MENU

【第48回】ハラスメントと業務指導の境界線

【第36回】ハラスメント研修のプラグラムの作り方

目次

はじめに

指導とパワハラの違い

業務上必要かつ相当な範囲は、各社で決める

「強制=パワハラ」なのか

業務上必要かつ相当かを判断する要素

指導に愛情が感じられるか

はじめに

パワハラについては、多くの会社で研修なども行われるようになっています。にもかかわらず、企業からのご相談で多いのは、「どうやって部下を指導したらいいか分かりません」「パワハラと言われそうで叱ることができない」といった上司の悩みです。

今回は、その境界線が非常に悩ましいパワハラと指導について理解を深めていきます。

指導とパワハラの違い

まず、指導とは、企業の業績向上や社員の能力向上を目的として、上司が部下に対して適切な指示など行う行為です。指導は、社員の成長やスキルアップのために欠かせないものであり、上司の重要な職務の一部です。つまり、上司の役割なのです。

一方、パワハラとは、上司による「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」をいいます。

例えば、上司としては指導の「つもり」であっても、この業務上必要かつ相当な範囲を超えると、パワハラとなります。業務上の必要性や相当性というのは客観的に決まるものであって、いくら上司が指導の「つもり」であってもそれは主観でしかありません。

業務上必要かつ相当な範囲は、各社で決める

では、客観的に決まる「業務上必要かつ相当な範囲」ですが、抽象的すぎてこれが上司を悩ませる一因となっています。何をもって「業務上必要かつ相当な範囲」といえるのか、ということです。

この点、厚生労働省のパワハラ防止指針には、「社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指す」とあります。すなわち、当該事業主の、とあるとおり、各会社あるいは各部署それぞれに判断してください、ということです。

これは至極もっともで、厚生労働省(国)が何百万社もある会社について一律に「業務上必要かつ相当な範囲はこれだ」と決めることはできないわけです。よって、業務上必要かつ相当な範囲は、各社ごと、あるいは事案ごとに判断すべきものといえます。

とはいえ、そうは言ってもさすがに指導の域を超えているという類型をまとめたのが、以下のパワハラ6類型といわれるものです。

パワハラの6類型

  1. 身体的な攻撃(暴力や暴言)
  2. 精神的な攻撃(過度な叱責や侮辱)
  3. 人間関係からの切り離し(無視や排除)
  4. 過大な要求(能力を超える仕事の強要)
  5. 過小な要求(仕事を与えない、単純作業ばかりを命じる)
  6. 個の侵害(私的な情報の詮索や暴露)

これらの行為は、業務上の必要性も相当性も欠き、労働者の就業環境を著しく害するため、典型的な「業務上必要かつ相当な範囲」を超えるケースとなっているのです。

「強制=パワハラ」なのか

【事例】
A営業課長は最近部下とのコミュニケーションが不足していると感じていました。そのため、部下を集めて飲み会を企画することにしました。「2か月に1回、第2金曜日の終業後に飲み会をします。原則参加とし、どうしても都合が悪い人は事前に連絡の上不参加もOKとします。」というアナウンスしたところ、部下のBさんが「課長、それってほぼ強制ですよね。パワハラじゃないですか。」と言ってきました。

さて、みなさんはどのように考えますか。

前述したように、指導かパワハラかの境界線は、業務上必要かつ相当な範囲かどうかです。Bさんが言うような「強制かどうか」はあまり関係ありません。なぜなら指導に強制はつきものだからです。

例えば、大切なお客様との面談が相手都合で日程変更になり、急遽翌日になった場合、上司は「○○さんとの面談が明日になったので、すまないが、今日は残業してでも資料を作成してください」という指示を出すことはあるでしょう。この場合、これは強制しているからパワハラだと、ということに対して違和感を覚える人の方が多いのではないでしょうか。

つまり、強制かどうかということではなくて、あくまで業務上の必要性と相当性で判断する姿勢が大切となるのです。

では、必要性から見てみましょう。この点、A課長は部下とのコミュニケーションを深める機会を増やそうとしています。コミュニケーションを深めること自体は業務上の必要性があるといえるでしょう。

次に、その方法として、飲み会は相当といえるでしょうか。コミュニケーションを深める方法には様々ありますが、飲み会もそのひとつではあります。また、原則参加としつつも、欠席も認められているため、方法として相当性はあると考えます。

