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毎週水曜日に掲載している社会保険労務士による記事、第42回は寺島先生(寺島戦略社会保険労務士事務所 代表)による解説です。
令和4年10月から出生時育児休業(産後パパ育休)の制度が新設されました。これにより休業期間中の雇用保険における育児休業給付金は、「出生時育児休業給付金」と「通常の育児休業給付金」の2種類が存在しています。
本記事では、これらの違いについて詳しく解説します。
男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、令和4年10月から出生時育児休業(産後パパ育休)の制度が新設されました。これにより休業期間中の雇用保険における育児休業給付金は、「出生時育児休業給付金」と「通常の育児休業給付金」の2種類が存在し、要件によって申請する給付金が異なることになります。
実務においてそれぞれの給付金の違いが分かりづらいといった声を聞くことも多いため、今回は出生時育児休業給付金をメインに通常の育児休業給付金との相違点について解説します!
雇用保険の被保険者が1歳(両親が取得する場合は1歳2か月。保育所に入所できないなどの場合には最長2歳)に満たない子を養育するために育児休業をした場合に、一定の要件を満たすと休業中の経済的支援として、育児休業給付金の支給を受けることができます。
育児休業給付金及び出生時育児休業給付金の支給日数の合計が180日までは休業開始時賃金月額の67%相当額、それ以降は50%相当額が支給されます。なお、出生時育児休業給付金は休業開始時賃金月額の67%相当額が支給されます。
出生時育児休業とは「産後パパ育休」とも言われていますが、子どもの出生後8週間内に合計4週間(28日)まで育児休業の取得ができる制度です。この4週間は2回に分割して取得することも4週連続で取得することも可能です。また、4週取得後にそのまま通常の育児休業を取得することも可能です。
なお、対象者は産後休業を取得していない男女労働者となります。つまり基本的には男性が対象となるものの、養子の場合は女性も対象になり得ます。具体的な取得イメージは以下イラストも参照ください。
出生時育児休業を取得し、雇用保険の被保険者が次の要件を満たす場合には「出生時育児休業給付金」の支給を受けることができます。
(1)子の出生日から起算して8週間を経過する日の翌日までの期間内に4週間(28日)以内の期間を定めて、当該子を養育するための産後パパ育休(出生時育児休業)を取得した被保険者であること
(2)休業開始日前2年間に雇用保険に加入し、賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の)完全月が12か月以上あることが必要です。そして、過去に基本手当の受給資格の決定を受けたことがある場合はそれ以降のものに限ります。端的に言えば、自社だけで雇用保険加入後に1年経過しているか、自社で1年未満の場合は前職期間を通算して上述した要件を満たせるかがポイントとなりますが、前職離職後に失業給付等を受給するために「受給資格を得た」つまり受給資格決定通知が発出された場合は、前職の雇用保険加入期間がリセットとなるため通算ができなくなります。その他にも、前職と現在の職場の間に1年以上の空白期間(雇用保険非加入の期間)がある場合なども前職との期間を通算できないためご留意ください。
(3)休業期間中の就業日数が、最大10日(10日を超える場合は就業した時間数が80時間)以下であることが必要です。なお、「最大10日」は28日間の休業を取得した場合の日数・時間となり、休業期間が28日間より短い場合は、その日数に比例して短くなります。
※出生時育児休業期間中でも、労使協定があれば働くことができます。
さらに期間を定めて雇用される方の場合は、上記に加えて
(4)原則、子の出生日から起算して8週間を経過する日の翌日から6か月を経過する日までに、その労働契約の期間が満了することが明らかでないこと
の要件を満たす場合に支給されます。
特に(2)の要件に該当せずに、給付金が受給できないケースは多いと考えます。特に男性の場合は、女性のように妊娠期間を経ないので、入社まもなく出生時育児休業や通常の育児休業を取得したいといった申出がなされることも十分にあり得ます。
こうした場合、労使協定があれば、入社1年未満の労働者からの申出を拒むことはできますが、仮に特例として申出を認める場合、自社のみで被保険者期間が12ヶ月カウントできない場合は上述したように前職期間との通算ができるかどうか、前職と期間を通算した後に要件を満たしているかどうかが受給可否のポイントとなります。
なお、前職との期間通算ができるか不明の場合は、前職の離職票原本を本人が手元に持っているか確認するとよいでしょう。少なくとも離職票の原本を手元に持っていれば「受給資格決定は受けていない」可能性が高いと考えられます。
ただし、最終的に受給できるか否か、支給決定を行うのはハローワークですので、必ず受給できるといった確定的なことを人事担当者から伝えるとトラブルとなる可能性もあるため避けるようにしましょう。
出生時育児休業給付金の申請はいつまでに行えばよいのでしょうか。
申請自体は、子の出生日(出産予定日前に子が出生した場合は出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日から申請可能となり、当該日から起算して2か月を経過する日の属する月の末日までに「育児休業給付受給資格確認票・出生時育児休業給付金支給申請書」を事業所の管轄のハローワークに提出する必要があります。
なお、出生時育児休業は、同一の子について2回に分割して取得できますが、この場合も申請は1回にまとめて行います。
出生時育児休業給付金の支給額はどのように計算するのでしょうか。
「支給額 = 休業開始時賃金日額 × 休業期間の日数(28日が上限)× 67%」として計算を行います。休業開始時賃金日額とは端的に言うと育児休業開始前の直近6ヶ月に支払われた賃金の総額を180で除した額となります。
