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給与計算に取り組むときには、大まかに、勤怠を確定させてから各支給額や控除額を計算していくという流れになります。
勤怠を確定するとは、各従業員の出勤日ごとの労働時間をチェックすることを意味しますが、そもそも「労働時間」とは何の時間を指すのでしょうか。
この記事では、労働時間の定義や争いになる代表例、労働時間を把握するための適正な方法などについて紹介します。
意外にも労働基準法には、「そもそも労働時間とは何なのか」という定義は明確には記載されていません。
労働基準法第32条は休憩時間以外の時間について規制しているため、労働時間とは「実際に労働させる時間(実労働時間)」のことを意味すると考えられています。
通説や行政解釈では、さらに詳しく定義づけられており、労働時間は「使用者の作業上の指揮監督下にある時間または使用者の明示または黙示の指示によりその業務に従事する時間」のこととされています。
つまり、社長や上司による指揮・指示の内容に従業員が応じている時間が労働時間であるといえます。
労働時間の定義については通説ができているものの、「ではAさんが〇〇をしていた時間は労働時間と解釈され、賃金が支払われるのか」ということについては、ときどき争われ裁判になります。
有名な裁判例は「三菱重工業長崎造船所事件(最一小判平12・3・9)」です。
従業員複数名が、始業時刻前後の更衣や保護具・工具の装着や脱離、作業場への移動時間などが労働時間にあたるとして、未払い賃金の支払いを求めました。
裁判所は「これらの時間は使用者の指揮命令化に置かれていると評価できる」として、会社に未払い賃金の支払いを命じました。
このように、労働契約書や就業規則で定められた所定労働時間や申請フローを経て承認された残業時間以外の時間も、賃金を支払うべき労働時間として認められることはあるのです。
「〇〇をしていた時間は労働時間かどうか」について議論になる代表的なパターンは以下の4つです。
1. 始業時刻前の準備時間
2. 終業時刻後の後始末の時間
3. 休憩時間
4. 研修や行事などに参加した時間
使用者の指揮・指示により、始業時刻前に交代引き継ぎ・整理整頓・朝礼などが強制的に行われる場合には、これらの時間も労働時間にあたると判断される可能性があります。
更衣については、安全靴や安全帽などの保護具を着用すること自体に入念な作業を要する場合には労働時間と判断される可能性があります。
一方、制服に着替えたり靴を履き替えたりするといった程度の更衣であれば、労働時間と判断される可能性は低いです。
「(1) 始業時刻前の準備時間」と同様、使用者の指揮・指示によって終業時刻後に交代引き継ぎ・整理整頓・機械点検などを行わなければならない場合は、これらの時間が労働時間にあたると判断される可能性があります。
ただし、入浴や簡単な着替えなどは労働時間ではないという解釈が一般的です。
休憩時間も「労働時間かどうか」について議論になる代表例です。
「『休憩時間』なんだから労働時間には該当しないだろう」と思えますが、実は違います。
「休憩時間」と称していても、休息のために労働から完全に解放されることが保障されていなければ、その時間は労働時間だと判断される可能性があるのです。
たとえば昼食をとりながら電話番をしなければならない、スマートフォンを見ていてもいいけれどお客さまが来店した際には即時に対応しなければならないといったケースは、こうした時間が労働時間と解釈されるかもしれません。
また、仮眠時間についてもよく問題になります。
警備・設備運転保全業務において仮眠時間に警報が鳴ったときはすぐに対応しなければならない場合、この仮眠時間は労働時間だと判断されました(大星ビル管理事件 最一小判平14・2・28)。
このように、労働から完全に解放されていない時間は、皆が「休憩時間」と呼んでいる時間であっても労働時間だと認められることがあります。
所定労働時間外に研修や行事などに参加した時間はどうでしょうか。
判断のポイントは、参加が強制されているかどうかです。
もし「レクリエーション」「お疲れさま会」などの名称がついていたとしても、参加しなければ評価が下がるといった実態があるときには参加が強制されていると解釈され、これらの時間が労働時間にあたると判断される可能性があります。
一方、従業員が勉強したくて自ら参加した研修や有志による打ち上げなどは労働時間にはあたりません。
2019年4月より、会社は従業員の「労働時間の状況を把握しなければならない」ことが労働安全衛生法により義務づけられました(安全衛生法第66条の8の3)。
どのように労働時間の状況を把握すべきかについては、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に記載されています。
ガイドラインに記載されている主な内容は、以下の通りです。
ガイドラインの内容には法的拘束力はありませんが、こうした基礎的なことをしっかり守ることは会社と従業員との不要なトラブルを防いで信頼関係を築くことに繋がります。
なお、いわゆる管理監督者には、このガイドラインの内容は適用されませんが、労働安全衛生法の労働時間の状況を把握する義務は適用されますので、ご注意ください。
安全衛生法第66条の8の3が適用されないのは、高度プロフェッショナル制度のもとで働くごく一部の方々のみです。
上記のガイドラインによると、労働時間把握の方法として自己申告制はあくまで代替手段であり、原則的な方法は使用者による確認・記録か客観的な方法であることが分かります。
人事労務に関する業務は、法改正の対応や日々のさまざまなトラブル対応など限りなくあり、労働時間の把握といった毎日発生する管理は、できる限り省力化することが重要でしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大が一つのきっかけとなり在宅勤務などのリモートワークが普及した現在では、いつでもどこでも勤怠情報が収集できるクラウドサービスが便利です。
このような便利なサービスが提供される前は、従業員が職場にあるタイムカードを押して給与担当者が手作業で集計するしかありませんでした。今は、数えきれないほどの人事管理・勤怠管理のためのクラウドサービスがリリースされています。
打刻などの基本的な機能はもちろん、残業申請や有給申請などもできるサービスが多いため、日々の人事労務管理の負荷を低減させることが可能です。
クラウドサービスであれば、従業員や管理者がどこにいても勤怠を記録・確認することができるため、ガイドラインでいう「客観的な方法」として、第三者にも説明できるでしょう。