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社会保険労務士による労務解説記事が毎月2回!(第1水曜日と第3水曜日)にUPされます。
第2回目は社会保険労務士三谷先生(三谷社会保険労務士事務所代表)による解説です。
「従業員とのコミュニケーション改善によるトラブル防止と生産性向上の方法」を解説しております。
ぜひ、ご覧ください!!
近年、多くの企業で人材不足が叫ばれている中、働き方改革も相まって、働きやすい職場づくりへの関心が高まり、人をコストではなく投資対象として捉える人的資本経営のような考え方も広まっています。しかしながら、働きやすい職場づくり等に取り組む際に、経営者と従業員、上司と部下、同僚同士など、それぞれの場面でコミュニケーションが上手くいかず、労働トラブルが発生したり、生産性が低下したりするなどの影響も出ています。
本稿では、コミュニケーション不全と労使トラブルなどとの関係について解説し、コミュニケ―ションに悩んでいる企業に、「承認」による改善策を示します。
コミュニケーションは、情報や考えを単に伝えるだけでなく、相手の理解を得ることや協力を促進することも含んでいます。組織におけるコミュニケーションは、組織内外の関係者とのコミュニケーションから、チームメンバー間のコラボレーションまで多様な側面を持ちます。つまり、情報の共有やタスクの調整だけでなく、変化の激しい社会でビジネスをしていく上で、問題の解決やイノベーションの推進にもコミュニケーションは不可欠です。オンラインでのコミュニケーションが増えるなど、その方法は社会的な変化と共に変わりますが、業績をアップする上でのコミュニケーションの重要性は変わらないと考えます。
組織においてコミュニケーション不全が起こる要因は、さまざまです。価値観、キャリア、経験、能力、パーソナリティなど、個人差が原因の場合もありますし、組織の風土や情報共有の仕組みなどのシステム自体に原因がある場合もあるでしょう。
このような要因によってコミュニケーション不全が起こると、組織内外でさまざまな弊害が引き起こされます。
例えば、情報の共有が不足した結果、製品やサービスの品質や安全性に問題が生じ、顧客に損害や迷惑を与えることがあります。また、コミュニケーションの不和や誤解が重なると、職場の雰囲気が悪化し、例えば、上司と部下との間の信頼関係が損なわれ、チーム全体の協力関係にも悪影響を与えます。さらに、感情的なコミュニケーションが行われた場合、パワーハラスメントのリスクが高まり、部下の士気やメンタルヘルスが悪化し、組織の健全な運営が妨げられます。
このように、組織におけるコミュニケーション不全は、労使トラブルが増える、生産性の低下、といった悪影響をもたらすのです。
では、コミュニケーション不全をなくすためにはどうすればよいのでしょうか。元マサチューセッツ大学教授であるダニエルキム氏の「組織の成功循環モデル」によると、組織が業績のアップなどの結果の質をあげるためには、まずは関係の質を向上させることに力を入れるべきと言われています。
ここで、関係の質が高い状態とは、お互いを尊重し合っている関係であり、信頼関係が高まっている状態です。さらに、心理的な安全性が確保されていることも関係の質の一つの要素です。これらの要素が揃った関係においては、従業員は遠慮せずに意見を出し合ったり、問題を共有したりすることができ、トラブルを未然に防ぐことができます。また、信頼関係がある状態では、適切な情報共有や助け合いが行われ、生産性が向上するのです。
そして、関係の質を高める方法の一つとして、「承認」があります。承認とは、相手が気づかない優れた能力、資質、業績、貢献、成長、可能性などについて、その事実を本人に伝え、自覚させることです。戦時下において連合艦隊司令長官をつとめた山本五十六は、人材育成における名言を残しています。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」
この名言の中で、人を育成するためには承認が必要だと説いています。育成に限らず、承認は人々を動機づけ、関係の質を高めるための強力な手段になります。なぜなら、承認には、人の自己肯定感や自己効力感を向上させる効果があるからです。「自分はこの会社にとって大切な存在だ」と自己肯定感を持つことは、自信を持って業務に取り組む基盤となりますし、自己効力感の向上により、従業員は自分の能力を高く評価し、課題に積極的に取り組むようになります。このように自発的に組織や業務と関わろうとするため、上司などとのコミュニケーションの機会も多くなり、結果として組織における関係の質が向上するのです。
