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【第7回目】フレックスタイム制導入の準備

社会保険労務士による労務解説記事が毎月2回!(第1水曜日と第3水曜日)にUPされます。

第7回目は社会保険労務士寺島先生(寺島戦略社会保険労務士事務所代表)による解説です。

はじめに

「フレックスタイム制」とは従業員が日々の始終業時刻を自ら決めることによって、生活と仕事の調和を図りながら効率的に働くことができる制度です。育児や介護との両立やプライベートの充実などにも大いに寄与するため、従業員にとっても人気の高いフレックスタイム制度ですが、その運用について人事担当者でも深く理解している方は実は少ないのでないでしょうか。

今回はフレックスタイム制導入の準備について社会保険労務士が解説します

 

フレックスタイム制の基本的なルール

フレックスタイム制は一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間(=働かなければならない時間)の範囲内で労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決める事のできる制度です。労働者が日々の都合に合わせて時間を自由に配分ができるようになるため、上述の通りワーク・ライフ・バランスが取りやすくなり、労働者の定着率のアップや優秀な人材の確保なども期待できます。

例えば1日の所定労働時間が8時間の事業場であっても、フレックスタイム制度の適用下であれば、労働者自身が「今日は業務が落ち着いているから6時間で帰ろう」「その代わり明日は10時間働こう」というように、毎日の労働時間を柔軟に決定できます。

このようにして働き、清算期間の終期が到来したら労働時間を集計します。詳細は後述しますが、総労働時間(清算期間中の所定労働時間)に対して実労働時間が上回っていたら時間外労働の発生となり、実労働時間が法定労働時間の総枠を超えている場合は割増賃金も発生します。総労働時間に対して実労働時間が下回っていれば原則として賃金控除がなされます。(翌月に不足分を繰り越せるとしている企業もあります。)

このように、日々でなく、清算期間を単位として、労働時間を集計していく制度がフレックスです。

 

フレックスタイム制の導入準備

フレックスを導入するに当たっては次の①と②を行う必要があります。

①就業規則等への規定

就業規則等に始業終業時刻を労働者の決定に委ねることを規定します。

②労使協定で以下の事項を定めて締結

・対象となる労働者の範囲

・清算期間(3ヶ月以内)および清算期間の起算日

・清算期間における総労働時間(=清算期間に働かなければならない時間)

・標準となる1日の労働時間(=年次有給休暇を取得した際に支払われる賃金の算定基礎となる労働時間)

・コアタイム(労働者が1日のうちで必ず働かなければならない時間帯)の開始時刻、終了時刻

・フレキシブルタイム(労働者が自らの選択により労働時間を決定することができる時間帯)の開始時刻、終了時刻

 

上記のうち、コアタイム、フレキシブルタイムの設定は任意となっています。コアタイムとフレキシブルタイムの時間帯は協定で自由に定めることができ、コアタイムを設ける日と設けない日があっても、日によって異なるコアタイムの時間帯を設定することもできます。

また、①で規定した就業規則は労基署への届出が必要となりますが、②の労使協定について清算期間が1ヶ月を超える場合のみ労基署への届出が必要となっています。2019年から清算期間を最大3か月とすることができるように改正されていますが、実務上は1カ月としている企業がまだ多い印象です。清算期間が1カ月の場合は、労使協定の労基署への届出は不要ということになります。清算期間が1ヶ月を超える場合に、労基署への届出を怠ると、30万円以下の罰金が科されれることがありますので忘れずに届出しましょう。

 

フレックスタイム制における時間外労働の考え方

フレックスタイム制と固定的な労働時間制との大きな違いは時間外労働の考え方にあります。固定的な労働時間制の場合は、1日8時間、週40時間を超えた時間に対して割増賃金を支払うことになりますが、フレックスタイム制の場合は、労働者が始業終業の時間やその日の労働時間を自ら選択しているという立て付けのため、日単位や週単位での割増賃金は発生せず、時間外労働が発生したかどうかの判断は清算期間を単位として行います。

法律上は清算期間における「法定労働時間の総枠」を超えた時間数を時間外労働とすればよいことになっており、清算期間における「法定労働時間の総枠」とは次の計算で求めます。

「清算期間における総労働時間=清算期間の歴日数÷7日」

ただし、通常その月に働かなければならない総労働時間は一般的な土日祝休みのフルタイムであれば「8時間×所定労働日数(平日日数)」としていることが多いため、実務上は時間外労働の判定の際に、上述した「法定労働時間の総枠」を使わずに「8時間×所定労働日数」を超えたら割増賃金を支払うとしている会社が多いでしょう。

法定労働時間の総枠を使うと、実労働時間に対し法定内と法定外を区別して計算することになるため、特にあらかじめ固定残業手当を払っている場合は、固定残業手当は割増賃金計算後の金額という点を踏まえると、「8時間×所定労働日数」を超えたら割増賃金を支払うとしたほうが給与計算が複雑にならずに済むためです。

 

 

