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CLOUD STATIONでは、定期的にワークショップを実施しています。
本記事では、弁護士法人檜山・佐賀法律事務所の佐賀寛厚弁護士によるワークショップ「裁判例から見る労働時間管理の実務」の内容を書き起こし形式でご紹介します。
人事担当、労務担当の方はもちろんのこと、経営者の方にもぜひご一読いただきたい内容です。 労働時間についてお悩みの方、気になる方は必見。
京都市出身。京都大学、京都大学法科大学院卒業後、2008年弁護士登録。
須藤・高井法律事務所、きっかわ法律事務所を経て、2020年に弁護士法人檜山・佐賀法律事務所を開設。 経営者の困りごとを解決する業務を中心に取り扱っており、
特に人事・労務案件を専門分野とする。 紛争にならない・紛争になっても負けないような社内規程の構築・運用や個別の案件処理を得意としており、紛争処理も多数取り扱う。
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労働時間管理が重要な理由
まず、未払残業代請求のリスクがあります。昨年、民法が改正されて、未払残業代の消滅時効が2年から3年に延長されました。
単純計算すると、未払残業代が発生した場合に支払義務がある金額が1.5倍になったということです。
また、これまで過払金請求案件を多く取り扱っていた法律事務所が、過払金請求案件が減少したために、
未払残業代請求案件の獲得に積極的になっているとも言われています。 実際に、私が担当した案件でも、よくCMや広告で見るような法律事務所が相手方になることが増えてきたように思います。
こういった背景で、全国的に未払残業代請求案件が増えており、厚生労働省が発表した「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和2年度)」でも、
合計100万円以上の残業代を支払ったものに限っても、企業数は1,062企業・対象労働者数は6万5,395人・支払割増賃金額は約70億円という内容が報告されています。
したがって、労働時間管理を適切に行っていなかった場合、未払残業代を請求されると、会社にとっては多額の支出が必要となり、大きな痛手になるおそれがあります。
次に、過重労働による労災等のリスクがあります。厚生労働省から、労災該当性の判断枠組みが発表されています。
まずは、脳・心臓疾患の労災認定基準に関して通達が出されています。
具体的には、発症前1か月間に概ね100時間、または、発症前2か月から6か月間の平均で1か月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合には、
原則として労災が認定されることとされています。
参考情報:血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(厚生労働省)
また、うつや適応障害などのメンタルヘルスの労災認定基準についても通達が出されています。
具体的には、発病直前の連続した2か月間に1か月あたり概ね120時間以上、または、発病直前の連続した3か月間に1か月あたり概ね100時間以上の時間外労働が認められる場合には、
原則として労災が認定されることとされています。
参考情報:心理的負荷による精神障害の人手に基準の改正について(厚生労働省)
そのため、過重労働を原因として、不幸なことに労働者が亡くなってしまったり、重大な障害を負った場合、安全配慮義務違反として、
会社に対して、数千万円、ときには1億円を超える損害賠償請求がされる可能性があります。
特に、会社が労働時間と認識していなくても、 後日、法的に評価すると多大な時間外労働が存在すると認定された結果、このような過重労働に該当してしまうことがあることについては注意が必要です。
そもそも、労働時間とは何でしょうか。いくつかの最高裁の判決がありますが、平成12年3月9日判決・平成14年2月28日判決などでは、
労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことであると判断しています。
そして、これらの最高裁判例では、労働時間に該当するか否かは、 「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるもの」であり、
労働契約・就業規則・労働協約等の定めのいかんにより決定されるわけではないと判断しています。
そのため、例えば、就業規則において、「会社が許可しない場合には残業は認めない」などと定めていたとしても、
客観的にみると「使用者の指揮命令下に置かれていた」と評価される時間については労働時間に該当するということになります。
では、具体的にどのように判断するのかということですが、先ほども申しあげたとおり、
最高裁では、 労働時間については「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるもの」と判断しています。
