【第54回】勤務間インターバル制度、導入と運用のポイントは?
- 2025年3月14日
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目次
はじめに
勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻までの間に一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みを指します。
この制度は、労働者の十分な生活時間や睡眠時間を確保し、健康維持とワーク・ライフ・バランスの向上を目的としています。具体的には、例えば前日の業務終了から翌日の業務開始までに11時間の休息を設ける、といった形で運用されます。
制度の導入状況
相談窓口の設置同制度は、労働時間等設定改善法の改正により、平成31年4月から導入が企業の努力義務になりました。
令和6年就労条件総合調査によると、同制度を「導入している」企業は5.7%です。「当該制度を知らなかった」ことで導入や検討をしていない企業は全体の14.7%。努力義務ということもありますが、まだまだ社会には浸透していない状況がうかがえます。
このような中、政府は「過労死等の防止のための対策に関する大綱(令和6年8月2日)」において、令和10年までに、労働者数30人以上の企業につき、導入企業の割合を15%以上、勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を5%未満とする数値目標を掲げています。
従業員の定着に効果大
株式会社ワークライフバランスによる調査では、「勤務間インターバル制度の導入は有給取得率向上や基本給・賞与の増額などの他の施策と比較しても、従業員満足度が向上した割合(64.3%)および離職率の低下(35.7%)に効果的である」という結果が出ています(第2回働き方改革に関する実態調査(2020 年))。
勤務間インターバル制度は、従業員の健康への寄与だけでなく、既存社員の定着率にも大きく効果を発揮するのです。ほとんどお金をかけずに取り組める施策なので、導入を検討している企業は是非取り組んで見て下さい。
導入のポイント
(1)労働時間の実態把握
従業員の労働時間や業務内容を把握します。勤怠管理システムのデータや従業員へのヒアリングを通じて現状を明確にしましょう。
この実態把握ですが、ポイントは事細かくする必要ない、ということです。詳細なデータを分析する時間がもったいないです。ある程度把握出来たら、実際にやってみることの方が大切です。ここが費用をかけることなく取り組めるメリットです。もし不都合が生じたら改善すればよいのです。
(2)インターバル時間は各社様々
この時間は(1)で把握した各社の状況に合わせて設定します。よく「何時間に設定するのがいいですか」と聞かれることもありますが、どの企業にも一律に設定できるものでもありません。自社の業務特性や従業員の生活リズムを考慮し、適切な時間を設定しましょう。一応の目安ですが、厚生労働省の働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)等を勘案すると、私は「9時間以上」を推奨しています。
ちなみに、EUにおいては、EU指令によりEU加盟国のすべての労働者に、24時間ごとに、最低でも連続11時間のインターバル時間を確保するために必要な措置を設けることとされています。
また、インターバル時間を考える際ですが、「睡眠時間+生活時間+通期時間」と捉えることがポイントです。例えば、「睡眠に最低6時間必要。食事や休息で1時間。うちの社員の平均通勤時間は1時間。よって8時間以上とする」というように分解して検討してみてください。
この他、時間数の設定に当たっては、一律に設定、職種によって分ける、義務とする時間数と健康管理のための努力義務とする時間数を分ける(「8時間は必須。できれば11時間。」)など、工夫することができます。
運用のポイント
(1)安全衛生委員会の議題とする
運用状況をチェックし改善するための機会として、安全衛生委員会の議題にします。導入しただけでは職場に定着しません。さきほど「とりあえずやってみる」ことをおすすめしましたが、不都合が生じたらすぐ対応できるようにPDCAを回せる仕組みを作っておきましょう。
(2)適用除外を設けておく
企業活動の中では、緊急事態やトラブル対応等、どうしてもインターバルが取れない状況もでてきます。そのような「やむを得ない場合」を予め適用除外として定めておきましょう。例えば、重大なクレームに対する業務、突発的な設備のトラブルに対応する業務、海外事案の現地時間に対応するためのオンライン会議などが考えられます。
例外はできるだけない方がいいのですが、このような適用除外事由を示しておくことで現場での無用な混乱を避けることができます。
(3)インターバルが取れなかった場合の対応
インターバルが取れなかった場合の対応を決めていますか。例えば、インターバル時間を確保することによって、翌日の所定勤務開始時刻を超えてしまう場合もでてきます。このときの代表的な対応方法は2つあります。
①翌日の勤務開始時刻を繰り下げる
(出典:厚生労働省「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」)
翌日の勤務時刻を繰り下げる場合でも、上記の図のように、「終業時刻を繰り下げる方法」と「終業時刻は変更せずそのままにする方法」があります。
②インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複する部分を働いたものとみなす
(出典:厚生労働省「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」)
この場合、働いたと「みなす」ことで賃金は減額されません。「みなさない」場合、会社の都合(制度)により出勤できないことになるため、折る小津基準法26条による休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いが必要となると考えます。
(4)顧客や取引先の理解を得る
円滑な運用のためには顧客や取引先の理解も重要です。顧客から短納期発注や突発的な作業依頼が続けば、インターバル時間を確保することは難しくなります。そのため、顧客・取引先に対して「制度の趣旨や内容を説明する」、「期日にゆとりを持った計画的な発注を依頼する」等の対応を検討してみましょう。この場合、一担当者だけでは対応できないこともあるため、国や企業としての取り組みをアピールすることがポイントになります。

執筆者プロフィール

三谷 文夫 (みたに ふみお)
社会保険労務士/産業カウンセラー
三谷社会保険労務士事務所 代表
中小企業の就業規則・人事制度構築を得意とする社会保険労務士
保有資格:アンガーマネジメントファシリテーター
1977年大阪府生まれ。兵庫県在住。
慶應義塾大学卒業後、地元兵庫県の有馬温泉旅館でフロントスタッフとして働くも1年で退職し、大学時代から挑戦していた司法試験に再挑戦。25歳頃までアルバイトをしながら試験合格を目指すも断念。その後は転職を繰り返し、営業、販売、事務、接客に携わる。合間に東欧への放浪の旅をしながら気ままに過ごすも、将来に不安を感じてきたところで28歳の時に製造業の総務課に採用していただく。
総務課では社会保険、給与計算などの事務を始め、採用、評価、従業員満足度向上施策、労働組合や地域住民との渉外交渉、労務費の予算作成・実績管理など、幅広い業務に従事。
「従業員が相談しやすい総務スタッフ」を意識して職務に取り組む。また、工場での勤務ということもあって、労働安全衛生の重要性を実感するとともに、労務管理では現場のスタッフとの関係性が大切であることを学ぶ。在職中に社会保険労務士の資格を取得。
2013年、「多くの中小企業経営者に労務管理の大切さを伝えたい」という想いが募り、社会保険労務士事務所を開業し独立。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングは、優しい語り口調も相まって人気がある。また、自身の総務課経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚く、これまでに関与してきた顧客数は60社以上。
労務相談をメインに、クライアント企業にマッチした就業規則の作成、運用のサポートまで行う人事評価制度の構築が得意。その他、メンタルヘルス、承認力、ハラスメント、怒りの感情との付き合い方、健康経営、SDGs等をテーマに、商工会議所、商工会、自治体、PTAその他多数講演。新入社員研修、管理職向け行動力アップ研修等、年間20回以上登壇する企業研修講師でもある。
2020年から関西某私大の非常勤講師。300名の学生に労働法の講義で教鞭をとる。
趣味は喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。ランニング。
家族は、妻と子ども4人、金魚のきんちゃん。