なお、出生児育児休業期間を対象として事業主から賃金が支払われた場合は以下のように支給されます。
①事業主から「休業開始時賃金日額×休業期間の日数」 の13%以下の賃金が支給
⇒休業開始時賃金日額×休業期間の日数×67% (満額支給)
②事業主から「休業開始時賃金日額×休業期間の日数」 の13%超~80%未満の支給
⇒休業開始時賃金日額×休業期間の日数×80%ー賃金額 (減額支給)
③事業主から「休業開始時賃金日額×休業期間の日数」 の80%以上
⇒支給されません
つまり、出生時育児休業給付金を受給するためには、事業主から支給される賃金とハローワークから支給される給付金の合計を80%未満にする必要があることになります。
育児休業と出生時育児休業の相違点は以下の3点です。
通常の育児休業の場合は、あくまで育児を目的とした休業であるため、原則として就労することは不可とされております。その一方出生時育児休業は労使協定を締結することによって、労働者が合意した範囲で休業中に就労することが可能となっています。通常の育児休業では社員研修等あくまでも臨時的な事由に限りスポット的な就労しか認められていませんが、出生時育児休業中は事前に曜日や時間を指定して就労する時間を取り決めることが可能となっています。
通常の育児休業の場合は、休業開始の1ヶ月前が申出期限ですが、出生時育児休業の場合は、休業開始の2週間前までとなっています。ただし。所定の雇用環境整備の措置を全て行い、労使協定を締結した場合に限り通常の育児休業と同様、休業開始の1ヶ月前までとすることができます。
会社としては業務の都合上早めに申出があった方が都合が良いのですが、出生時育児休業については期限が短いため労働者が申出しやすくなっています。
通常の育児休業の場合は、休業1回毎に申出できそれぞれ1カ月前までが申出期限となっていますが、出生時育児休業の場合は、2回分の休業取得の申出をまとめて1回目に行う必要があります。
育児休業と出生時育児休業の相違点は前述の通りですが、育児休業給付金と出生時育児休業給付金についての相違点は以下の2点です。
出生時育児休業給付金については、「出生時育児休業期間を対象とした賃金の取扱い」について、以下のように定めています。
「出生時育児休業期間を対象として事業主から支払われた賃金」とは、出生時育児休業期間を含む賃金月分として支払われた賃金のうち、「出生時育児休業期間に就労等した日数・時間に応じて支払われた額」をいいます。この額には、就労した場合の賃金のほか、出生時育児休業期間に応じて支払われる手当等を含みます。なお、通勤手当、家族手当、資格等に応じた手当等が、就労等した日数・時間にかかわらず一定額が支払われている場合は含みません。つまり、出生時育児休業給付金は、休業期間中に実際に就労した時間等に応じた賃金額を厳密に記載することになります。
一方で、通常の育児休業給付金の場合の「育児休業期間を対象として事業主から支払われた賃金」とは、原則「支給単位期間中に支払日のある給与・手当等の賃金総額」と定められています。つまり、出生時育児休業給付金は期間中の実際の労働に対する賃金を記載するに対し、通常の育児休業給付金は期間中の就労に関わらず、支給単位期間中に支払日がある場合にその支払日に育児休業期間を対象とした賃金がある場合に記載することになります。
なお、育児休業給付金の初回申請の最初の支給単位期間において、一部分でも育児休業期間外を対象とするような給与・手当等や対象期間が不明確な給与・手当等は賃金に含めず、育児休業期間中を対象としていることが明確な給与・手当等のみ含めることになっています。
出生時育児休業給付金は支給対象期間中、最大10日(10日を超える場合は80時間)まで就業することが可能ですが、休業期間が28日間より短い場合は、その日数に比例して短くなります。例えば14日間の休業の場合は、最大5日(5日を超える場合は40時間)までは就労でき、出生時育児休業給付金の受給要件を満たします。
一方、育児休業給付金の場合、育児休業を開始した日から起算した1か月ごとの期間のうちに就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下である必要がありますが、支給単位期間が1か月に満たない場合も、就業日数が10日または80時間以下かどうかで判断されます。
育児休業と出生時育児休業、育児休業給付金と出生時育児休業給付金の細かな違いはありますが、出生時育児休業を取得後に通常の育児休業を取得しても、最初から通常の育児休業を取得することも可能です。
ただし、出生時育児休業についても分割が可能であるため、こまかく分割して取得したい場合は、出生時育児休業の後育児休業を取得した方が良いと考えます。
いかがでしたでしょうか。
出生時育児休業は、男性の育児休業取得促進のために男性の育児休業取得ニーズが高いお子さんの出生直後の時期に、これまでの育児休業よりも柔軟でかつ、休業を取得しやすい枠組みとして設けられています。育児に夫婦がどのように参加し、仕事と両立するのかよく相談し、上手に制度を活用できるようにお役立ていただければ幸いです。
また、令和7年4月からは被保険者と配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合に最大28日間、給付を拡大し手取りを10割相当へ引き上げるなど、より育児休業を取得しやすくするための支援策として、育児介護休業法の大きな改正も予定されています。改正内容の確認、自社の就業規則の改定や従業員への適切なアナウンスなど、改正にあたっての準備も忘れないようにしましょう。
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士
一橋大学商学部卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2023年11月16日に、弊所社労士大川との共著書「意外に知らない?!最新 働き方のルールブック」(アニモ出版)が発売されました。