この定義は抽象的なものですので、この定義から直ちに具体的な判断ができるわけではありませんが、裁判例を分析すると、大きく3つのポイントがあるようです。
労働者の行動について、使用者から「いつ」「どこで」やるようにという指定がされ、それによって労働者の行動に制約が生じる場合には労働時間と認められる方向に繋がります。
メールや口頭で明示されているものだけでなく、黙示で義務付けられる場合もありますし、例えば、自主的な残業については、
会社が命令していなくても黙認していると評価される場合には、使用者が義務付けたと判断されることになります。
労働者が、使用者から指示された業務を行うにはどのくらいの時間がかかるのかということがポイントです。
といっても、まだまだ抽象性が高い内容ですので、裁判例や通達における具体的事案をご説明します。
まずは、朝礼です。これは、出席が義務付けられていた場合、または、出席を余儀なくされていた場合には労働時間に該当すると判断されています。
例えば、「朝礼に参加しない場合には遅刻扱いにする」といった指示があった場合は出席を義務付けられていると判断されますし、
朝礼に参加しないことを人事評価としてマイナス評価している場合にも出席を余儀なくされていると判断されます。
これらの準備行為については、就業に当たって、これらが必要であり、かつ、行う場所について制限がある場合には労働時間に該当すると判断されています。
例えば、自宅から作業着に着替えてもよい・家で体操してもよいといった場合には、労働時間には該当しませんが、
事業場内で作業着に着替える必要がある場合や事業場内で体操をする必要がある場合には、労働時間に該当すると判断されています。
通勤・出張等の移動時間については、原則として労働時間には該当しないとされていますが、
物品の監視など別段の指示がある場合には、労働時間に該当するという厚生労働省の通達があります。
これは、移動時間中は、何をしていてもよい、つまり指揮命令下にはないので、労働時間には該当しないが、
移動時間中に会社から何らかの業務指示があり自由に行動できない場合には、指揮命令下にあるものとして労働時間に該当するという考えによるものです。
具体的には、納品物を運搬することが移動の目的である場合、引率業務をしている場合、また、移動時間中に打ち合わせや資料作成の指示を受けていた場合や、
自動車を運転して顧客を訪問する必要があった場合は、労働時間に該当する可能性が高いとお考えください。
昼休みなどの所定休憩時間、呼ばれたら出勤をする必要がある自宅待機時間や、事業場内で仮眠を取っているものの何かあればすぐに業務をする必要がある仮眠時間についてです。
裁判例では、当該時間に労働者が労働を離れることを保証されていたかどうかによって労働時間に該当するかどうかを判断しています。
例えば、昼休みなどの所定休憩時間であっても、事業所内に留まって、電話や来客の対応をしなければならない場合には、
対応をした時間だけでなく、すべての時間が労働時間に該当してしまいます。そのため、休憩時間は自由にしてよく、 来客・電話対応等をしなくてもよいという運用をする必要があります。
また、自宅待機中で、携帯電話などに連絡があった場合には、すぐに出動したり、パソコンで対応することが求められていて、
実際にそのような事態が発生しているような場合には、労働時間に該当してしまいます。
一方で、自宅待機をしていても、事実上、実作業に従事する必要がなかったり、実際には出動することが非常に少ない場合には、 労働時間に該当しないと判断されることが多いと思われます。
こちらは、厚生労働省によってガイドラインが出されています。 業務上、参加が義務付けられている研修・教育訓練の受講や、
使用者の指示によって業務に必要な学習を行う時間は、労働時間に該当するとされています。
一方で、就業規則上の制裁などの不利益取扱による出席の強制がなく自由参加の場合には、労働時間には該当しません。
もっとも、自由参加かどうかというのは、実態を見て判断されることになります。
また、裁判例では、形式上自由な勉強会であっても、使用者によって参加者・日時が決定されていて、その参加後に感想文などの提出が求められる場合には、
実質的には、勉強会への参加が義務付けられているということで、労働時間とされたものがあります。
旅行や忘年会、飲み会、運動会などの行事について、労働時間に該当するかどうかを明確に判断した裁判例は見当たりませんが、
労災に関する通達を参考にすると、同一事業場または同一企業に所属する労働者全員の出席を意図して行われ、
かつ出席しない場合には欠勤したものと取り扱われる場合には、労働時間に該当すると考えられます。
接待が労働時間に該当するかについては、会社の送別会後に交通事故にあった場合に労災に該当するかという点を判断した裁判例が参考になります。
この裁判例を踏まえますと、原則としては、接待と業務との関連性が不明であることが多いことから、労働時間には該当しないと考えられますが、
業務の延長と認められたり業務命令によるものであれば労働時間に該当すると考えられます。
例えば、会社主催のパーティーの幹事であったり、業務命令によりゴルフコンペに参加する必要があるということであれば、労働時間に該当すると判断されるでしょう。
