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【第34回】パートの雇用保険加入要件と適用拡大を解説

【第34回】パートの雇用保険加入要件と適用拡大を解説

毎週水曜日に掲載している社会保険労務士による記事、第34回目は寺島先生(寺島戦略社会保険労務士事務所 代表)による解説です

2024年10月からのパート・アルバイトの社会保険適用範囲拡大に向けて、改正雇用保険法が2024年5月に可決されました。本記事では、その具体的な内容について解説いたします。

目次

はじめに

適用事業所

原則の被保険者要件

雇用保険の給付

雇用保険料率

雇用保険の適用拡大

教育訓練やリスキリング支援の充実

おわりに

はじめに

2024年10月よりパート・アルバイトの方の社会保険(厚生年金保険・健康保険)適用が拡大されることが注目されていますが、雇用保険の適用拡大について盛り込まれた改正雇用保険法が2024年5月に可決されました。今回はパートの雇用保険加入要件と適用拡大について社会保険労務士が解説します!

適用事業所

雇用保険は事業所単位で適用され、1人でも適用要件に該当する労働者を雇っている事業所は適用事業所になります。社会保険は同一の企業で本社、支店等複数の適用事業所がある場合は、人事管理等を行っている事業所、つまり本社等において適用することになっています。それに対し、労働保険(労災保険・雇用保険)については本社、支店それぞれが適用事業所となり、労働保険事務についても本社、支店それぞれで行うことになります。

ただし、本社・支社の事業主や事業の種類が同じであるといった一定の要件を満たす場合、本社等で一括して労働保険の事務を取り扱うことができます。

原則の被保険者要件

適用事業所に使用され、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、且つ、同一の事業主に引き続き31日以上雇用される見込みがある場合は、原則として雇用保険の被保険者となります。この週所定労働時間については、雇用契約書や労働条件通知書に記載されたものが基準となります。

また、雇用保険制度は、労働者が失業したり、雇用の継続が困難になったりした場合に、労働者の生活や雇用の安定、就職促進のために給付を行うことを目的とする制度であるため、社会保険では被保険者となっていた代表取締役等の役員や、アルバイトの昼間学生については、雇用保険制度では被保険者から除外されます。

雇用保険の給付

雇用保険の給付は基本手当(いわゆる失業手当)がよく知られておりますが、基本手当や、教育訓練給付、高年齢雇用継続給付といった求職者給付、育児休業給付、雇用保険二事業の大きくわけて三つの給付があります。求職者給付と育児介護休業給付は労働者のための給付で、雇用の継続や再就職の促進を目的としています。

その一方、雇用保険二事業は失業の予防や雇用機会の増大、労働者の能力開発を目的とした助成金等、事業主に対する支援のことをいいます。

雇用保険料率

社会保険料は事業主と被保険者が折半しますが、雇用保険料は被保険者負担分より事業主の方が多く負担します。

なぜなら、求職者給付や育児休業給付に対応する保険料は事業主と被保険者が折半しますが、雇用保険二事業に関する保険料は事業主だけが負担するからです。

また、保険料率も社会保険に比べて高くありません。例えば、東京都で協会けんぽに加入している場合、健康保険の保険料率は、9.98%(事業主負担分4.99%・被保険者負担分4.99%)、厚生年金保険の保険料率は18.3%(事業主負担分9.15%・被保険者負担分9.15%)ですが、雇用保険の保険料は一般の事業の場合1.55%(事業主負担分0.95%・被保険者負担分0.6%)です。

雇用保険の適用拡大

2024年5月10日に改正雇用保険法が可決され、①雇用保険の適用拡大、②教育訓練やリスキリング支援の充実などの措置が講じられます。

特に①雇用保険の適用拡大については、被保険者要件のうち週所定労働時間については現在「20時間以上」とされていますが、改正により「10時間以上」となります。2022年度末の段階で被保険者が4,457万人であるのに対し、新たに雇用保険の加入対象となる労働者数が約506万人と見込まれます。2023年度において、週所定労働時間20時間未満で働く労働者数が約734万人ですので、そのうちの506万人が新たに雇用保険に加入することになればその影響はかなり大きいことが予想されます。(総務省「労働力調査」)

