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社会保険労務士による労務解説記事が毎月3回(第1.2.3水曜日)にUPされます。
第11回目は社会保険労務士寺島先生(寺島戦略社会保険労務士事務所代表)による解説です。
厚生労働者は毎年10月を有給休暇取得促進期間として年次有給休暇を取得しやすい職場環境づくりについて広報しています。ワークライフバランスの実現のため、政府は令和7年までに有給取得率70%を目標に掲げていますが、まだまだ目標には届いていない状況です。
また2019年4月から「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務付けられています。
今回は年次有給休暇を管理しやすくしつつ、年5日の確実な取得を進める方法として年次有給休暇の計画的付与について社会保険労務士が解説します!
年次有給休暇は「労働の義務がある日に労働を免除するもの」で労働者に与えられた権利です。正社員やパート・アルバイトなど名称区分に関わらず、一定の要件を満たした労働者に付与されます。
一定の要件とは、雇用開始から6ヶ月継続して雇われかつ全労働日の8割以上出勤していることをいいます。
年次有給休暇は労働者の権利ですので、労働者が請求する時季に与えることとされていますが、同一期間に多数の労働者の希望が重なる場合など事業の正常な運営を妨げる場合には、事業主は他の時季に変更することができます。これを時季変更権といいます。有給休暇の請求権の時効は2年のため、前年度に取得されなかった分は翌年度に繰り越して取得できます。
年次有給休暇は、通常の労働者は雇用開始から半年で10日付与されますが、週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満のパート・アルバイト等の場合はその所定労働日数に応じて比例付与されます。以降の付与日数は以下の通りです。
2019年4月に労基法が改正され、事業主は、年次有給休暇の付与日数が10日以上の全ての労働者(管理監督者を含みます)に対し、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、確実に取得させる必要があります。
この取得の方法は、①労働者自らの請求、②事業主による時季指定、③計画年休のいずれかになります。
①労働者自らの請求による取得の場合、周囲に迷惑がかかる、仕事がたまり後で多忙になる、といった理由から取得にためらいを感じる労働者も少なくありません。年5日の取得義務を履行するために②事業主による時季指定も有効です。
これは事業主が労働者に取得時期について意見を聴取した上で、事業主が取得時期を指定するものです。この場合は聴取した労働者の意見を尊重するよう努めるようにしましょう。
入社と同時に有給休暇を付与する場合など、法定の基準日(雇い入れの日から6か月後)より前に有給休暇の全部または一部を前倒しで付与している場合であっても、付与日数の合計が10日に達した時点で年5日の義務は発生しますので注意しましょう。
また、事業者は労働者ごとに日数・基準日・取得した日付を記録した有給休暇管理簿を作成し3年間保存しなければなりません。有給休暇管理簿は必要な時にいつでも出力できる仕組みであれば、システム上で管理することもできます。
年5日の取得ができなかった場合は労基法違反となり、30万円以下の罰金が科される可能性もありますので、有給管理簿で細やかに管理していきましょう。
有給休暇の取得は労働者の権利ではありますが、繁忙期に労働者の取得希望が集中してしまうと業務の運営と両立させることが難しい場合があります。そのため有給休暇の計画的付与制度を活用することも良いでしょう。
計画的付与制度とは、前もって計画的に有給取得日を割り振る制度です。有給休暇は5日については労働者に自由に取得させなければならないとされています。そのため付与日数から5日を除いた残りの日数を計画的付与することができます。前もって計画的に割り振ることで事業主が労務管理しやすくなるだけでなく、労働者にとってもためらいを感じることなく取得することができます。
計画的付与には3つの方式があります。企業や事業場の実態に応じた方法で活用しましょう。
企業や事業場全体の全労働者に対し、同一の日に年次有給休暇を付与する方式です。製造業など操業をストップさせて全労働者を休ませることができる事業場などで活用されます。
グループ別に交替で年次有給休暇を付与する方式です。一斉に休ませたり定休日を増やしたりすることが難しい事業場で活用されます。
年次有給休暇付与計画表を作成し個人別に付与する方式です。あらかじめ付与日を決める必要がありますので、シフト表などで付与前月に指定することは不適当とされています。
年末年始・夏季や飛び石連休にあわせて連休にすることもできますし、従業員の誕生日や結婚記念日などのアニバーサリー休暇として活用することもできます。取得において何が課題になっているかを労働者にヒアリングし、解決策となり得る方法を講ずることも有用です。