これらは、会社の指揮命令下に置かれているかどうかで判断されます。
原則としては、会社が全く指示・承諾していなければ、労働者が自由に業務を行っており、使用者の指揮命令下に置かれていないということで、労働時間には該当しないとされています。
しかしながら、裁判例を見てみると「黙示の指示・承諾」が存在したため、労働時間に該当すると判断される場合が多いです。
例えば、所定時間外に事業場内で行っている業務については、上司は部下が業務をしていることを把握しているのですから、
部下に業務を止めるように指示をしたにもかかわらず、部下があえてそれに反して労働を継続したという事情がない限りは、
労働時間と判断される場合が多いと思われます。
また、業務量が所定労働時間内に処理できないほど多く、時間外労働が常態化している場合には、 使用者は、部下が所定時間外に業務をしていることを分かっていただろうということで、
労働時間だと判断されることになります。 また、夜間や土日などの所定労働時間外に、チャットやメールで上司とやり取りしている場合には、
上司は部下が所定時間外に業務をしている事実を把握しているのですから、 労働時間であると判断されることになることが多いです。
ちなみに、直近では、パナソニックが持ち帰り残業を労働時間と認めたというニュースがありました。
参考情報:パナソニック、持ち帰り残業を謝罪 自殺社員遺族と和解 以上のとおり、裁判で問題になりやすい事例をご紹介しました。
労働時間該当性に関する紛争の特徴
未払残業代請求に関する紛争については、使用者側の敗訴リスクが非常に高いです。
なぜかというと、例えば、労働時間の認定において、上司が止めても労働者があえて残業を続けているという事例はほとんど存在しませんし、
これまで説明していたとおり、残業代請求における労働時間の判断については、労働者に有利に解釈される場合が多いからです。
つまり、会社としては、未払残業代請求がされてしまうと、もともと把握していた労働時間よりも多く労働時間が認定されてしまい、
その分多くの残業代を支払わねばならないということになります。 私個人の経験としても、会社の主張どおりの労働時間が認定され、
未払残業代がゼロか、ほとんどゼロという事案は、ほとんどないと思います。
また、未払残業代請求に関する紛争については、会社が敗訴した場合の影響が大きいという特徴もあります。
すなわち、労働者の一人から未払残業代を請求されて、その請求が裁判や労基署で認められた場合、他の労働者についても同様に未払残業代があると判断されることが多く、
その結果、複数の労働者から同様の訴訟を提起されることがあります。また、労基署に通報された場合には、
労基署から労働者全員に対して過去3年分の未払残業代の清算を求められることもあります。
訴訟の場合もそうですが、労基署からの是正勧告等の場合でも、通常は、未払残業代について一括支払いを求められますので、
それによる経営へのインパクトは大きくなってしまいます。
裁判においては、タイムカード・ICカード・PCの使用履歴・メールの送受信記録・ファイルの作成記録・日報・入退室記録や警備会社による鍵の開閉記録、
労働者の作成したメモなどによって労働時間が判断されます。
また、数年前の法改正によって、会社による労働時間管理が義務付けられました。
そして、タイムカードやICカードにより労働時間を管理している場合、特段の事情がない限り、タイムカード打刻時間が実労働時間であると事実上推定されます。
会社からすると、会社内にいても仕事をしていなかったり、私的なことをした後にタイムカードを打刻することもあるではないかと主張したくなるのですが、
これらの事実について会社が立証できない限り、タイムカード打刻時間が労働時間であると判断されてしまうことが多いです。
では、タイムカード等により労働時間を管理していなければどうなるのか。
その場合には、会社が労働時間把握義務を怠っていることから、
労働者が労働時間についてきっちりではなくとも「だいたいこのくらいは働いているだろう」という証拠を提出した場合には、
会社が有効かつ適切な反証ができない限り、 労働者の主張した内容が、そのまま労働時間と判断されてしまうことになります。
もっとも、このような会社は、労働時間の管理をしていないのですから、労働者の労働時間に関する証拠がないことがほとんどなので、
実際には、会社が有効かつ適切な反証ができるケースはほとんどないと思われます。
そのため、会社としては、タイムカードやクラウド勤怠システムでしっかりと労働時間を管理し、業務が終了した際はすぐに退勤打刻をしてもらう必要があります。
また、タイムカード打刻は定時であったとしても、入退室記録を根拠として労働時間が認定されることがあります。
裁判所は、事業場にいる時間は労働時間であると判断する傾向がありますので、会社が、当該労働者が事業場内で遊んでいたり業務と関係ないことをしていると立証しない限り、
入退室記録を根拠として労働時間が認定される場合があります。そのため、最近ではタイムカードと入退室の履歴を照合するような会社も増えてきています。
