【第14回】障害者法定雇用率の引き上げ!障害者雇用と障害者雇用状況報告について解説します
- 2024年3月6日
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社会保険労務士による労務解説記事が毎月3回(第1.2.3水曜日)にUPされます。
第14回目は社会保険労務士寺島先生(寺島戦略社会保険労務士事務所代表)による解説です。
はじめに
障害者雇用促進法において、民間企業は法定雇用率(令和3年)2.3%以上の障害者を雇うことが義務付けられています。厚生労働省が公表した令和5年の「障害者雇用状況」集計結果によると、民間企業の雇用障害者数・実雇用率が過去最高を更新しています。また法定雇用率達成企業の割合は50.1%に達し、2社に1社が法定雇用率を達成していることが明らかになりました。
令和6年4月には法定雇用率が引き上げられる予定ですので、今後ますます注目される障害者雇用について解説します!
障害者雇用促進法に定められた事業主の義務
障害者雇用促進法とは正式名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」といい、障害者の雇用の安定を実現するための具体的な方策を定めた法律で、「障害者の雇用促進」「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会および待遇の確保」「職業生活において自立」に関する施策を総合的に講じ、障害者の職業安定を図ることを目的としています。
障害者雇用促進法上、事業主には下記の義務が発生します。
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障害者雇用義務
- 差別禁止と合理的配慮の提供義務
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障害者職業生活相談員の選任
- 障害者雇用に関する届出
1-1.障害者雇用義務
障害者雇用促進法上、事業主には従業員の一定割合(法定雇用率)以上の障害者を雇用する義務があり、これを「障害者雇用率制度」といいます。民間企業の場合、法定雇用率は現在2.3%となっており、従業員人数が43.5人以上の企業は1人以上障害者を雇用する義務があることになります。
例えば常時雇用している労働者※が100人の企業の場合、100人×2.3%=2.3人⇒小数点以下切り捨てで2人以上の障害者雇用義務が発生します。
※常時雇用する労働者とは 、1 週間の所定労働時間が 20 時間以上かつ 1 年を超えて雇用される見込みがある、または 1年を超えて雇用されている労働者のことを指します。
雇用率の対象になる障害者は、身体障害者の場合は身体障害者手帳1~6級に該当する方、知的障害者の場合は、児童相談所などで知的障害者と判定された方、精神障害者の場合は、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方を指します。
1-2.障害者雇用納付金制度
法定雇用率を下回る場合は申告が必要になり、法定雇用率を満たしていない事業主のうち、常用雇用労働者が100人を超える事業主は、不足1人当たり月額50,000円の障害者雇用納付金が徴収されます。
一方、法定雇用率を上回る事業主は、申告に基づき障害者雇用調整金・障害者雇用報奨金が支給されます。法定雇用率を達成した事業主のうち、常用雇用労働者が100人を超える事業主は、超過1人当たり月額29,000円(令和5年3月31日までの期間については27,000円)が障害者雇用調整金として支給され、常用雇用労働者が100人以下の事業主は、超過1人当たり月額21,000円が障害者雇用報奨金として支給されます。
障害者雇用率制度や、障害者雇用納付金制度では、雇用する障害者の数を以下の表のように算定します。
2.差別禁止と合理的配慮の提供義務
障害者雇用促進法では、事業主の障害者に対する差別の禁止が規定されています。
具体的には募集・採用、賃金、配置、昇進などの雇用に関するあらゆる局面で、障害者であることを理由とする差別が禁止されています。例えば募集採用時に単に「障害者だから」という理由で、求人への応募を認めない、業務遂行上必要でない条件を付けて障害者を排除することや、採用後に労働能力などを適正に評価することなく、単に「障害者だから」という理由で異なる取扱をすることは障害者に対する差別とみなされます。
また、障害者雇用促進法では、事業主への障害者に対する合理的配慮の提供義務が規定されています。
例えば視覚障害がある方に対し、点字や音声などで採用試験を行う、精神障害がある方などに対し、出退勤時刻・休暇など、通院や体調に配慮することなどの措置を、過重な負担にならない範囲で提供する必要があります。
この合理的配慮の提供義務は、その措置を講ずることが事業主にとって「過重な負担」となる場合は除かれます。過重な負担に当たるかどうかは、次の要素を総合的に勘案しながら個別に判断されます。
- 事業活動への影響の程度
- 実現困難度
- 費用・負担の程度
- 企業の規模
- 企業の財務状況
- 公的支援の有無
個人情報保護法において、障害に関する情報は「要配慮個人情報」として規定されており、要配慮個人情報の収集には事前に本人の同意を得る必要があります。そのため、合理的配慮の提供のために、採用時に履歴書等と同様に「障害者手帳の写し」等を一律に必要書類として提出させることはできません。
ただし、指針において合理的配慮が必要な障害者は募集及び採用にあたって希望する措置の内容を自ら申し出る旨記載されており、配慮事項を確認するために、障害の状況(種別や程度)や配慮事項を可能な範囲で障害者自身に応募書類に記入していただくことは問題ありません。
求人応募の際に履歴書の備考や別紙等にて、ご本人に障害の内容や配慮事項を申告してもらうことによって、より詳細な配慮事項を把握することができるでしょう。
3.障害者職業生活相談員の選任
障害者雇用促進法上、障害者を5人以上雇用する事業所(事業所とは雇用保険制度におる適用事業所と同様)では、障害者の実人員が 5人以上となってから3か月以内 に「 障害者職業生活相談員 」を選任し、その者に障害のある従業員の職業生活に関する相談・指導を行わせなければなりません。選任後は、その事業所を管轄するハローワークに「障害者職業生活相談員選任報告書」を遅滞なく届け出る必要があります。