休職発令時の注意点

始業終業の時刻を自らが決定できるフレックスタイム制でも遅刻や早退、欠勤という概念はあるのでしょうか。結論から申し上げますと、コアタイムのあるフレックスタイム制であれば遅刻や早退、欠勤という概念自体は残るものの、清算期間の総労働時間を満たしてさえいれば賃金控除はできないことになります。

フレックスタイム制で賃金控除が発生するのは、清算期間における総労働時間に対して実労働時間の不足があった場合のみです。そのため、総労働時間を満たしている限りにおいて賃金控除はできませんが、あまりにコアタイムでの遅刻や早退、欠勤が多く業務に支障が出ているということであれば、人事考課に反映させたり、目に余るようであれば軽微な懲戒処分を行うこともあり得るでしょう。

なお、いわゆるスーパーフレックスなどでコアタイムの設定がない場合は、そもそも1日のうちに必ず勤務すべき時間帯がないということになりますので、遅刻や早退、欠勤の概念自体もないことになります。昨今ではスーパーフレックスを導入したいという会社も増えてきていますが、メリットデメリットをよく理解した上での導入が必要と考えます。

 

賃金の精算

清算期間における総労働時間と実際の労働時間に過不足があった場合は次のように賃金の清算を行います。

①清算期間における実労働時間が総労働時間を超過した場合

超過した時間分の賃金を追加して支払います。

②清算期間における実労働時間が総労働時間に不足する場合

不足した時間分を賃金から控除するか、または翌月の総労働時間に加算して労働させることができます。

ただし、加算後の時間(総労働時間と前の清算期間における不足時間)が法定労働時間の総枠の範囲内である必要がありますのでご注意ください。

 

フレックスタイム制の36協定、勤怠管理について

フレックスタイム制で働く労働者についても当然、時間外労働を行う場合には36協定の締結・届出が必要となります。ただし、フレックスタイム制の労働者の36協定については、「業務の種類」の箇所は営業(フレックスタイム制)などと記載し、「1日の法定労働時間を超える時間数」についても「フレックスタイム制のため適用しない」と記載し、締結することになります。

また、当然、固定的な労働時間制の従業員同様に労働時間の管理も必要となります。特に勤怠システムの設定がフレックスタイム制の設定になっておらず、1日単位や週単位で割増賃金を支払う設定になっている等もよくありますので、勤怠設定が自社のフレックスタイム制に適した設定になっているか、さらに給与計算に適正に取り込めているかは重要な点となりますので改めて確認をいただきたいところです。

 

運用面で気を付けるポイント

フレックスタイム制を適用したけれども、パフォーマンスが揮わない、頻繁に遅刻早退、欠勤をするがどうしたらよいかといったご相談を受けることがあります。こういったケースではフレックスタイム制の適用を解除し、固定的な労働時間制に戻すといったことも一つの案となりますが、フレックスタイム制は労働者有利な労働条件であるため固定的な労働時間制に戻す場合は労働条件の不利益変更となります。

そのため、適用解除するにあたっては本人へのパフォーマンス評価等のフィードバックに加え、必ず、雇用契約書のまき直しを行い、合意を得た上で行っていただくことになります。

また、フレックスタイム制の労使協定に、「勤怠がすぐれない場合や業務の効率化が期待しづらい場合は、一度適用したフレックスタイム制の適用を除外することがある」等の文言入れておくともおすすめです。あわせて、適用対象者に試用期間中の従業員は除く等の文言をいれておき、そもそも働きぶりが見極められていない、業務の進め方に慣れていない試用期間中の従業員などはフレックスタイム制の対象外とするほうが労使双方にとってもメリットがあるでしょう。

 

おわりに

固定的な労働時間制度と比べると、フレックスタイム制は自由度の高い、洗練された労働時間制度だと考えています。うまく運用できれば労働者にとってはプライベートと仕事の充実が図られひいては生産性の向上や社員のエンゲージメント向上などメリットはとても大きいものです。

一方で主体的な労働時間管理ができない従業員の場合、パフォーマンスが上がらない、コアタイム以外の時間の会議への参加を強制できないため業務が回らなくなるなどのトラブルにもつながりかねません。また、人事部門でも実務運用をしっかり理解できていないと未払い賃金発生につながるなどのリスクもあります。

労使双方がフレックスタイム制度の理解をしたうえで日々運用していくことが肝要と考えています。

 
 
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執筆プロフィール

寺島有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所所長社会保険労務士

橋大学商学部卒業。
新卒楽天株式会社に、社内規程策定、内・会社等ライ・適用などの内部統制業や社内ライアンス等に従事。
在職に社会保険務士国家試験に合格後、社会保険務士所に勤務し、チャー・中小企業から一上場業まで内労働法改正対応業の労アドバイザリー等に従事。
在は、社会保険務士としてチャ業のIPO 務コライアンス対応から業の出労務体制構築等、内・両面から幅広く人事労務コティを行っている。


HP:https://www.terashima-sr.com/
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寺島戦略社会保険労務士事務所(社労士STATIONページはこちら)

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