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2022年9月13日、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会にて、給与デジタル払いの制度設計案が示されました。
「給与デジタル払い」とは
会社が従業員の給与を資金移動業者の口座に振り込むことを指します。
資金移動業者とは決済サービスを提供する銀行以外の事業者のこと。具体的には、「PayPay」「LINE Pay」「楽天Pay」などのサービスです。
今や生活に欠かせなくなったキャッシュレス決済。給与を銀行から移動させずにすぐ使えたら便利ですよね。
ただし、給与デジタル払いが実現したとしても、その前提となる原則論を知っておくことが大切です。
この記事では、給与デジタル払いの概要と労働基準法の賃金支払いの5原則を紹介します。
すぐに給与を決済サービスで使えるようになる給与デジタル払い。早ければ2023年春にスタートするのではないかと言われています。
給与の支払い方法については、労働基準法で定められています。そのため、給与デジタル払いの制度は、労働基準法のルールを前提として設計されています。
給与デジタル払いの制度設計案の骨子は、以下の3つにまとめられています。
・給与デジタル払いを行うには従業員の同意が必要
・給与デジタル払いに利用できるのは、所定の要件を満たした資金移動業者のみ
・給与デジタル払いの対象となるには、資金移動業者が申請しなければならない
まず、給与デジタル払いが解禁されたとしても、従業員の同意に基づいて行わなければなりません。会社の強制により振り込むことはできませんのでご注意ください。
また、給与デジタル払いに利用できるのは、以下5つの要件を満たした資金移動業者の口座のみです。
1.破産などで資金移動業者の債務の履行が困難となったとき、従業員に対して負担する債務を速やかに保証する仕組みがあること。
2.従業員に対して負担する債務について、不正な為替取引などの当該従業員の責めに帰すことができない理由により当該従業員に損失が生じたときに、当該損失を補償する仕組みがあること。
3.ATMの利用などによって1円単位で受け取ることができる、かつ、少なくとも毎月1回は手数料無料で受け取ることができること。また、口座への資金移動が1円単位でできること。
4.賃金の支払に関する業務の実施状況・財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制があること。
5.賃金の支払に関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を持ち、かつ、十分な社会的信用を有すること。
さらに、給与デジタル払いに利用してほしいと考える資金移動業者は、申請書を提出して厚生労働大臣の指定を受けなければなりません。
上記の内容は決定事項ではありませんが、今後展開される議論の材料となります。
このように細かく制度設計について話し合わなければならないのは、労働基準法の趣旨から大きく逸脱しないようにするためです。
参考:厚生労働省「第178回労働政策審議会労働条件分科会(資料)」
給与の支払いに関する労働基準法のルールは、一般的に「賃金支払いの5原則」と呼ばれています。
それは、「賃金は(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならない」というものです。
労働基準法では、賃金は通貨、つまり現金(日本円)で支払うことが原則です。
この通貨払いの原則は、価格が不明瞭で金銭換算するのに不便な現物給与を禁じるために定められました。
例外として、本人の同意があれば銀行口座や証券口座に振り込むことができます。
また、給与デジタル払いは、この通貨払いの原則の例外に位置付けられることになります。
直接払いの原則は、中間搾取を排除するためのルールです。賃金は労働の対償として支払われるものであり、従業員本人が間違いなく受け取ることができなければなりません。
未成年者であっても同様で、親権者や後見人が代わりに未成年者の賃金を受け取ることはできません。
ただし、「使者」への支払いは例外として認められています。たとえば、秘書を使いに出して給料を取ってこさせたり、病気中に配偶者に取りに行かせたりといったケースが該当します。
全額払いの原則の趣旨は、会社が一方的に賃金を控除することを禁止して、生活の糧である賃金の全額を従業員に確実に受領させることです。
全額払いの例外には、以下の2つのパターンがあります。
・法令に別段の定めがある場合
・労働組合・過半数代表者との労使協定がある場合
「法令に別段の定めがある場合」とは、所得税の源泉徴収や社会保険料の控除などを指します。
また「労働組合・過半数代表者との労使協定がある場合」とは、上記以外の費用を控除するケースです。たとえば、社宅賃料や組合費、積立金などを控除する場合が該当します。
逆に言えば、所得税や社会保険料以外の費用を給与控除する場合、労使協定がなければ違法となりますのでご注意ください。
4つ目の原則は、賃金は毎月1回以上支払わなければならないというものです。毎月1回以上払いの原則の趣旨は、支払期日の間隔が長すぎることによる従業員の生活上の不安定を防止することです。
この原則の例外は、臨時に支払われる賃金や賞与です。
毎月1回以上払いの趣旨は、給与デジタル払いにおける資金移動業者の要件「少なくとも毎月1回は手数料無料で受け取ることができる」にも反映されています。
一定期日払いの原則とは、賃金は一定の期日を定めて定期的に支払わなければならないというルールです。毎月1回以上払いの原則と同様、支払日が一定しないことによる従業員の生活上の不安定を防止することが趣旨です。
例えば、賃金は「毎月15日に支払う」「毎月末日に支払う」などと決める必要があります。ただし、「賃金支払日が休日にあたる場合に前日に支払う」と取り決めることは問題ありません。
しかしながら、「毎月第2月曜日」といった支払日の定め方は一定期日とは言えないとされています。
一定期日払いの例外には、毎月1回以上払いの原則と同じく、臨時に支払われる賃金や賞与が該当します。
3つ目の原則である全額払いの原則においては、特に「相殺」が問題になりますので、最後にチェックしておきましょう。
細かい判断は裁判でも分かれることがありますが、大まかにまとめると、以下のとおりとなります。
従業員が行うべき業務を怠ったこと、また顧客に金品を勝手に返却したことを理由に会社が一方的に賃金相殺した2つの裁判例では、どちらも全額払いの原則に反すると判断されました(関西精機事件 最二小判 昭31.11.2、日本勧業経済会事件 最大判 昭36.5.31)。
最高裁によると、「生活の基盤たる賃金を労働者に確実に受領させることが全額払いの原則の趣旨なので、この原則には相殺禁止の趣旨も含まれている」ということです。
一方、賃金の過払いを後の賃金から控除することは、時期・方法・金額などからみて従業員の生活の安定を害さなければ許容されます。
また、使い込み金や住宅ローンの返済などで、従業員の同意に基づいて賃金相殺することは、違法ではないとされています。
ただし、どちらも生活の安定を脅かさないよう、従業員にしっかりと説明をして相殺することが重要です。