ただし、不参加の部下に対し不利益を与えたり、A課長が日常ほとんど部下とのコミュニケーションを取らなかったのにいきなり飲み会を企画するような場合、それは相当ではないと判断することになろうかと思います。

業務上必要かつ相当かを判断する要素

業務上の必要性と相当性を判断する要素は次のとおりです。これらを参考に、パワハラにならない指導を行っていただければと思います。

  • 当該言動の目的
  • 当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況
  • 業種・業態
  • 業務の内容・性質
  • 当該言動の態様・頻度・継続性
  • 労働者の属性や心身の状況
  • 行為者との関係性

叱責がダメなわけではありません。指導するためには叱責することも必要です。

例えば、建設現場で危険な行為をしているベテラン社員に対して、「バカヤロウ、何やってんだ!」と声を荒げてしまうこともあるでしょう。これは建設現場という一歩間違うと命の危険がある業種や業務の内容性質が大きく関係してきます。また、新入社員ではなく経験も豊富なベテラン社員に対しての言動ということも要素となってくるでしょう。

このように、上記の各要素を総合的に考慮することがパワハラにならない指導に結びつきます。

指導に愛情が感じられるか

私の経験上、上記の各要素の中で、「行為者との関係性」がポイントだと思っています。

さきほどの「飲み会」事例においても、A課長と部下たちとの関係性が大きくパワハラとの境界に影響してきます。日常からの上司と部下の間でコミュニケーションがとれており、指導の中に愛情を感じることができていれば、パワハラと訴えることはほとんどありません。

愛情という情緒的な言葉を使いましたが、「この人は私のことを一人の人間として大切に扱ってくれている」という思いをもってもらえることが、ここでの愛情の意味です。

上司も人間です。中にはどうしても相性の合わない部下もいるでしょう。それでも、上司と部下は役割であって人間的には対等という意識をもって日頃接することが大切なのです。

まずはお気軽にご相談してみませんか

執筆プロフィール

三谷先生

三谷 文夫 (みたに ふみお)
社会保険労務士/産業カウンセラー
三谷社会保険労務士事務所 代表

中小企業の就業規則・人事制度構築を得意とする社会保険労務士
保有資格:アンガーマネジメントファシリテーター 


1977年大阪府生まれ。兵庫県在住。
慶應義塾大学卒業後、地元兵庫県の有馬温泉旅館でフロントスタッフとして働くも1年で退職し、大学時代から挑戦していた司法試験に再挑戦。25歳頃までアルバイトをしながら試験合格を目指すも断念。その後は転職を繰り返し、営業、販売、事務、接客に携わる。合間に東欧への放浪の旅をしながら気ままに過ごすも、将来に不安を感じてきたところで28歳の時に製造業の総務課に採用していただく。
総務課では社会保険、給与計算などの事務を始め、採用、評価、従業員満足度向上施策、労働組合や地域住民との渉外交渉、労務費の予算作成・実績管理など、幅広い業務に従事。
「従業員が相談しやすい総務スタッフ」を意識して職務に取り組む。また、工場での勤務ということもあって、労働安全衛生の重要性を実感するとともに、労務管理では現場のスタッフとの関係性が大切であることを学ぶ。在職中に社会保険労務士の資格を取得。
2013年、「多くの中小企業経営者に労務管理の大切さを伝えたい」という想いが募り、社会保険労務士事務所を開業し独立。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングは、優しい語り口調も相まって人気がある。また、自身の総務課経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚く、これまでに関与してきた顧客数は60社以上。
労務相談をメインに、クライアント企業にマッチした就業規則の作成、運用のサポートまで行う人事評価制度の構築が得意。その他、メンタルヘルス、承認力、ハラスメント、怒りの感情との付き合い方、健康経営、SDGs等をテーマに、商工会議所、商工会、自治体、PTAその他多数講演。新入社員研修、管理職向け行動力アップ研修等、年間20回以上登壇する企業研修講師でもある。
2020年から関西某私大の非常勤講師。300名の学生に労働法の講義で教鞭をとる。
趣味は喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。ランニング。
家族は、妻と子ども4人、金魚のきんちゃん。

三谷社会保険労務士事務所

カテゴリー

タグ

最近の投稿

月別アーカイブ