では、「承認」は、具体的にはどのように行えばよいのでしょうか。承認には3つの種類があるため、それぞれ説明します。
従業員の存在や努力を認め、その存在自体を尊重することで承認を示します。日常の挨拶や感謝の言葉も、存在承認の一環です。コミュケーション改善の第一歩として、朝や帰りの挨拶を上司から部下へ積極的に行った結果、関係の質が向上した事例は意外と多いです。
従業員の行動や努力を具体的に指摘することで承認を表現します。ここで大事なのは、承認は、ほめるとは違うということです。山本五十六が、「人を動かすときにはほめる、人を育てる時には承認せよ」と言っている通り、ほめると承認は微妙に違います。承認は事実をありのままに伝えることにその主眼があり、ほめるときのように評価を含みません。そのため、「今日のお客様訪問時に、真剣に話を聞いていてとても良かったよ」というのは、ほめているので承認とは違います。同じ場面であれば、「今日のお客様訪問時、何度も頷きながらメモをとっていたね。」といった事実をそのまま伝えるようにします。また、目的や意図をもって叱ることも行動承認のひとつです。適切な指導はパワハラにはなりませんので、相手に対する期待や信頼を伝えるために叱ることは、相手の自己肯定感や自己効力感を高めることにもつながります。
成果や成績をそのまま認めます。目標達成時にねぎらいの言葉をかけたり、仕事の出来栄えを伝えたりすること等が該当します。表彰制度もそのひとつですが、日々の観察による小さな成果を承認する方がよいでしょう。
コミュニケーションに悩んでいる企業は、承認活動を通して是非、関係の質の向上に取り組んでみてください。コミュニケーションの重要性を理解し、適切なアプローチを用いて実践することで、労使トラブルの防止と生産性の向上に寄与することができるでしょう。
【執筆者プロフィール】
三谷 文夫 (みたに ふみお)
社会保険労務士/産業カウンセラー
三谷社会保険労務士事務所 代表
中小企業の就業規則・人事制度構築を得意とする社会保険労務士
保有資格:アンガーマネジメントファシリテーター
1977年大阪府生まれ。兵庫県在住。
慶應義塾大学卒業後、地元兵庫県の有馬温泉旅館でフロントスタッフとして働くも、1年
で退職し、大学時代から挑戦していた司法試験に再挑戦。25歳頃までアルバイトをしなが
ら試験合格を目指すも断念。その後は、転職を繰り返し、営業、販売、事務、接客に携わ
る。合間に東欧への放浪の旅をしながら、気ままに過ごすも、将来に不安を感じてきたと
ころで、28歳の時に製造業の総務課に採用していただく。
総務課では、社会保険、給与計算などの事務を始め、採用、評価、従業員満足度向上施策、
労働組合や地域住民との渉外交渉、労務費の予算作成・実績管理など、幅広い業務に従事。
「従業員が相談しやすい総務スタッフ」を意識して職務に取り組む。また、工場での勤務
ということもあって、労働安全衛生の重要性を実感するとともに、労務管理では現場のス
タッフとの関係性が大切であることを学ぶ。在職中に社会保険労務士の資格を取得。
2013年、「多くの中小企業経営者に労務管理の大切さを伝えたい」という想いが募り、
社会保険労務士事務所を開業し独立。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重
視したコンサルティングは、優しい語り口調も相まって人気がある。また、自身の総務課
経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚く、これまでに関与してき
た顧客数は60社以上。
労務相談をメインに、クライアント企業にマッチした就業規則の作成、運用のサポートま
で行う人事評価制度の構築が得意。
その他、メンタルヘルス、承認力、ハラスメント、怒りの感情との付き合い方、健康経営、
SDGs等をテーマに、商工会議所、商工会、自治体、PTAその他多数講演。新入社員研修、
管理職向け行動力アップ研修等、年間20回以上登壇する企業研修講師でもある。
2020年から関西某私大の非常勤講師。300名の学生に労働法の講義で教鞭をとる。
趣味は 喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。ランニング。
家族は、妻と子ども4人、金魚のきんちゃん。