規模の小さい会社では業務の比較的閑散な時期に計画的に付与することによって、業務に支障をきたさないで有休取得率を向上させることができますので、企業の規模や実態に応じて活用の仕方を検討しましょう。
計画的付与を導入する場合は、就業規則への規定と労使協定の締結が必要です。
まず、就業規則に「労働者代表との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させる」旨を規定しておきましょう。
そのうえで、実際に計画的付与を行う場合は、以下の内容を定めた労使協定を締結しましょう。この労使協定は労働基準監督署に届出する必要はありません。
有給休暇は労働の義務がある日にしか付与できませんので、計画的付与の時季に産前産後・育児休業に入る予定の方や、定年退職することが分かっている方は対象から外しておきます。
年次有給休暇のうち少なくとも5日は労働者が自由に取得できるように保障しなければなりません。そのため、5日を超える日数について計画的に付与することになります。
(1)一斉付与の場合は具体的な付与日、(2)交替制付与の場合はグループ別の具体的な付与日、(3)個人別付与の場合は、計画表を作成する時期とその手続き等を定めます。
④年次有給休暇の付与日数が少ない者の扱い
事業場全体が休業する一斉付与の場合、新規採用者等で5日を超える有給休暇がない者に対しては、労働の義務のある日に会社の都合で休ませることになるため、一斉の休業日について有給の特別休暇を付与するか、休業手当として平均賃金の60%以上を支払う必要があります。
⑤計画的付与日の変更
一旦決めた計画的付与日を変更する可能性がある場合は、変更する場合の手続きについて定めます。
年次有給休暇は1日単位で取得することが原則ですが、労働者が半日単位での取得を希望して時季を指定し、事業主が同意した場合は半日単位で有給休暇を与えることが可能です。
また労働者が時間単位での取得を請求した場合は、労使協定を締結することで年に5日を限度として時間単位で有給休暇を与えることも可能です。しかし、時間単位で取得した有給休暇は年5日の対象とはならないため注意が必要です。
また、時間単位で取得させた場合は有給休暇の残日数管理も煩雑になりますのであわせて注意しましょう。
いかがでしたでしょうか。
労働者ごとに異なる有給休暇の付与日を起算とする年5日の有休消化はきちんと進捗を管理しなければ、期限間近になってあわてて取得させなければならなくなるリスクが生じます。また近年ワークライフバランスの実現のため、休日・休暇の日数や有給休暇の取得率などを応募の際に重要視する労働者も増加しています。
年度末に向け、業務繁忙が続く企業様も多いかと存じます。日々従業員の時間外労働や休日労働も発生するなか、年次有給休暇の取得にまで気を配っていられない、といった人事担当者様の声も多く伺いますが、年次有給休暇の本来の趣旨は、労働者の心身のリフレッシュ、疲労回復、労働力の維持培養です。有給休暇を上手に管理して確実に取得率を上げることは従業員だけでなく会社にとっても有益です。会社の規模や実態に応じた制度導入にお役立ていただければ幸いです
寺島有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所所長社会保険労務士
一橋大学商学部卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。
在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO 労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
HP:https://www.terashima-sr.com/
2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイントいちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。
https://www.amazon.co.jp/dp/4897952417/
2023年11月16日に、弊所大川との共著書「意外に知らない!?最新 働き方のルールブック」(アニモ出版)が発売されました。
意外に知らない?! 最新 働き方のルールブック | 寺島 有紀 編著, 大川 麻美 |本 | 通販 | Amazon
その他:
2020年7月3日に「Q&Aでわかるテレワークの労務・法務・情報
セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。
https://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4297114488/gihyojp-22
2019年4月に、「これだけは知っておきたい!スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまでこの一冊でやさしく理解できる!」を上梓。