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【第41回】クラウド給与計算システムの導入において押さえるべきポイントと注意事項

毎週水曜日に掲載している社会保険労務士による解説記事、今回は成澤紀美先生(社会保険労務士法人スマイング 代表社員)による解説です。

近年、クラウドの給与計算システムがトレンドです。初期費用を抑え、場所を選ばずにアクセスできるなどの多くのメリットがあります。

そんなクラウド給与計算システムを導入する際、どんなことに留意する必要があるのでしょうか。

目次

はじめに

クラウド給与計算システムのメリットを具体的に確認する

選定プロセス:必要な機能の明確化と要件定義

セキュリティ対策の具体的な検証

コスト面でのシミュレーション

現行データの整理と確認

社内教育と業務フローの整理

定期的な見直しと改善策の実施

まとめ

はじめに

近年、企業の業務効率化やコスト削減、データの一元管理などを目的として、クラウド給与計算システムの導入が急速に進んでおります。

従来のオンプレミス型とは異なり、インターネット経由でサービスを利用するクラウド型は、初期費用を抑えられ、場所を選ばずにアクセスできるなど、多くのメリットがあります。

しかし、導入を成功させるためには、システムの選定から運用開始まで、様々なポイントを押さえ、注意点に留意する必要があります。

今回は、クラウド給与計算システム導入の際に特に重要なポイントと注意点を解説します。

クラウド給与計算システムのメリットを具体的に確認する

給与計算業務の効率化とセキュリティ強化が期待できる一方で、システム選定を誤るとコスト増や情報漏洩のリスクもあります。

次のような具体的なメリットと注意点を確認し、導入目的を明確にすることが必要です。

法令対応のスピード

年次の社会保険料率変更や税制改正が自動で反映されるため、担当者が法令変更に追われることなく、最新のルールで給与計算を行えます。

特に年末調整時や税率変更が頻繁にある業界では、大幅な作業効率化が可能です。

災害時のバックアップ

地震や火災などの災害が発生した場合でも、クラウド上にデータが保存されるため、安全なデータ管理ができます。

定期的なバックアップ機能の有無を確認し、重要データが確実に保管されるかをチェックすることも大切です。

多拠点管理

本社と複数拠点で共有するデータも、クラウドであればリアルタイムに同期され、どこからでもアクセス可能です。たとえば、営業所ごとの勤怠情報を即座に本社で確認できるため、管理業務が簡略化されます。

選定プロセス:必要な機能の明確化と要件定義

給与計算業務で必要な機能は企業ごとに異なるため、自社の業務に合わせた要件定義が不可欠です。次のような点に注意してシステムを選定します。

基本機能の確認

給与・賞与の計算:基本給、残業手当、各種手当の自動計算機能が正確であるか、また特殊な計算が発生する場合(例:交替勤務やシフト制)に対応可能かどうかを確認します。

年末調整の自動化

扶養控除や生命保険料控除などの年末調整項目が自動処理され、必要な帳票が出力される機能が備わっているか。

勤怠システムとの連携

勤怠システムからのデータインポートが可能かどうか、またデータを取り込んだ後に自動で給与計算に反映できるかをチェックしましょう。

独自の業務フロー対応

特殊な雇用形態や支給形態がある場合(たとえば時給制・月給制の混在や、プロジェクト単位の支払い形態)、その企業特有のフローに対応できるか確認が重要です。

承認フローの柔軟性

給与計算後に複数段階の承認を設定できるか、部門ごとや役職ごとに異なる承認フローをカスタマイズできるかも要確認ポイントです。

より細かく具体的な点としては、以下について確認すると良いでしょう。

機能面

給与計算月給、日給、時給、歩合など、様々な給与体系に対応しているか。
勤怠管理勤怠データと連携し、自動で給与計算に反映できるか。残業時間、休日出勤、深夜勤務などの計算に対応しているか。
社会保険社会保険料の計算、控除、届出に対応しているか。健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険など、各種保険に対応しているか。
税金源泉所得税の計算、控除、年末調整に対応しているか。住民税の計算、納付に対応しているか。
賞与賞与計算、賞与明細の作成に対応しているか。
年末調整年末調整に必要な書類の作成、提出に対応しているか。
給与明細給与明細書の作成、電子交付に対応しているか。
帳票出力各種帳票(給与台帳、賃金台帳、源泉徴収簿など)の出力に対応しているか。
マイナンバー管理マイナンバーの収集、保管、管理に対応しているか。セキュリティ対策は万全か。
従業員情報従業員情報の一元管理、人事情報との連携に対応しているか。
その他・複数拠点の給与計算に対応しているか。
・各種手当、控除に対応しているか。
・銀行振込データの作成に対応しているか。
・従業員向けのセルフサービス機能(給与明細の閲覧、勤怠申請など)があるか。
・モバイル対応(スマートフォン、タブレット)しているか。
・外国人従業員の給与計算に対応しているか。

