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【第26回】正しい雇用契約書の作成方法とは?トラブルを未然に防ぐためのポイントを解説

社会保険労務士による労務解説記事が毎月3回(第1.2.3水曜日)にUPされます。

目次

はじめに

労働条件通知書と雇用契約書

労働基準法と労働契約法

労働契約の基本原則

労働契約締結時のポイント

労働条件変更時のポイント

労働契約終了時のポイント

おわりに

 

はじめに

労働者と事業主が労働契約を締結する際に作成するのが労働契約書=雇用契約書ですが、採用時だけでなく労働条件が変更される場合、労働者を解雇する場合など様々な場面において締結される雇用契約書を正しく作成、締結することが重要です。

今回は正しい雇用契約書の作成方法を、トラブルを未然に防ぐためのポイントを中心に解説します!

 

 

労働条件通知書と雇用契約書

労働者を採用する際、労働基準法に基づき賃金や労働時間といった労働条件を書面で明示することが義務づけられており、「労働条件通知書」を交付しなければなりません。これは一方的な通知で良いわけですが、労務実務としては、労働者にこの労働条件で納得してもらったという合意形成の証として、署名・捺印等をいただく雇用契約書の形式をとっている、または労働条件通知書兼雇用契約書としている企業が多いことはこれまでご紹介してきた通りです。

この合意形成とその証としての雇用契約書の締結がトラブルを未然に防ぐためのポイントとなります。

 

 

労働基準法と労働契約法

実は雇用契約書に関する法令は、労働基準法だけでなく労働契約法という法律があります。

労働基準法は、労働条件の最低基準を設定するものですので、違反があった場合は労働基準監督署において是正の監督指導等が行われたり、罰則が科されたりする非常に厳しいものになります。その一方労働契約法は、労使間の紛争トラブルを予防するため、労働契約に関する民事的なルールを定めるものです。罰則等がありませんので、どうしても労働基準法ばかりが注目されがちですが、労使トラブルを未然に防ぐためには、労働契約法を理解することが重要になります。

 

 

労働契約の基本原則

労働契約法において、労働契約は労使の合意により成立し、また変更されるという「合意の原則」が法の趣旨として定められています。また労働契約を締結する際や労働条件を変更する際は、以下の原則に基づいて行うことが必要とされています。

(1)労使が対等の立場における合意に基づいて締結、変更すべきものであること

(2)就業の実態に応じて均衡を考慮すること

(3)仕事と生活の調和に配慮すること

(4)労使が労働契約を遵守し、信義に従い誠実に権利を行使し、また義務を履行しなければならないこと

(5)労使が労働契約に基づいて権利を行使する場合は、それを濫用してはならないこと

 

 

労働契約締結時のポイント

雇用契約を締結する際、前述のように労働基準法に基づいて賃金や休日といった労働条件を書面で明示する必要があります。やはり労働条件は労使双方に非常に重要なので、そこだけに注目しがちです。

しかし、雇用契約書は労働条件に合意した証としてだけではなく、労働「契約」の締結の証です。労働契約法に定める労働契約とは、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」と定義されています。

つまり、契約主体として事業主は労働の対価として賃金を支払う義務が発生し、同時にもう一方の契約主体である従業員は、労働を提供する義務が発生します。

 

また、働く上で、様々な職場のルールが存在します。就業規則には詳細な労働条件および服務規律といったルールが定められています。労働契約法第7条において、労使が労働契約を締結する際、「使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、就業規則で定める労働条件によるものとする。」と定められています。個別に締結する雇用契約書は労基法で明示が義務づけられた主な労働条件は明示されているものの、その他の詳細な労働条件については記載されていません。

しかし、労使のトラブルは、その他の詳細な労働条件に関連して発生することも少なくないため、就業規則で定める労働条件によって労働契約の内容を補充することにより、労働契約の内容を確定することが労働契約法で明示されているのです。

そのため、労働契約締結時には、雇用契約書に記載のない詳細な労働条件については就業規則によることを明示しておくことが重要です。また、できれば雇用契約書の各項目において、就業規則のどの部分に詳細が載っているかを記載するのが望ましいと考えます。

就業規則の内容と異なる労働条件を雇用契約書上で個別に合意していた場合は合意の内容が優先します。ただし、合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合は就業規則の基準が優先されるので注意が必要です。

また、就業規則は周知されることによって有効となりますが、もともと在籍している従業員に周知するだけでなく、新たに労働契約を締結する労働者については、労働契約の締結と同時に周知する必要があります。詳細な労働条件だけでなく、その他のルールについて知っておいていただくためにも、雇用契約書締結時に忘れずに就業規則を周知しておきましょう。

 

 

