【人事労務担当者向け】時短勤務における給与計算の方法とは?
はじめて社内で給与計算の担当になったときには、覚えることが多くて戸惑いますよね。
給与の具体的な計算方法はもちろん、社内手続きのフロー、ソフトやシステムの使い方も覚えなくてはなりません。
「従業員の方々の大切な給与を間違えずに計算しなければならない」と、プレッシャーに感じることもあると思います。
でも、一つひとつを着実に理解していけば、給与計算をこなせるようになるでしょう。
この記事では、現在では珍しくなくなった「時短勤務」で働く方々の給与の計算方法について紹介します。
目次▼
■時短勤務とは■
短時間勤務制度、いわゆる「時短勤務」とは、1日の労働時間を通常よりも短くして勤務することを言います。
時短勤務の種類は、会社によって異なります。
メジャーなのは、育児・介護のための時短勤務です。育児・介護休業法において、会社には、3歳未満の子どもを育てる従業員や要介護状態の対象家族を介護する従業員が希望した場合に利用できる短時間勤務制度を設けることが義務づけられています。
育児に関しては、「1日の所定労働時間が原則6時間とする措置を含む」とされていますので、このパターンが最も多いと思われます。
法的には、3歳未満の子どもを育てる場合か要介護状態の対象家族を介護する場合のみ時短勤務をできることになりますが、会社によって対象者を広げることは可能です。
小学生の子どもを育てる従業員も短時間勤務制度を利用できる会社や、特に制限なく誰でも利用できるようにしている会社もあります。また、短縮できる時間についても、会社の裁量で決めることができます。
■時短勤務の給与体系は会社によって異なる■
さて、時短勤務をしている従業員の給与は、どのように計算すればよいのでしょうか。
まず、給与体系をどのように作るかは、最低賃金を下回っていなければ、会社の自由に委ねられています。なぜなら、従業員の働きに対してどのくらいの対価を支払うかは、契約によって決まるからです。つまり、雇用契約書や就業規則に記載してある通りとなります。
通常、時短勤務時の給与については就業規則に定められてありますので、確認してみましょう。
ちなみに、厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」によると、育児のための短時間勤務制度の短縮時間分賃金の取り扱いについては以下のようになっています。
・無給:78.8%
・有給:10.7%
・一部有給:10.4%
短縮した時間については、「ノーワーク・ノーペイ」の原則により、給与を支払わない会社が圧倒的に多いことが分かります。
■一般的な給与計算の方法■
短縮した時間分の給与は支払われない「無給」のケースの給与計算の方法を解説します。
たとえば、所定労働時間を8時間から6時間に短縮させた場合は、
時短勤務の基本給=(従前の基本給)×(6/8)
となります。
従前の基本給が25万円だったとすると、時短勤務の基本給は187,500円(=250,000円×6÷8)です。
つまり、
時短勤務の基本給=(従前の基本給)×(時短勤務の所定労働時間)÷(従前の所定労働時間)
で求めることができます。
ここで注意が必要なのは、時短勤務の給与体系は会社の自由に決められるとは言っても、短縮した時間以上に給与を減らしてはいけないということです。
短縮した時間以上に給与を減らすことは、「労働条件の不利益変更」や「不利益取扱い」にあたるからです。労働条件の不利益変更は、原則従業員の同意が必要となります。
また、不利益取扱いは育児介護休業法により禁止されています。
各種手当については、基本給と同様に所定労働時間比率で按分する場合が多いと思われますが、手当の性質・種類によっても「100%支給」「支給なし」など取り扱いが異なりますので就業規則等で確認しましょう。
■時短勤務の社会保険はどうなる?■
短縮した時間分が無給になってしまい給与が下がったら、社会保険料の負担が重くなってしまいます。
そのため、育児のための時短勤務に関しては、月額変更に特例が設けられています。
この手続きを「育児休業等終了時報酬月額変更届」と言います。
通常の月額変更は標準報酬月額に2等級以上の差が生じたときに手続きを行いますが、育児休業から復帰後の月額変更は1等級でも差が生じれば手続きを行うことができます。
ただし、この手続きを行うことは会社の義務ではありません。社会保険料が下がることは傷病手当金等の給付額に影響を与えますので、本人に確認してから手続きすることが必要です。
■時短勤務で残業した場合■
短時間勤務制度を利用して所定労働時間を短くしているわけですから、業務量の調整がうまくできていれば残業をすることはあまりないでしょう。
しかしながら、突発的な顧客からの要請や緊急事態などで時短勤務中の従業員が残業しなければならないこともあると思います。このときの残業代の計算方法は、各社の就業規則の定めにもよりますので、まずは就業規則をご確認ください。
労働基準法の最低基準では、週40時間までは時給分のみ、週40時間超の部分には割増賃金を支払うことが求められています。
割増賃金額=(1時間当たりの賃金額)×(残業時間数)×(割増賃金率)
1時間当たりの賃金額=(月の所定賃金額)÷(1ヶ月の平均所定労働時間)
1ヶ月の平均所定労働時間=(1年間の所定労働日数)×(1日の所定労働時間)÷12
たとえば、時短勤務時の所定賃金額が20万円、1年間の所定労働日数が240日、1日の所定労働時間が6時間だとします。
1時間当たりの賃金額は、
20万円÷(240日×6時間÷12)≒416.7円
となり、
週40時間超の部分の時間数が5時間の場合、割増賃金額は、
416.7×5×0.25≒521円(時給部分は除く)
となります。
月の所定賃金額の求め方は、上記「一般的な給与計算の方法」を参考にしてください。
なお、育児・介護中の従業員に対しては、残業させられる時間に一定の制約がありますのでご注意ください。小学校就学までの子どもを育てる従業員か、要介護状態の対象家族を介護する従業員から請求があったときは、事業の正常な運営に支障のある場合を除いて、1ヶ月について24時間、1年について150時間を超える時間外労働をさせてはなりません。
■賞与の計算方法は?■
賞与の計算方法ついても、時短勤務時の給与や割増賃金の計算方法と同様、通常は就業規則に定めがありますので、まずは確認してみましょう。
基本給を基準にしている場合は時短勤務時の基本給を利用することとしたり、短縮した時間分は勘案しないこととしたりする決まりは、問題ありません。
しかしながら、短時間勤務制度を利用したことをもってのみ賞与を全額不支給とすることは違法と判断される可能性が高いと言えます。
「代々木ゼミナール(東朋学園)事件(最一小判平15・12・4)」では、「出勤率が90%以上の者に賞与を支給する」と定めていたところ、産後休業取得と時短勤務をした従業員がこの要件を満たさないとして賞与を全額不支給としたことが違法と判断されています(ただし、2割ほどの減額は妥当だと示されています)。
♦事前設定をしっかり確認しよう♦
給与計算ソフトやシステムを使って時短勤務の従業員の給与を間違いなく計算するには、事前設定をしっかりと確認しておくことが重要です。
この記事で紹介した内容を踏まえ、以下のポイントをチェックしてみてくださいね。
・どのくらいの労働時間を短縮させるのか
・時短勤務の期間はいつからいつまでか
・短縮した時間分は有給か無給か
・各種手当はどのように支払うのか
・育休復帰後の場合は月額変更の特例手続きを行うか
・時短勤務時の残業単価は正しく設定されているか
・賞与の計算方法を確認・正しく設定されているか