BLOG
ブログ
BLOG
ブログ
社会保険労務士による労務解説記事が毎月2回!(第1水曜日と第3水曜日)にUPされます。
第10回目は社会保険労務士三谷先生(三谷社会保険労務士事務所代表)による解説です。
リモートワークは、コロナ禍でやらざるを得ない状況もあって、緊急的に国内企業で一気に導入が進みました。そして、コロナ禍でのリモートワークは、労働者の働き方への意識を大きく変えることになりました。例えば、株式会社学情が実施した「20代の仕事観・転職意識におけるアンケート調査(アフターコロナの転職意向)2023年7月」によると、20代の仕事選びで重視する点について、「勤務形態(出社・テレワーク)」が60%と最多であり、2位の「仕事内容」(48.3%)を大きく引き離しています。つまり、リモートワークは緊急的な働き方から通常の働き方となってきているのです。
この労働者の意識の変化に合わせて、リモートワークに必要なツールは充実してきました。これからは、それらのツールを活用しながら、リモートワークを「やりたいときに選択できる」仕組みへとバージョンアップしていく必要があるでしょう。
今回は、リモートワークを導入するための準備に必要なことを解説します。
なぜリモートワークを導入するのか、目的を明確にしましょう。コロナ禍では、「仕方なく導入した」という企業も多かったでしょう。しかし、これから導入をする場合だけでなく、リモートワークを継続していく場合には、今一度、目的を明確にしておくべきです。
なぜなら、リモートワークの対象者をどうするか、どのツールを利用するか等の判断をする際に目的が明確でないと、従業員間に不公平感などを生む可能性があるからです。
導入目的には、例えば、生産性の向上、働き方改革の一環、人材の採用や定着、事業継続のため、コストダウン、等が考えられます。
業種や職種によっては、「うちでもリモートワークやりたいけど、実際のところリモートワークやってもらう業務がない」という声もよく聞きます。例えば、医療や介護現場で働く人、宅配業者、交通機関従事者などの現場業務です。
しかし、厚生労働省が作成した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます。)では、テレワークに向かないと安易に結論付けるのではなく、管理職側の意識を変えることや、業務遂行の方法の見直しを検討することが望ましい、とされています。
ここで、業務遂行の方法の見直し、が挙げられています。遂行方法の見直しを行うためには、どのような業務を行っているかを見える化しなければなりません。それが業務の棚卸です。業務の棚卸をする際には、次の要素を見える化してみて下さい。
・業務にかかる時間
・必要な書類やデータ
・コミュニケーションの量
・セキュリティリスク
・必要なITツール
(出所:厚生労働省主催令和5年度テレワーク・セミナー「テレワーク実施時の労務管理上の留意点」(P21)より)
これらを見える化することで、現在の業務の中でも、現状でリモートワークを実施できる業務が見つかるかもしれません。
整えるべき制度は、主に、労働時間、費用負担、安全衛生です。
リモートワークを行う従業員の労働時間管理をどのように行うのかを決めます。リアルでの労働時間管理(通常の労働時間制)と同様に行う、フレックスタイム制にする、事業場外みなし労働時間制にする、等労働基準法で定められている各種労働時間制は、すべてリモートワークでも利用できます。
注意点としては、リモートワーク導入時に、新たな労働時間制を導入する場合、就業規則の変更や労使協定の締結などの手続きが必要になる制度があることです。例えば、フレックスタイム制の導入には、就業規則への記載と労使協定の締結、労基署への届出が必要です。
ガイドラインでは、「テレワークを行うことによって労働者に過度の負担が生じることは望ましくない。」とされています。個々の企業ごとに、業務内容、物品の貸与状況等は異なりますので、あらかじめ労使で十分にルールを決めておきましょう。
通信費や水道光熱費は、業務使用分との切り分けが困難であったりします。在宅勤務者負担とすることも可能ですが、その場合には、就業規則への記載が必要となります(労働基準法第89条第5号)。
ちなみに、私の関与先などでは、月額3千円程度のリモートワーク手当(在宅手当)を支給している企業が多いです。その場合には、通勤手当を出社日に応じた実費支給にするなど、工夫しています。
リモートワークの場合、働く場所がオフィスでないだけで、安全衛生に関する規定も適用されます。例えば、在宅勤務中に怪我をした場合には、業務上の災害として労災申請の必要があります。また、リモートワークでは、長時間労働やコミュニケーション不足などがもたらすメンタル不調なども懸念されるところです。
