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社会保険労務士による労務解説記事が毎月3回(第1.2.3水曜日)にUPされます。
第13回目は社会保険労務士三谷先生(三谷社会保険労務士事務所代表)による解説です。
厚生労働省の定期監督等実施状況・法違反状況のデータによると、令和3年度では労働基準法に違反していた事業所83,212社のうち、「労働時間」に関する違反18,007社、「割増賃金」に関する違反16,521社という結果となっています。これは「年次有給休暇」9,783件と比べても圧倒的に多い件数であり、労働時間や割増賃金(残業代)に関するトラブルが後を絶たない状況ともいえます。
このコラムでは、残業代トラブルの2大原因をあげ、それを解消する方法を示すことで残業代トラブルを未然に防ぐポイントを解説します。
残業時間が正確に把握されていないことがトラブルの原因になっていることがあります。
例えば、「残業は月20時間まで。それ以上は仕事をしていても残業としない。」「リモートワークの場合はみなし労働時間なので何時間働いても残業はない」「営業時間後の研修時間は残業ではない」「紙の勤怠表を使っていて、出勤日にハンコを押すだけ」など、本来であれば残業時間とするべき時間をカウントしていなかったり、把握方法が適切でなかったりするパターンです。
このような状況では、従業員にとってはサービス残業となってトラブルとなります。この原因を解消するためには、労働基準法上の「労働時間」を正しく理解し、労働時間の把握方法を見直すことが必要です。
残業代の計算過程での誤りもトラブルの一因です。
例えば、適用される割増賃金率の間違いや、割増賃金単価の算出方法の誤りなどです。給与システムを使用している場合であっても、残業代は残業時間などの数値を入力すると自動で算出してくれますが、そもそもその前提となる割増賃金率などの設定を間違えると、従業員全員の給与に影響を与えてしまいます。
そのため、残業代の計算についても正しい理解をもつことが必要となります。
残業時間を把握するためには、まず「労働時間」とは何かを理解する必要があります。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、客観的に決まります。そのため、会社が「残業時間は月20時間以上まで。それ以上はカウントしません」とアナウンスしていても、客観的に見て指揮命令下に置かれている時間であれば、残業時間となります。
ちなみに、指揮命令というのは、黙示のものも含みます。持ち帰り残業があるのを知っていながら上司が放置していたような場合は、黙示の指揮命令があったといえるでしょう。
また、前述の「研修時間」が、全員受講が義務付けられている場合や研修を受講しないと実質的に不利益を被る場合は、指揮命令下にある時間といえるでしょう。そのため残業時間としてカウントする必要があります。
厚生労働省の『労働時間を適正に把握するために使用者講ずべき措置に関するガイドライン』(以下、「ガイドライン」といいます。)によると、会社は次の方法で、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録することが必要とされています。
ポイントは、これからの方法を用いて、「始業時刻」と「終業時刻」を記録することです。最近では少なくなりましたが、たまに、カレンダーの出勤日に丸印や押印しているだけの出勤簿を見ることがあります。これだと始業時刻も終業時刻も分かりません。上司による現認や従業員の自己申告制など、どのような方法で記録するにしても、必ず時刻で記録するようにしましょう。
さらに、自己申告制はあくまで例外的な扱いとされているため、その運用には注意しましょう。
例えば、会社が「残業時間は月20時間まで」と自己申告できる時間数の上限を設ける等、適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないことが明確に示されています。
残業代は、次のように算出します。
残業代=残業時間数×割増賃金単価
残業時間数は、前述した方法により労働時間に該当する時間を正確に把握します。ここでは、割増賃金単価について解説します。
割増賃金単価は、「1時間当たりの賃金額×割増賃金率」で計算します。
【月給の場合】月給額÷1か月の所定労働時間数
【週給の場合】週給額÷1週間の所定労働時間数
【日給の場合】日給額÷1日の所定労働時間数
【時給の場合】時間給として決まっている金額
なお、月給制で月の所定労働時間数が毎月変動する場合は、月給額を1か月あたりの平均所定労働時間数で割ります。平均所定労働時間数を求めるには、まず年間歴日数(365日)から年間休日数(例えば、120日)を引き、さらに12か月で割ります。こうすると1か月の平均労働日数が出るので、その数に1日の所定労働時間(例えば、8時間)を掛けると、1か月の平均所定労働時間数が算出できます。