なお、義務ではありませんが、障害者の雇用義務がある事業主は、企業内で障害者雇用の取組体制を整備する「障害者雇用推進者」を選任するよう努める必要があります。
4.障害者雇用に関する届出
障害者の雇用義務がある事業主は、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)をハローワークに報告する義務があります。毎年報告時期に、対象となる事業所に報告用紙が送付されますので、必要事項を記載の上7月15日までに報告が必要です。
また、障害者雇用促進法上、「労働者の責めに帰すべき理由による解雇」や「天災事変その他やむを得ない理由のために事業の継続が不可能となったことによる解雇」を除き、障害者を1人でも解雇する場合、解雇届の提出が必要です。
そのほか障害者虐待防止法(2012年10月1日施行)上、障害者を雇用する事業主は、障害者虐待を防止するため、労働者に対する研修の実施、障害者や家族からの苦情処理体制の整備などの措置を講ずることもあわせて必要です。
障害者雇用における法改正予定
1.法定雇用率の引き上げ
法定雇用率は令和6年4月以降段階的に引上げが予定されています。民間企業の場合、現在の法定雇用率は2.3%、1人以上障害者を雇用する義務がある対象事業主の範囲は43.5人以上ですが、令和6年4月には2.5%、対象事業主の範囲は40.0人以上に引き上げられます。さらに令和8年7月には法定雇用率は2.7%、対象事業主の範囲は37.5人以上に引き上げが予定されています。
2.障害者算定方法の変更
現在週所定労働時間が20時間未満の障害者については雇用率算定上カウントされませんが、令和6年4月以降は週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者及び重度知的障害者について、0.5カウントとして算定できるようになります。
3.除外率の引き下げ
障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種について、一律に法定雇用率を適用することがなじまない職務もあることから、障害者の雇用義務を軽減する除外率制度があります。例えば医療業や幼稚園、船舶運航や建設業といった事業は除外率が設定されています。具体的には雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除することができます。
この除外率制度はノーマライゼーションの観点から廃止の方向で段階的に除外率を引き下げ縮小することとされていますが、令和7年4月以降は一律に10ポイントの引き下げが予定されています。
4.障害者雇用調整金・報奨金の支給調整
令和6年度の実績に基づく令和7年度支給の際から、障害者雇用調整金・報奨金について支給対象人数が一定以上の場合には、障害者雇用に要する費用は雇用者数が増えるほど低減していくとして、超過人数分への支給額が減額される予定です。
調整金については支給対象人数が10人を超える場合には、超過人数分への支給額が29,000円から23,000円に調整され、報奨金については支給対象人数が35人を超える場合には、超過人数分への支給額が21,000円から16,000円に調整されます。
障害者雇用促進のための助成金
このように年々高まる障害者法定雇用率ですが、障害者を雇い入れたり施設等の整備を行ったりした場合に、事業主に支給される様々な助成金があります。
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
- 特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
- トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース)
- 障害者雇用納付金関係助成金
- 人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)
- キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)
法定雇用率引き上げにあわせ、従来の助成金の拡充と新たな助成金が予定されています。令和6年4月から始まる障害者雇用相談援助助成金は、障害者雇用ゼロの企業や法定雇用率未達成である中小企業等に対して障害者の雇い入れや雇用管理に関する相談援助事業を実施した事業者に対し支給されるものです。
このように様々な助成金が用意されていますので、障害者雇用を検討されている企業様は助成金の活用もご検討されてはいかがでしょうか。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
これまで法定雇用率が未達成であっても納付金を収めてきた企業様もいらっしゃると思います。しかし、今後は障害者の特性にあわせながらその活用を進めることが求められていきます。
法定雇用率の引き上げにむけ、不足している企業様では助成金も活用しながら早めに障害者雇用を進めることが重要です。障害者雇用に関して事業主に課される義務や届出についてこれまであまり注視していなかった企業様も少なくないと存じますので、この機会に改めて制度理解にお役立ていただければ幸いです。
執筆者プロフィール
寺島有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所所長社会保険労務士
一橋大学商学部卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。
在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO 労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
HP:https://www.terashima-sr.com/
2019年4月に、「これだけは知っておきたい!スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまでこの一冊でやさしく理解できる!」を上梓。