的な実施や関係者の巻き込み、変更内容の可視化といった取り組みが必要です。
適切に計画されたプロセス変更は、内製化の成功と業務効率化への道を切り開く鍵となります。
クラウドの活用で内製化を効率的に実現する方法
給与計算業務の内製化を成功させるためには、クラウド技術を最大限に活用することがポイントです。
クラウドツールは、従来の業務プロセスを効率化し、リソースの最適化を図るための強力な手段を提供します。
1. ニーズに合わせた最適なクラウドツールの選定
企業の業務要件に最も適したクラウドツールを選定することが、内製化成功の第一歩です。たとえば、給与計算の複雑さや従業員規模、法改正対応の頻度などを考慮して選択する必要があります。メリットとしては、必要な機能が揃ったツールを導入することで、業務の効率化をすぐに実感できます。
また最近のクラウドツールは使いやすさが向上しており、スムーズな導入が可能になってきました。
2. 開発、トレーニングの活用
クラウドベンダーが提供するトレーニングプログラムやカスタマイズサービスを活用することで、システムの運用効率を高めることができます。また、トレーニングによりスタッフのスキル向上も図れます。
トレーニングを活用することで、ツールの導入初期から高いパフォーマンスを発揮できるようになり、スタッフがシステムの操作に自信を持つことで、業務エラーの削減が期待できます。
実際に、一部のベンダーは導入時にオンサイトトレーニングを提供し、リアルタイムで従業員の疑問に対応するなどしています。
3. 内部のチーム作りとサポート体制の実現
内製化を成功させるためには、クラウドシステムを効果的に運用するチームを社内で育成することが不可欠です。また、変更プロセスの間、従業員を支援するサポート体制を構築する必要があります。
この運用チーム体制が構築されると、チーム内の連携が強化され、スムーズなプロセス変更が可能になります。
また、従業員が疑問やトラブルを迅速に解決できる環境を整備できるようにもなります。
4. データの可視化とリアルタイムアクセスの活用
クラウドツールの利点として、業務データをリアルタイムで確認できる点が挙げられます。これにより、経営判断や問題解決を迅速に行うことが可能になります。
具体的には、業務の進捗状況や重要な指標をタイムリーに把握できる、データの透明性が向上し、業務プロセス全体の信頼性が高まる、などがみられます。
例えば、クラウドシステムで作成したダッシュボードを利用することで、給与計算業務の進行状況やコストの状況を一目で確認できたりします。
5. 拡張性と法改正対応を活かした業務の柔軟化
クラウドシステムはアップデートが容易であり、法改正や事業拡大への対応が迅速です。これにより、長期的な業務の安定運用が可能になります。システムの更新やカスタマイズが、ベンダーによって、クラウドシステム内で自動的に行われますので、将来的な業務拡張にも対応できる柔軟性が確保できます。
実際に、法改正のたびにシステムを再構築する必要がなく、時間とコストの節約が実現します。
クラウドの活用は、内製化の効率的な実現に不可欠な要素です。
適切なツールの選定、トレーニングの活用、チーム作り、データ活用、そして柔軟な拡張性を組み合わせることで、業務効率化と内製化の成功が期待できます。
企業の特性や課題に応じて、これらの方法を組み合わせて実行することがポイントです。
まとめ
クラウドで内製化の壁を突破する!
給与計算業務を内製化することは、コスト削減や業務効率化を実現する重要なステップですが、内製化の道のりには、前述の通り、いくつかの壁が存在します。
これらの課題を克服し、成功に導くためには、クラウド技術を効果的に活用することがカギとなります。
内製化の課題
- システムやツールの選定難易
市場に多くのクラウドシステムが存在し、企業に最適なものを選ぶのは簡単ではありません。適切な選定には、自社の業務要件を明確にし、比較検討を行うことが必要です。 - スタッフの技術力や知識の不足
新しいシステムを導入しても、それを効果的に運用するためのスキルや知識がスタッフに欠けている場合、内製化の成功は難しくなります。トレーニングや外部専門家の支援が重要です。 - 企業プロセスの変更・抜末化
新しいツールを導入する際には、従来の業務フローを変更する必要があり、これに対する抵抗感や混乱が発生することがあります。段階的な導入と従業員の巻き込みが解決策となります。
内製化で期待できる成果
- 業務効率化:手作業の負担軽減や計算ミスの削減
- コスト削減:外部委託費用の削減や自社運用による長期的なコスト最適化
- 法改正対応の強化:クラウドツールによる自動更新で法的リスクを回避
- 業務フローの最適化:チーム全体のパフォーマンス向上
クラウドの活用は、給与計算業務の内製化を効率的に進めるための最善の方法です。
適切な計画とツールの導入、従業員のスキル向上、そしてサポート体制の整備を組み合わせることで、内製化を成功に導き、企業の成長を後押しすることが可能となります。
クラウド技術を活用して、次の一歩を踏み出すのは、あなたの会社です。

執筆者プロフィール

成澤 紀美
特定社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)
社会保険労務士法人スマイング 代表社員
株式会社スマイング 取締役
クラウドBPO株式会社 代表取締役
大手システムインテグレーション企業・外資系物流企業・住宅建設不動産企業でシステムエンジニアとして長年にわたり技術開発・システム設計を担当。人事管理システム構築を行った事がきっかけで人事・労務に興味をもち、人事労務コンサルティングを行う。
IT業界に特化した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。企業の視点に立った労務管理セミナーや研修を行っている。
「IT業界 人事労務の教科書」「自社に最適な制度が見つかる 新しい労働時間管理 導入と運用の実務」「労務管理の実務が丸ごとわかる本」「改定版)IT業界 人事労務の教科書」「エンジニアが働き方で困ったときに読む本」、近著は「ポストコロナの就業規則見直し」を出版。
社会保険労務士法人としては、IPO(株式公開)向け労務デューデリや人事労務対策支援にも注力し、監査法人や証券会社と企業間のコーディネーターの役割も担っている。顧問先企業の約8割がIT関連企業。
2018年よりクラウドサービスを活用した人事労務サービスで業務効率化を図ったり、 クラウドサービス導入時の困ったを解決する「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」サービスを展開。2018年10月のマネーフォワード社主催のMFクラウドExpoで「クラウドサービスアワード2018大賞」を受賞。
2021年10月より給与計算などBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)に特化した「クラウドBPO株式会社」を共同設立し、企業ニーズへの対応を進めている。