(365-120)÷12×8≒163時間
注意する点は、計算の基礎となる賃金は、基本給だけではない、ということです。職務手当や皆勤手当などの手当も含めます。例外的に除外できるは、次の8つだけです。これ以外の手当は全て含めて1時間当たりの賃金額を算出することになります。
割増賃金率は次のとおり法令で定められています。
注意する点は、残業時間が月60時間を超える場合です。2023年4月から中小企業にも適用されることになった割増賃金率です。私が関与した中小企業では、エクセルで給与計算していたところ、割増賃金率を60時間以内と60時間超えで分けず、すべて2割5分で計算していたため、従業員からクレームが来たという話がありました。
給与システムなどを導入していても、手動で料率を変更する必要がある場合等は、60時間超えについて5割以上の割増率になっているか確認が必要です。
私の経験では、残業代トラブルは残業時間の把握が正確にできていないことが圧倒的に多いように感じます。そのため、タイムカードをはじめとする何らかの勤怠管理システムは導入するべきと考えます。客観的なデータがあることで余計なトラブルを回避できることもあります。
同時に、従業員が残業する場合には必ず残業申請書を提出してもらう仕組みを作りましょう。打刻データを基本としながら、残業申請書と照らし合わせて残業時間を把握するようにします。
残業申請書と合わせて、従業員に対しては、残業時間の正しい計測方法や残業代の計算方法あるいは36協定の内容について周知・教育することも効果があります。そもそも、残業は労使間での36協定の範囲内であることが大前提となってるため、残業時間の上限や割増率などを明確に示すことにより、誤解を減らし、トラブルを防ぐことができます。
また、残業代の計算間違いを防ぐためには、1時間当たりの賃金額の算出を法令に沿って行うことです。繰り返しになりますが、月給者の場合、基本給だけで計算している間違ったケースが多いので、除外できる手当の他は、すべて対象となることに注意してください。給与システムであっても、項目欄に正しく入力することが前提となります。
以上、残業時間、残業代を巡っては労働者も関心が高いこともあってトラブルになりやすいです。不明なことがあれば、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
以上
三谷 文夫 (みたに ふみお)
社会保険労務士/産業カウンセラー
三谷社会保険労務士事務所 代表
中小企業の就業規則・人事制度構築を得意とする社会保険労務士
保有資格:アンガーマネジメントファシリテーター
1977年大阪府生まれ。兵庫県在住。
慶應義塾大学卒業後、地元兵庫県の有馬温泉旅館でフロントスタッフとして働くも、1年
で退職し、大学時代から挑戦していた司法試験に再挑戦。25歳頃までアルバイトをしなが
ら試験合格を目指すも断念。その後は、転職を繰り返し、営業、販売、事務、接客に携わ
る。合間に東欧への放浪の旅をしながら、気ままに過ごすも、将来に不安を感じてきたと
ころで、28歳の時に製造業の総務課に採用していただく。
総務課では、社会保険、給与計算などの事務を始め、採用、評価、従業員満足度向上施策、
労働組合や地域住民との渉外交渉、労務費の予算作成・実績管理など、幅広い業務に従事。
「従業員が相談しやすい総務スタッフ」を意識して職務に取り組む。また、工場での勤務
ということもあって、労働安全衛生の重要性を実感するとともに、労務管理では現場のス
タッフとの関係性が大切であることを学ぶ。在職中に社会保険労務士の資格を取得。
2013年、「多くの中小企業経営者に労務管理の大切さを伝えたい」という想いが募り、
社会保険労務士事務所を開業し独立。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重
視したコンサルティングは、優しい語り口調も相まって人気がある。また、自身の総務課
経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚く、これまでに関与してき
た顧客数は60社以上。
労務相談をメインに、クライアント企業にマッチした就業規則の作成、運用のサポートま
で行う人事評価制度の構築が得意。
その他、メンタルヘルス、承認力、ハラスメント、怒りの感情との付き合い方、健康経営、
SDGs等をテーマに、商工会議所、商工会、自治体、PTAその他多数講演。新入社員研修、
管理職向け行動力アップ研修等、年間20回以上登壇する企業研修講師でもある。
2020年から関西某私大の非常勤講師。300名の学生に労働法の講義で教鞭をとる。
趣味は 喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。ランニング。
家族は、妻と子ども4人、金魚のきんちゃん。