操作性

インターフェース画面が見やすく、操作しやすいインターフェースであるか。
入力入力項目がわかりやすく、入力しやすい操作性であるか。入力ミスを防ぐためのチェック機能があるか。
検索必要な情報を簡単に検索できる機能があるか。
マニュアル操作マニュアルがわかりやすく、充実しているか。オンラインマニュアルや動画マニュアルがあるとさらに便利。
サポート操作方法に関する質問をしやすい環境があるか。電話、メール、チャットなど、複数のサポート窓口があると良い。

セキュリティ

アクセス制限従業員情報へのアクセス権限を設定できるか。
データ暗号化データの送受信や保管時に暗号化されているか。
データバックアップデータのバックアップ体制は万全か。バックアップデータの保管場所は安全か。
災害対策災害発生時のデータ保護対策は万全か。
ISMS認証情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)認証を取得しているか。

サポート体制

対応時間サポート窓口の対応時間はどのくらいか。
対応方法電話、メール、チャットなど、どのような方法でサポートを受けられるか。
対応内容操作方法の質問だけでなく、トラブル発生時の対応もしてくれるか。
SLAサービスレベルアグリーメント(SLA)で、サポートの品質が保証されているか。

費用・料金

初期費用システム導入にかかる初期費用はいくらか。
月額利用料月額利用料はいくらか。従業員数や機能によって料金が変動するか。
従量課金従量課金制を採用しているか。
オプション費用オプション機能の追加費用はいくらか。
バージョンアップ費用バージョンアップ費用はいくらか。
解約費用解約時に費用が発生するか。

他サービスとの連携

勤怠管理システム既存の勤怠管理システムと連携できるか。
人事システム既存の人事システムと連携できるか。
会計ソフト会計ソフトとの連携機能があるか。
API連携API連携に対応しているか。

セキュリティ対策の具体的な検証

給与データには個人情報が含まれるため、クラウドの利用に伴うセキュリティリスクを慎重に検証します。具体的には以下の点を確認します。

アクセス制限機能

権限管理が細かく設定でき、給与担当者、経理担当者、管理職などユーザーごとに閲覧・編集権限を制限できるかを確認します。特定の部門のみがアクセスできる情報、また一般社員には見られないデータがあるかどうかを明確にしておきます。

データ暗号化

通信時と保存時のデータが暗号化されていること、特に給与データや個人情報が保管されるサーバーがSSL/TLS暗号化されていることを確認します。

ログ監視と監査ログの管理

システムにアクセスしたユーザーやデータに変更を加えた履歴が保存され、必要に応じて管理者がチェックできるかどうかを確認します。特に、内部不正の防止や監査対応のために、詳細な監査ログが提供されていることが望ましいです。

二要素認証(2FA)

特に管理者や給与担当者が使うアカウントには二要素認証を導入し、不正アクセスリスクを低減させることが推奨されます。スマホアプリを使ったワンタイムパスワードによる認証も有効です。

データバックアップ

データのバックアップ体制は万全か、バックアップデータの保管場所は安全かをサービス提供側に確認しておきます。特に災害対策として、災害発生時のデータ保護対策は万全かの確認をしておきましょう。

ISMS認証

情報セキュリティ面の安全を担保する意味で、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)認証の取得有無を確認します。

コスト面でのシミュレーション

クラウド給与計算システムの導入には初期費用、ランニングコスト、追加機能の費用などがかかるため、事前にしっかりと予算を立て、導入後に追加コストが発生しないか確認することが必要です。

初期導入費用

初期設定費用や、現行システムからのデータ移行費用があるかどうか、導入時のトレーニング費用や初期設定サポートの有無も確認します。

月額費用と従量課金制の確認

多くのクラウドサービスは従量課金制が一般的で、従業員数や利用頻度に応じた課金がされるため、長期利用を前提にしたシミュレーションが重要です。たとえば、従業員数の増加に伴って課金が増える場合、3年後・5年後の予算を見積もります。

追加機能のオプション費用

レポート機能や法改正対応オプションなど、追加機能により料金が発生することが多いため、自社の利用頻度に合ったオプションを検討します。具体例として、年次のデータ分析機能や部門別の給与分配レポートなどが必要な場合は事前に見積もりを取得しておくと安心です。

バージョンアップ費用

利用サービスのバージョンアップに費用がかからないか、万が一費用がかかる場合はいくらになるかも確認しておきます。

解約費用

利用サービスを解約する時に費用が発生するか、年間利用契約の場合は、残月数の料金が発生するのかも念のため確認しておきます。

現行データの整理と確認

システム導入前に、現行の給与データを整理しておくことが大切です。これにより、データ移行作業がスムーズになります。

データの正確性チェック

給与や勤怠に関するデータに誤りや不備がないか事前に確認し、必要であれば修正を行います。具体的には、残業時間の計算や手当の適用などが正確であるか、法令に沿った数値となっているかを確認します。