そのため、厚生労働省は、「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト」(事業者用)」を作成しています。このチェクリストは、労働者が安全かつ健康にリモートワークができるように、企業が留意すべき事項を確認できるものです。
ぜひこのチェックリストを活用して、安全衛生への備えも行いましょう。
社内制度とともに、リモートワークを実現する物理的な仕組みとしてIT環境を整える必要があります。導入時に直面する問題として、「会社のPCに入っているデータやソフトをどうやって使うのか」というものがあるのではないでしょうか。この問題を解決する手段としては、リモートデスクトップという手元にあるPCから会社のPCを遠隔操作する方法があります。この方法を使えば、家にいながら会社のPCの前にいるのと同じように業務を行うことができます。
リモートデスクトップには、「シン・テレワークシステム」という独立行政法人情報処理推進機構とNTT東日本が共同で無償提供しているシステムがあります。コロナ禍での実証実験として提供されているものであるため、将来的には廃止となる可能性が高いですが、公式サイトからソフトをダウンロードすることで利用できるため、これからリモートワークを導入する企業にもおすすめです。
リモートワークにはセキュリティリスクが伴います。セキュリティは技術的な準備が効果的ではありますが、それ以外にも従業員への教育が大切です。いくらお金をかけて技術的な対策をしても、結局はそれを利用する従業員の意識や行動が情報の漏洩などに繋がります。
そのため、リモートワークを導入する際には、必ずセキュリティに関する教育も行いましょう。導入後も、定期的に同じ内容であっても教育を行うことが必要です。
私は、リモートワーク「でも」働ける環境が、労働者から選ばれる企業になるための大きなポイントだと考えています。働き方の選択肢が増えることは、ライフワークに合わせた働き方ができることに繋がり、それが魅力ある会社となるのではないでしょうか。
以上
三谷 文夫 (みたに ふみお)
社会保険労務士/産業カウンセラー
三谷社会保険労務士事務所 代表
中小企業の就業規則・人事制度構築を得意とする社会保険労務士
保有資格:アンガーマネジメントファシリテーター
1977年大阪府生まれ。兵庫県在住。
慶應義塾大学卒業後、地元兵庫県の有馬温泉旅館でフロントスタッフとして働くも、1年
で退職し、大学時代から挑戦していた司法試験に再挑戦。25歳頃までアルバイトをしなが
ら試験合格を目指すも断念。その後は、転職を繰り返し、営業、販売、事務、接客に携わ
る。合間に東欧への放浪の旅をしながら、気ままに過ごすも、将来に不安を感じてきたと
ころで、28歳の時に製造業の総務課に採用していただく。
総務課では、社会保険、給与計算などの事務を始め、採用、評価、従業員満足度向上施策、
労働組合や地域住民との渉外交渉、労務費の予算作成・実績管理など、幅広い業務に従事。
「従業員が相談しやすい総務スタッフ」を意識して職務に取り組む。また、工場での勤務
ということもあって、労働安全衛生の重要性を実感するとともに、労務管理では現場のス
タッフとの関係性が大切であることを学ぶ。在職中に社会保険労務士の資格を取得。
2013年、「多くの中小企業経営者に労務管理の大切さを伝えたい」という想いが募り、
社会保険労務士事務所を開業し独立。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重
視したコンサルティングは、優しい語り口調も相まって人気がある。また、自身の総務課
経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚く、これまでに関与してき
た顧客数は60社以上。
労務相談をメインに、クライアント企業にマッチした就業規則の作成、運用のサポートま
で行う人事評価制度の構築が得意。
その他、メンタルヘルス、承認力、ハラスメント、怒りの感情との付き合い方、健康経営、
SDGs等をテーマに、商工会議所、商工会、自治体、PTAその他多数講演。新入社員研修、
管理職向け行動力アップ研修等、年間20回以上登壇する企業研修講師でもある。
2020年から関西某私大の非常勤講師。300名の学生に労働法の講義で教鞭をとる。
趣味は 喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。ランニング。
家族は、妻と子ども4人、金魚のきんちゃん。