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社会保険労務士による労務解説記事が毎月2回!(第1水曜日と第3水曜日)にUPされます。
第8回目は社会保険労務士三谷先生(三谷社会保険労務士事務所代表)による解説です。
働き方改革の下、国が副業を推進する方向に動いてきたのに加えて、副業を希望する労働者や、実際に副業を行っている労働者が増えてきています。私の周りでも、企業に勤めながら、「副業で」社労士事務所を開業している方もいます。働き方は多様性を増してきています。
今回は、このような労働環境の変化の中、会社が副業を認める場合に、その判断基準と注意しなければならない事項について解説します。
会社によっては、「副業は禁止。うちの仕事に専念してほしい。」という声もあるでしょう。では、このように副業を禁止することに問題はあるでしょうか。
この点、労働契約上、労働者は、勤務時間中は会社に拘束されますが、勤務時間外については何をしようが自由です。また、憲法上、職業選択の自由が保障されており、副業をする自由があると考えられます。
そのため、原則として、会社が勤務時間外に副業を禁止することはできないといえるでしょう。
原則として副業を認めるとしても、副業の内容や態様によっては、本業の業務に支障を及ぼしたり、会社へ損害を与えたりすることも考えられます。そのような場合まで副業を認める必要はありません。そのため、裁判例を踏まえて厚生労働省が作成した「副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和4年7月改定)」(以下、「ガイドライン」という。)では、副業を禁止あるいは制限することができる事由として、次の①~④の判断基準が示されています。
実務的には、従業員から副業の申し出があった場合、この判断基準に照らして副業を認めるかどうかの判断を行いましょう。
例えば、本業での仕事を終えた後、そのまま深夜まで副業をする場合、次の日の本業の仕事に支障を及ぼす可能性があります。労働契約上、労働者には職務専念義務があり、誠実に職務に取り組まなければなりません。
そのため、副業によって本業が疎かになるような場合には副業を制限することができます。
例えば、自社の重要な秘密情報が副業先へ漏洩するような場合、会社としてはそのような副業を制限することができます。
例えば、副業先が自社と同業であった場合、自社の利益が害されるおそれがあります。
このような場合には副業を制限することができます。副業先に雇用される場合だけでなく、副業先に取締役などの役員として関わったり、会社を設立したりする場合も同様に考えられます。
競業行為に限らず、その他自社の名誉や信用を損なう行為や会社と労働者の間で信頼関係を壊してしまうような行為に対しては、副業を制限することができます。
例えば、副業先が反社会的勢力の関わる会社であった場合、自社の信用を損なう行為あるいは信頼関係を破壊する行為といえます。
このように、副業を認めるかどうかは最終的に会社が判断することになりますが、その判断は個々のケースごとに行います。
副業について就業規則へ記載しましょう。副業のルールが明確でないと、労働者も担当者も困ります。
記載例としては、厚生労働省のモデル就業規則を参考にするとよいでしょう。記載のポイントは、前述したガイドラインに基づく4つの判断基準を盛り込む形で記載することです。
ちなみに、モデル就業規則は副業に関する記述が数年前にから変わりました。以前は、副業を原則禁止とする内容でした。
世の中の動きに合わせてモデル就業規則も変わっていますのでご注意ください。
就業規則に副業のルールを記載するとともに、従業員が会社に副業を申請する際の申請書も整備しておきましょう。
副業先の会社名や住所、労働日、労働時間などを記載する欄を設けておきます。その他、「雇用」か「非雇用」かの欄を設けておくことがポイントです。なぜなら、どちらかによって、自社における労務管理の仕方が変わってくるからです。
例えば、副業先で雇用関係にあれば、労働時間については、法令上、自社と副業先との労働時間を通算する必要があり、そのための確認事務が発生します。「非雇用」(例えば、ホームページの制作を請負契約で行う)であれば、このような労働時間の管理は不要です。
このように「雇用」か「非雇用」かは労務管理上重要な内容となりますので、申請書を通じてそのチェックは必ず行いましょう。
上記のとおり、副業が雇用契約の場合、自社と副業先との労働時間は通算する必要があります。通算する方法はガイドラインで確認できます。かなり技術的な内容ですので、ガイドラインを確認してもよく分からない場合には、社労士などの専門家に相談してください。
