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【第46回】労災保険制度と労災事故発生時の対応

【第34回】パートの雇用保険加入要件と適用拡大を解説


毎週水曜日に掲載している社会保険労務士による記事、第46回は寺島 有紀先生(寺島戦略社会保険労務士事務所 代表)による解説です。

労災保険とは、労働者が業務上の理由または通勤が原因で負傷したり、病気になった際に支給される保険です。しかし、あまり

本記事では、労災保険の基本から詳しい部分までご紹介いたします。

目次

はじめに

労災保険制度とは

適用事業所

労災保険給付の種類

労災保険給付の請求

業務災害について

精神障害の労災補填について

通勤災害について

第三者行為災害

おわりに

はじめに

「会社に申告していた経路と異なる経路で通勤していて事故にあったら労災がおりませんか?」、「業務中に従業員が不注意でけがをしたのですが労災になりますか?」というご質問を受けることがあります。

あまりなじみのない労災保険制度について、基本的なことから実際に事故が起こった際の対応について社会保険労務士が解説します!

労災保険制度とは

労働者災害補償保険を一般に労災保険といいます。

労働者が業務上の理由または通勤が原因で負傷した場合や病気になった場合に被災した労働者を保護するための保険給付がなされます。また、労災事故で労働者が死亡した場合は遺族に対しても保険給付がなされます。

そのほか、被災労働者とその遺族への直接給付以外に労働安全衛生確保のための疫学研究や啓発指導、被災労労働者とその遺族への援護事業といった社会復帰促進等事業も行われています。

適用事業所

労災保険は、一人でも労働者を雇用する事業所は適用事業所となります。農林水産業の一部を除き、日雇、短時間パートであろうと名称や雇用形態にかかわらず、労働の対償として賃金をうけるすべての人が対象です。

ただし、原則として法人の役員とその同居する親族は対象者となりません。労災保険の保険料は全額事業主が負担するため被保険者負担分がありません。

労災保険の保険料率は事業の種類によって定められています。労災事故を起こすと保険料率が上がるといわれていますが、災害防止努力や作業環境の良否といった事業主負担の公平性の観点から、労災事故の多寡に応じ労災保険料率または労災保険料を上げ下げするメリット性という制度があります。

保険料率を上げ下げする基準=メリット収支率は連続する3か年の間における労災保険給付の額を、3か年の保険料額に事業の種類ごとに定められた調整率をかけたもので割って算出しますので、1回の労災事故ですぐに保険料が格段に上がってしまうというものではありません。

労災保険給付の種類

労災には医療機関の受診費用の補償、休業した場合の給料補償、障害が残った場合の給付や介護を受けることになった場合の費用補償、亡くなられた場合の遺族への給付などがあります。

(1)療養補償給付

受診した医療機関が労災保険指定医療機関の場合は、無料で治療や薬剤の支給を受けられます。(現物給付)もし受診した医療機関が指定医療機関でない場合は、いったん療養費を立て替えて支払った後、労基署に請求するとその費用が支払われます。治療費・入院費・移送費など通常療養のために必要なものが対象となり、傷病が治癒(症状固定)するまで給付されます。

(2)休業補償給付

業務または通勤が原因である負傷や疾病のため労働することができず、そのために賃金を受けていないとき、第4日目から給付基礎日額(平均賃金相当額)の60%が休業(補償)給付として、給付基礎日額の20%が休業特別支給金として支給されます。

なお、休業初日から第3日目までは待期期間といい、業務災害の場合のみ事業主が休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行う必要があります。

(3)その他の給付

(1)療養補償給付(2)休業補償給付以外にも障害(補償)等給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金及び介護補償給付などの保険給付があります。

労災保険給付の請求

労災保険給付の申請主体は、労働者(または遺族)本人です。そのため、労働者本人が労災を申請する場合、事業主はあくまでその申請を支援する形になります。

また、労災であるか否かの認定は、申請がなされたのち労働基準監督署が個別の事案について総合的に判断し認定します。つまり、事業主が労災に該当するか否かを判断するものではありませんので、ご注意ください。

業務災害について

業務災害とは、労働者が業務を原因として被った病気、ケガ、障害または死亡をいいます。業務災害に対する保険給付は、適用事業所に雇用されている労働者が、事業主の支配下にあるときに、業務と一定の因果関係がある事故が発生した場合に行われます。

業務上の負傷(ケガ)

業務災害は、労働者の業務としての行為や、事業場の施設・設備の管理状況が原因として発生するものと考えられておりますので、原則として所定労働時間内や残業時間内に、事業場施設内において業務に従事している場合(出張中や社用での外出といった事業場外で業務に従事している場合も含む)に発生した災害は一般的に業務災害と認められます。

ただし、次の場合は業務災害とは認められません。

  1. 就業中に私用や恣意的に業務を逸脱する行為をしていて、それが原因で災害が起こった場合や休憩時間や就業前後実際に業務をしていない場合に私的な行為によって災害が起こった場合
  2. 労働者が故意に災害を発生させた場合
  3. 労働者が個人的な恨みなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合
  4. 天災地変によって被災した場合(事業場の立地条件や作業条件・環境によって天災地変の際に災害を被りやすい事情があった場合は業務災害となります)