加入要件のうち週所定20時間が10時間に変更になることにより、週所定20時間を基準に設定されている基準が現行の1/2になります。

①基本手当や育児休業給付における被保険者期間の算定基準の改正

現行では賃金の支払基礎となった日数が11日以上又は労働時間が80時間以上ある月を1ヶ月とカウントしていますが、改正により賃金支払基礎となった日数が6日以上又は労働時間が40時間以上ある月を1ヶ月とカウントします。

②失業認定基準の改正

現行では失業認定において、労働した場合であっても1日の労働時間が4時間未満の場合はその日を失業日と認定していますが、改正により労働した場合であっても1日の労働時間が2時間未満の場合はその日を失業日と認定します。

➂法定の賃金日額の下限額と最低賃金日額の改正

基本手当日額は離職した日の直前6ヶ月に毎月支払われた賃金から算出した金額である「賃金日額」に基づいて算定されますが、その賃金日額の下限額と、最低賃金日額の基準が現行の1/2に改正されます。

雇用保険の適用拡大については2028年10月1日から施行されます。

教育訓練やリスキリング支援の充実

令和6年の改正によって、雇用保険の適応拡大だけでなく、教育訓練やリスキリング支援についても見直しが行われました。

①基本手当(いわゆる失業手当)を受給する際、自己都合退職をした者は、待期満了の翌日から原則2か月(5年以内に2回を超える場合は3か月)の給付制限期間があります。この給付制限期間について、通達の改正により原則の給付制限期間が2か月から1ヶ月(5年以内に3回以上の自己都合退職をした場合は3か月)に短縮されます。

さらに、離職期間中や離職日前1ヶ月以内に、労働者自ら教育訓練を行った場合は、自己都合退職であっても給付制限が解除されます。この改正は、2025年4月1日から施行されます。

②雇用保険の加入期間が1年以上ある雇用保険被保険者は、スキルアップのため厚生労働大臣が指定した教育訓練を受講修了した場合、その費用の一部が支給される教育訓練給付金ですが、現在は受講費用の70%が給付率の上限とされています。改正により受講後資格取得したり、賃金が上昇したりした場合、さらに受講費用の10%が追加支給されます。これは2024年10月1日から施行されます。

➂現状は労働者が自発的に教育訓練に専念するために休職等した場合、その訓練期間中の生活費の保障はありませんが、雇用保険の被保険者期間が5年以上ある雇用保険の被保険者が教育訓練のための無給休暇を取得した場合、基本手当に相当する給付として、賃金の一定割合を支給する教育訓練休暇給付金が創設されます。この給付金の創設については2025年10月1日に施行されます。

おわりに

各改正の施行まではまだ数年ありますが、雇用保険の適用拡大によってパート労働者の雇用のセーフティーネットの構築が進むと考えられます。その反面、社会保険の適用拡大とあわせて、事業主の保険料負担はますます増加することが予想されます。

また、これまで税金の扶養範囲内、社会保険の扶養範囲内、雇用保険の加入要件を満たさない範囲内で働いていたパート労働者にとっては、改めて労働時間や労働日数を見直す必要がでてくるでしょう。企業や労働者にとって雇用保険料が増えることは負担増ではありますが、新たに受け取れる給付が増えるとともに、教育訓練給付や助成金の活用の幅も増えるという一面もあります。

雇用保険制度をさらに活用しながら働き方や労働環境・労働条件を見直すきっかけとなれば幸いです。

執筆者プロフィール

寺島先生

寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士

一橋大学商学部卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

寺島戦略社会保険労務士事務所

2023年11月16日に、弊所社労士大川との共著書「意外に知らない?!最新 働き方のルールブック」(アニモ出版)が発売されました。

 

 

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