ここで大切なのは、労働時間を通算する必要があることを会社は労働者にしっかり伝えることです。そして、それを副業先にも伝えてもらう必要がある、ということです。
通算する以上、副業先での実労働時間を報告してもらう必要があります。報告については、「週に1回、副業先での1週間分の労働時間を報告してもらう」などルールを決めておきます。
では、労働者が副業での労働時間を正確に報告しなかった場合、会社は責任を問われるのでしょうか。この点、「労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は要せず、また、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りる」という厚生労働省の通達があります(令和2年9月1日基発0901第3号)。
よって、会社としては、本人からの申告ベースで通算すればよく、正確な時間を把握する義務はなく、会社が責任を問われることはありません。
労働者が申請をせずに無断で副業をするケースもあるでしょう。その場合、副業を禁止したり、懲戒処分を科したりすることはできるでしょうか。
勤務時間外に何をしようとも労働者の自由である、という前提では、無断で行っていたからといって副業を即禁止することに合理性はないと思われます。そのため、まずは改めて副業に関する申請書を提出してもらい、当該副業の内容を前述の4つの判断基準に照らして判断するとよいでしょう。
また、懲戒処分についても慎重に行うべきです。いきなり懲戒解雇等の重たい処分の場合、懲戒処分の相当性が否定される可能性があります。そのため、副業の内容や態様にもよりますが、懲戒処分を行うにしても訓告のような注意程度にとどめるべきと考えます。
世の中の流れ、労働者の働き方に対する考え方の変化などを踏まえ、副業は原則認める方向で社内ルールを整備していきましょう。例外的に、4つの判断基準に照らして副業を禁止あるいは制限するようにします。副業を認める際の注意点の中で最も大切なのは、労働時間の通算の件です。
副業先の労働時間の報告のルールもしっかり決めた上で運用するようにしましょう。
以上
三谷 文夫 (みたに ふみお)
社会保険労務士/産業カウンセラー
三谷社会保険労務士事務所 代表
中小企業の就業規則・人事制度構築を得意とする社会保険労務士
保有資格:アンガーマネジメントファシリテーター
1977年大阪府生まれ。兵庫県在住。
慶應義塾大学卒業後、地元兵庫県の有馬温泉旅館でフロントスタッフとして働くも、1年
で退職し、大学時代から挑戦していた司法試験に再挑戦。25歳頃までアルバイトをしなが
ら試験合格を目指すも断念。その後は、転職を繰り返し、営業、販売、事務、接客に携わ
る。合間に東欧への放浪の旅をしながら、気ままに過ごすも、将来に不安を感じてきたと
ころで、28歳の時に製造業の総務課に採用していただく。
総務課では、社会保険、給与計算などの事務を始め、採用、評価、従業員満足度向上施策、
労働組合や地域住民との渉外交渉、労務費の予算作成・実績管理など、幅広い業務に従事。
「従業員が相談しやすい総務スタッフ」を意識して職務に取り組む。また、工場での勤務
ということもあって、労働安全衛生の重要性を実感するとともに、労務管理では現場のス
タッフとの関係性が大切であることを学ぶ。在職中に社会保険労務士の資格を取得。
2013年、「多くの中小企業経営者に労務管理の大切さを伝えたい」という想いが募り、
社会保険労務士事務所を開業し独立。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重
視したコンサルティングは、優しい語り口調も相まって人気がある。また、自身の総務課
経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚く、これまでに関与してき
た顧客数は60社以上。
労務相談をメインに、クライアント企業にマッチした就業規則の作成、運用のサポートま
で行う人事評価制度の構築が得意。
その他、メンタルヘルス、承認力、ハラスメント、怒りの感情との付き合い方、健康経営、
SDGs等をテーマに、商工会議所、商工会、自治体、PTAその他多数講演。新入社員研修、
管理職向け行動力アップ研修等、年間20回以上登壇する企業研修講師でもある。
2020年から関西某私大の非常勤講師。300名の学生に労働法の講義で教鞭をとる。
趣味は 喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。ランニング。
家族は、妻と子ども4人、金魚のきんちゃん。