業務上の疾病

業務上の疾病とは、業務上負傷と異なり、労働者が事業主の支配下にある状態において発症した疾病ではなく、事業主の支配下にある間に有害因子にさらされたことが原因で発症した疾病をいいます。つまり、就業時間外に発症した疾病であっても、業務による有害因子にさらされたことによって発症したことが認められれば、業務上疾病となります。

一般的に次の3つの要件が満たされた場合には原則として業務上の疾病と認められます。

  1. 労働の場に有害因子つまり有害な化学物質、身体に過度な負担がかかる作業、病原体などが存在していること。
  2. 健康障害を起こしうるほどの量、期間有害因子にさらされたこと。
  3. 発症の経過および病態が医学的にみて妥当であること。
  4. 複数業務要因災害

傷病等が生じた時点で、複数の事業場で労働者として働いている場合は、複数の事業場の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して労災と認定されるか判断されます。この場合対象となる疾病等は、脳・心臓疾患や精神障害です。

精神障害の労災補償について

近年仕事によるストレスが関係した精神障害について労災請求が増加しています。これを受け2023年9月に精神障害の労災認定基準が改正されました。

精神障害はさまざまな要因で発病します。精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限られます。つまり、仕事によるストレスが強かった場合でも、同時に私生活でのストレスが強かったり、既往などによってストレスに対する反応のしやすさ(個体側要因)に顕著なものがある場合は、どれが発病の原因なのかが医学的に慎重に判断されます。

精神障害の労災認定要件は次の通りです。

  1. 認定基準となる精神障害を発病していること
  2. 認定基準の対償となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

心理的負荷の強度は発病した労働者本人がどう受け止めたかではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価されます。

また、業務による強い心理的負荷が認められるかどうかは、労働基準監督署の調査に基づき、業務による出来事について心理的負荷評価表に当てはめて評価されます。出来事は個別の事例によりますが長時間労働への従事も精神障害発病の原因として評価されます。

通勤災害について

通勤とは業務に就くため、または業務を終えたことにより行われるもので、通勤と認められるためには、事故当日に就業することとなっていたこと、また現実に就業していたことが必要です。また、通勤は次に掲げる1から3の移動を、合理的な経路及び方法によって行うこと(ただし業務の性質を有するものを除く)をいいます。

  1. 住居と就業場所との往復
  2. 就業の場所からほかの就業場所への移動(複数の事業場で働く場合)
  3. 住居と就業の場所との間の往復に先行しまたは後続する住居間の移動(単身赴任等の場合の住居間の移動)

ここでいう合理的な経路及び方法とは、一般に労働者が用いるものと認められるものをいい、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもいずれも合理的な経路となります。例えば、当日の交通事情により迂回してとる経路や、共稼ぎ夫婦で保育所などに子どもを預けるためにとる経路などは合理的な経路となります。

ただし、移動の経路を逸脱し、または移動を中断した場合には、逸脱または中断の間とその後の移動は通勤とはなりませんので注意が必要です。例えば、仕事帰りに友人とバーに飲みに行って帰った場合や映画館に入った場合は、その間とその後の帰り道は通勤とはなりません。

ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由として認められた最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除き通勤となります。

なお、厚生労働省令で定める逸脱中断の例外は以下のとおりです。

  1. 日用品の購入その他これに準ずる行為
  2. 病院または診療所において診察または治療を受けること
  3. 選挙権の行使
  4. 要介護状態にある配偶者・子・父母・配偶者の父母並びに孫・祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る)
  5. 職業訓練や学校教育等であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為

第三者行為災害

自動車事故など第三者の行為によって事故が発生し、第三者が損害賠償の義務を有しているものを第三者行為災害といいます。この場合は必ず第三者行為災害届を提出する必要があります。

この場合は、労災保険給付と自賠責保険等による保険金支払いとの間で二重のてん補とならないよう支給調整が行われます。どちらを先に受けるかは労働者または遺族が自由に選ぶことができます。

おわりに

基本的に労災事故は様々な要件で発生し、それが業務災害に当たるのか、通勤災害から除外されるのかは、個別の事案について労働基準監督署が判断します。そのため、労災事故と思われる災害が発生した場合は、まず労働者に労災保険の給付について説明し、申請を行うかどうか、申請を行う場合は事業主がサポートをしつつ、最終的な支給決定は労基署の判断を仰ぐことになります。

労災事故の多寡が保険料率に反映される制度はあるものの、1件の事故ですぐに保険料が上がるものでもありません。むしろ、労働者に労災を申請させず、労災隠しを行う等はコンプライアンス的にも重大な問題となります。発生頻度は高くない労災事故ですが、どんなに労働安全衛生環境を整備しても労災事故発生しうるものです。

本記事が事前に労災保険制度の理解と事故が発生した場合の対応に備える一助となれば幸いです。

執筆者プロフィール

寺島先生

寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士

一橋大学商学部卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

寺島戦略社会保険労務士事務所

2023年11月16日に、弊所社労士大川との共著書「意外に知らない?!最新 働き方のルールブック」(アニモ出版)が発売されました。

 

 

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