データ移行の準備

現在のデータをクラウドシステムに移行する際、データ形式(例:CSVファイルなど)を確認し、システムが受け入れやすい形式に変換します。これにより、データ移行時のエラーや不具合を防げます。

バックアップの取得

データ移行作業前には、必ず現行データのバックアップを取得し、万が一のデータ損失に備えます。

そして実際に運用を始める前に、システムが計画通りに動作するか確認するためのテストを行います。

パイロットテストの実施

全社員分のデータを使用する前に、少数のデータ(例えば数名分の給与データ)でテストを行い、給与計算が正確に行われるかを確認します。

特に残業代や深夜手当の自動計算機能が正確に動作するかなど、細かい設定も含めて検証します。

想定ケースでの試算

実際の給与計算を想定し、基本給・手当・控除の設定が正確に反映されるか確認します。特殊な給与パターン(例:契約社員やパートタイムの計算)も含めて多様なケースで試算しておきます。

システムのレスポンスチェック

給与計算の集計やレポート作成に時間がかからないか確認します。特にピーク時に処理が滞らないかもテストで確認しておくことが重要です。

社内教育と業務フローの整理

クラウドシステム導入には、従業員への操作教育と業務フローの見直しが必須です。新システム導入後のトラブルを防ぐため、次のような準備を行います。

操作トレーニングの実施

給与担当者や管理職に向けた操作マニュアルを作成し、システムの操作方法や注意点を丁寧に説明します。例えば、システム提供会社のトレーニングプログラムを活用し、給与計算担当者が基本操作やトラブル対応について習熟することが大切です。

エラーチェックと承認フローの確認

給与計算後のデータ確認や承認フローが円滑に行えるかを事前に確認し、データチェックに漏れがないか、特に締め処理前の最終確認手順を整備します。

業務フローの標準化

クラウドシステム導入に伴い、従来の業務フローを見直し、標準化します。月末処理や勤怠データのインポートタイミングなどを明文化し、担当者ごとに処理が異なることがないようにします。

定期的な見直しと改善策の実施

システムは一度導入すれば終わりではなく、運用を続けるうちに追加のニーズや改善点が生じる可能性があります。特に、法令の改正や給与制度の変更に伴ってシステムの見直しが必要です。

法改正対応の確認

社会保険料率の変更や所得税の変更が行われた際、システムが最新の法令に自動で対応しているかを確認します。提供会社のサポートや通知機能を活用して、改正への準備を怠らないようにします。

ユーザーからのフィードバック

システムの操作性や使い勝手について担当者からのフィードバックを定期的に収集し、システムに改善が必要であれば、システム提供会社に要望を伝えるとともに、追加トレーニングを実施します。

まとめ

クラウド給与計算システム導入では、業務プロセスの最適化とデータ管理体制の確立が重要です。

事前に具体的な準備を整え、円滑な運用を目指すことで、導入後のトラブルやコスト増を防ぎつつ、効率的な業務フローを確立できます。

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執筆者プロフィール

成澤先生

成澤 紀美
特定社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)
社会保険労務士法人スマイング 代表社員
株式会社スマイング 取締役
クラウドBPO株式会社 代表取締役

大手システムインテグレーション企業・外資系物流企業・住宅建設不動産企業でシステムエンジニアとして長年にわたり技術開発・システム設計を担当。人事管理システム構築を行った事がきっかけで人事・労務に興味をもち、人事労務コンサルティングを行う。

IT業界に特化した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。企業の視点に立った労務管理セミナーや研修を行っている。

「IT業界 人事労務の教科書」「自社に最適な制度が見つかる 新しい労働時間管理 導入と運用の実務」「労務管理の実務が丸ごとわかる本」「改定版)IT業界 人事労務の教科書」「エンジニアが働き方で困ったときに読む本」、近著は「ポストコロナの就業規則見直し」を出版。

社会保険労務士法人としては、IPO(株式公開)向け労務デューデリや人事労務対策支援にも注力し、監査法人や証券会社と企業間のコーディネーターの役割も担っている。

顧問先企業の約8割がIT関連企業。

2018年よりクラウドサービスを活用した人事労務サービスで業務効率化を図ったり、 クラウドサービス導入時の困ったを解決する「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」サービスを展開。2018年10月のマネーフォワード社主催のMFクラウドExpoで「クラウドサービスアワード2018大賞」を受賞。

2021年10月より給与計算などBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)に特化した「クラウドBPO株式会社」を共同設立し、企業ニーズへの対応を進めている。

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