いずれにせよ、きちんと労働時間管理をしておかないと、実態よりも多い時間を「労働時間である」と認められてしまう可能性がありますので、要注意です。
固定残業代を取り入れている企業は比較的多く、一時期、流行った制度でもあります。最高裁の判例においては、固定残業代が有効となる要件が決まっています。
例えば、基本給には固定残業代を含んでいるとだけ定められているような場合には、両者が明確に区分されていないとされることになります。
例えば、営業手当というだけで、実際には割増賃金の対価かどうか定かでない場合には、固定残業代として有効でないと判断される場合があります。
あと、固定残業代の金額を超える割増賃金について超過分を支払う旨の合意がされているかどうかという点が、 固定残業代が有効となる要件に該当するかどうかが議論されています。
これは、最高裁のある裁判官の補足意見で出された要件ですが、東京地裁の労働部の裁判官による書籍では、 このような合意は必ずしも必要ないと記載されていますので、
要件とならないと考えてよいと思います。 ただし、固定残業代制度があるからと言って、労働時間や残業時間を把握せずに、
固定残業代を超える割増賃金が発生した場合でも、 一切、超過分を支払っていないときは、実質的には固定残業代ではないと判断される場合がありますので、注意が必要です。
そして、今述べたような要件のうちいずれかを満たさない場合には、固定残業代制度は否定されてしまうことになります。
固定残業代制度が否定された場合、固定残業代としての支払いが認められませんので、固定残業代相当額が残業代の基礎単価に含まれてしまい、
残業代の基礎単価が想定以上に高額になってしまいます。 また、固定残業代として支払ったはずの残業代が、実際には支払っていないと判断されることになります。
そのため、労働者の全ての残業時間について、改めて残業代を支払う必要があります。
これらの結果として、固定残業代が認められない場合には、
①残業代の単価があがるうえ、 ②労働者の残業時間全てについて、改めて残業代を支払わなければならないという二重のリスクがあるといえます。
また、裁判において、最大で、未払残業代と同額の付加金という罰金のようなものの支払いを命じられる場合があります。
そのため、固定残業代というのは、実はかなりのリスクがある制度なので、固定残業代制度を導入している企業の皆様は、
今一度自社の運用が適法かどうかについて確認することをお勧めします。
例えば、「基本給◯万円には、一か月◯時間分の時間外労働分に対する固定残業代が含まれる」という規程では、固定残業代の具体的な金額が記載されていません。
そのため、固定残業代の金額を容易に判断することができないことから、「固定残業代に当たる部分の金額の検討が困難である」と判断されて、
固定残業代制度が否定された裁判例があります。
また、営業手当や精勤手当などの別名目である場合にも、時間外労働の対価であることが明確でないとされる場合があります。
そのため、このような別名目の手当については、賃金規程等において、◯時間分の時間外労働に対する固定残業代である、という明記されている必要があります。
さらに、固定残業代◯万円の中には、時間外労働と深夜労働の残業代の合計が含まれているとか、
時間外労働、 深夜労働及び休日労働の残業代の合計が含まれているという規程を作られている会社もおられると思います。
このような場合に、固定残業代が、時間外労働、深夜労働、休日労働の残業代のどれに充当されるかが明確でないため固定残業代が無効であると判断した裁判例があります。
そのため、固定残業代については、所定労働時間〇時間分の対価であるなどと定めておく方がよいでしょう。
また、固定残業代の対象時間が、36協定で認められている労働時間の上限の「1か月45時間」を大幅に超えている場合にも、
固定残業代制度が否定される可能性があります。
裁判例でも、1か月45時間を大幅に超えた場合には公序良俗違反で固定残業代が無効であると判断しているものがあります。
そのため、当事務所では、固定残業代の上限は1か月45時間以内とする方が望ましいとアドバイスしています。
60時間でも問題ないケースもあるとは思いますが、確実なのは45時間だと思います。
少なくとも、1か月80時間を超えるのは、先ほどご説明した労災の基準にも該当することになりますし、やめておいたほうがよいだろうと思います。
最後に、当事務所のサポート内容についてご案内します。下記のように、スポットと顧問契約の両方を用意してございます。 また、士業の先生方へのサポートも提供しています。 月一回1時間程度、労働問題研究会も開いておりますので、ぜひご参加ください。
① 単発のご相談 1時間4万円~
② 顧問契約 月額3万円~ ※TECO Designからのご紹介の場合
① 社内規程(就業規則、賃金規程) 無料診断
② 無料法律相談(1回2時間以内)
① 顧問契約 月額2万円~
② 労働問題研究会(無料。月1回1時間程度) ※TECO Designからのご紹介の場合 無料法律相談(1回2時間以内)
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