労働条件変更時のポイント

従業員の家庭環境や事業主の経営環境が変化することによって労働条件を変更する場合もあるでしょう。その場合も、労使合意の上で変更することができるとされています。

しかし、前述のように労働条件は雇用契約書に記載されているものだけなく、就業規則に記載されているものがあります。

雇用契約書に記載された個別の労働条件の変更はもちろん、賃金制度や退職金制度など就業規則に定められた労働条件を変更する場合も、従業員の合意が必要になります。

ただし、合意さえあればよいというものではなく、その変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、事前の労働者への情報提供や説明内容等に照らして、その合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものであると判例では示されていますので、労働条件や、就業規則の変更前に説明会などを開催し十分に説明を行った上で、雇用契約書によって個別に合意を得ることが必要です。

 

それでは、事業主が就業規則を従業員に不利益に変更したい場合、従業員から一人でも合意を得られなかった場合は就業規則を変更できないのでしょうか?

確かに、労働契約法において、「労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と定められています。

ただし、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして「合理的なものである」ときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとするとされています。

就業規則の変更が合理的なものであるかどうかの判断については判例で以下の①~⑦が列挙されています。

 

① 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度 

② 使用者側の変更の必要性の内容・程度 

③ 変更後の就業規則の内容自体の相当性 

④ 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況 

⑤ 労働組合等との交渉の経緯 

⑥ 他の労働組合又は他の従業員の対応 

⑦ 同種事項に関する我が国社会における一般的状況

 

つまり、労働条件の変更は労使双方の合意があれば変更できますが、その合意が労働者の自由意志に基づいて行われたものであることがわかるよう、事前に十分な説明や合意を得るためのプロセスが必要です。また、雇用契約書に記載しきれない詳細な労働条件を就業規則の改訂によって変更する場合も同様に労使の合意が必要です。

しかし、従業員全員の合意が得られない場合は、使用者側に変更する必要性があり、労働者が被る不利益の程度を考慮しつつ、労使の交渉をすすめながら、代替措置や緩和措置といったことを行うことによって就業規則によって労働条件を変更できるとされています。

 

 

労働契約終了時のポイント

どのような時に労働契約が終了するのでしょうか?雇用契約期間が満了して終了する場合もあれば、労働者が転職など自己都合で退職を希望し労働契約が終了することもあります。無期雇用の場合は定年があれば定年まで労働契約が継続していますので、自己都合退職以外で事業主から労働契約を終了させる場合は「解雇」することになります。

しかし、労基法によって労働者は非常に守られていますので、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして解雇は無効となってしまいます。たとえ有期雇用契約であっても、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまで労働者を解雇することができません。

 

また、雇用期間満了の場合であっても、一定の場合は期間満了でそのまま雇用契約を終了することはできません。雇用期間満了時に雇用契約を更新しそのまま労働を継続してもらうことが良くあります。しかし、漫然と何年にもわたって雇用契約を更新しつづけていたり、事業主からも「長く働いて欲しい」などと声掛けされていたりする場合は、労働者側は次回も当然契約が更新されるだろうと期待することになります。そのような場合であって、労働者が契約の更新の申込みをしたときは、使用者が更新を拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき、雇止めは認められず、これまでと同じ労働条件で、雇用契約が更新されることになります。

 

つまり、無期雇用の場合解雇は難しく、解雇したとしても法律上の争訟になった場合、解雇権の濫用として解雇が無効になることが少なくありません。また有期雇用であっても、最初から更新が無いと明示している場合を除き、複数回また何年にもわたって更新している場合は、雇用契約期間満了で契約を終了するとトラブルになる可能性が高まります。

解雇や雇止めが裁判で無効とされた場合は、事業主にとって時間やお金、またその他従業員にとっても大きな負担となります。そのような大きなトラブルにならないよう、軽々に解雇を判断することなく、また契約期間満了時には必ず更新の条件に照らして、更新するか否かをきちんと判断するといったプロセスを丁寧に踏んでおくことが重要です。雇用契約更新の有無や更新する際の要件は、労基法で明示が必要な事項ですが、同時に雇止めのトラブル予防のため、更新の都度内容を確認して記載しておきましょう。

 

 

おわりに

いかがでしたでしょうか。

労使のトラブルは、どちらかが雇用契約の不履行を行った場合に起こります。雇用契約書を締結する際に、権利だけでなく義務についてもきちんと納得した上で締結することがポイントです。

そのためには、雇用契約書だけでは確認できない詳細な労働条件やルールについて、知らずにルールを破ってしまったり、契約の不履行が起こったりしないよう、就業規則をあわせて周知しておき、合意を得ておくことが重要です。

今一度雇用契約書の締結や就業規則の周知について見直す機会にしていただければ幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執筆プロフィール

寺島戦略社会保険労務士事務所(社労士STATIONページはこちら)

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